2019年のゴルフ界は渋野日向子で一色だった。今年の活躍にも注目が集まる(筆者撮影)

新年を迎えても、ゴルフ界の話題は渋野日向子を中心に動いている。シーズンオフも多忙で、各メディアのスポーツ関連表彰式に出席したり、テレビにも年末のNHK紅白歌合戦のゲスト審査委員や、お正月番組にも数多く出演していた。

更に1月14日にサントリーホールディングスが2020年2月より渋野日向子と所属契約を結ぶことを発表した。渋野は記者会見にサントリー所属の宮里藍と共に登場。「憧れていた宮里藍さんと同じサントリー所属になれてうれしい。子供たちの憧れになるように頑張る」と抱負を述べた。


所属契約に宮里藍と登場した渋野日向子(筆者撮影)

また、サントリーが「AIG全英女子オープン」のOfficial Soft-drink Partnerとなり、6月に開催されるサントリーレディスの優勝者、2位のプロ選手が「AIG全英女子オープン」の出場権を獲得できることになった。

渋野の全英女子オープン優勝をきっかけとして、サントリーのゴルフ界への応援姿勢が明確になったといえる。渋野日向子の優勝は日本を代表するグローバル企業をも動かしたのだ。

クラブ契約先のPINGゴルフの1月21日新商品発表会に渋野は賞金女王の鈴木愛と共に登場し、多くのメディアを集めていた。発表会の後の会見で今年の目標である東京オリンピック出場について「6月末まではアメリカツアーと日本ツアーの両方に出て、しっかり成績を残して選ばれたい」と今年の6月末の発表のオリンピックランキングで上位2位以内を目指すことを表明。


賞金女王の鈴木愛と登場した渋野日向子(筆者撮影)

渋野の今年の初戦はアメリカ・LPGAの「ホンダLPGAタイランド」で、翌週のシンガポールで「HSBC女子チャンピオンズ」を戦ってから国内ツアーの開幕を迎える。

更に、1月23日に日本プロゴルフ殿堂から、海外メジャー全英女子オープンの優勝を評価して特別賞が贈られることが発表された。

特別賞受賞は2013年全米シニアプロ優勝の井戸木鴻樹以来2人目の快挙である。これも、海外メジャーに勝つことがいかに大きなことか、わかるだろう。

渋野日向子全英優勝は2019年ゴルフ界のトップニュース

2019年日本のゴルフ界のトップニュースは、渋野日向子の海外メジャー「AIG全英女子オープン」優勝であることは、衆目の一致するところだ。

海外初遠征で、当然海外メジャー初挑戦の渋野の優勝は誰も想像すらしていなかった。注目はアメリカのLPGAツアーに参戦し、すでに3勝をあげ、日本でも日本女子オープンにすでに2勝している畑岡奈沙がメジャー優勝に最も近いと思われていた。

蓋を開けてみれば、ある意味まったく期待されていなかったノンプレッシャーの渋野が、優勝争いに加わり、笑顔でギャラリーとハイタッチしながらギャラリーをも魅了し、最終日18番でバーディーを決めて樋口久子に続く42年ぶりのメジャー制覇を成し遂げた。その笑顔は現地メディアを味方につけ、ついたあだ名は“the Smiling Cinderella”。

まさにシンデレラストーリーである。


「AIG全英女子オープン」で優勝し帰国会見を開いた渋野日向子(筆者撮影)

渋野日向子はまだまだ新人ではある。2017年のプロテストに落ち、2018年にプロテスト再挑戦で合格し、2018年は下部のステップアップツアーで賞金711万円を獲得した。しかし、LPGAツアーは1試合しか出場できず予選落ちで、獲得賞金は0円であった。

2019年のLPGAツアーに参戦するためのQT(クオリファイングトーナメント)で40位に何とか入り、前半フル参戦のシードは取れていなかった。開幕戦には出場できず、初出場となった2試合目の「ヨコハマタイヤ PRGRレディス」で6位タイ、さらに続く「Tポイント×ENEOSゴルフ」もウェイティングからの出場だったが予選落ちで、次の試合も予選落ち、先行きが危ぶまれていた。

しかし、出場選手が多い日本のメジャー、サロンパスカップに出場でき、ここで初優勝した。


サロンパスカップで優勝した渋野日向子(筆者撮影)

この時の渋野のコメントが「新元号、令和になった実感は少ない。でも、日本人のメジャー優勝は久々です。私で良かったのですか?」と日本のメジャー初優勝に戸惑いが見られた。

この時のコメントはLPGAアワードの「メディア賞・ベストコメント部門」にも選ばれている。その後、7月に行われた資生堂レディスで2勝目をあげたが、それでもツアーではそれほど目立つ存在でなかった。

むしろ畑岡奈沙、勝みなみ、原英莉花などの同じ年代の黄金世代の1人としての扱いであった。そこから、全英女子オープンで世界が変わった。

渋野日向子の経済効果は?

ブレークした渋野日向子の2019年シーズン1年間でどのぐらい賞金を獲得したか。まず、日本のLPGAでの賞金ランキングは鈴木愛に続き2位で、年間4勝で獲得賞金は1億5261万円。さらに、日本の賞金に加算されていないが、全英女子オープン優勝の賞金が67万5000ドル(優勝日8月5日の米ドル為替レート105.35で7111万円)で合計2億2372万円である。昨年のLPGAでの獲得賞金が0円であるから、驚異の伸びだ。


LPGAアワードに出席した渋野日向子、右から2人目(筆者撮影)

また、LPGAアワードの年末表彰で4冠を達成、またGTPAの特別賞など副賞賞金も1000万円以上得ている。また、優勝副賞、年間最優秀選手賞などでベンツ他の車も5台獲得した。

それ以外に、スポンサーからのサポートがある。渋野のスポンサーは前の所属のRSK山陽放送、ミック工業株式会社、株式会社キャンデル、Tポイント・ジャパン、日本航空。用品・用具契約はクラブ:ピンゴルフ、ボール:タイトリスト、ウエア:ビームス、シューズ:ナイキ。

これらの契約先はTポイント、日本航空を除き全英女子オープンの優勝の前に契約しており、とくにスポンサー企業は渋野出身の岡山に関連しているものがほとんどだ。推定であるが、契約金は1社多くて数百万~1000万円、合わせても3000万円程度ではないだろうか。

ただ、用品用具契約は、優勝すればボーナス契約するところもあり、国内4勝、海外メジャー1勝で5000万円以上のボーナスが出たと推定できる。スポンサー関連も1億円程度と推定できる。さらにスポンサーになりたい企業は列をなしているだろう。

また、このオフシーズン正月番組にも多く出演し、これだけ人気となっているので、1本あたりの出演料は100万円以上に高騰していることは間違いない。極めつけに、年末恒例のNHK紅白歌合戦2019年の審査委員に選ばれたことをみてもその人気ぶりがわかる。

賞金と合わせれば3億円以上の稼いだことになる。されにこれからCMのオファーがあるだろうから、受けるか受けないかは別にして、出演料は1本あたり数千万円になるだろう。所属先がRSK山陽放送からサントリーに変わり、これだけの活躍で契約金が高騰していることは想像に難くない。

ゴルフ界への経済効果は?

クラブ契約先のピンゴルフジャパンの岡田健二副社長にゴルフクラブの売り上げを聞いたところ「渋野選手が優勝する前の1〜7月は契約選手の活躍、商品の評価が高く、国内は前年比120%であったが、全英女子オープンで優勝した後は前年の倍以上で、1〜12月で前年比160%であった」という。

金額は公表してもらえなかったが、クラブの売り上げから渋野効果が大きかったことを明言していた。PING(ピン)ゴルフは創業60年で、グローバルでも2019年は過去最高の売り上げを記録した。この売り上げも公表されていないがアメリカの調査会社D&B Hooversによると3億2200万ドル(350億円)と推定されている。日本市場は世界市場の2割程度70億円と推定すると、渋野効果は10〜20億円だろう。ウエアの契約先であるBEAMS GOLFも渋野着用モデルが売り切れるなど、好調だ。

渋野日向子が8月の全英女子オープンに優勝して、女子トーナメントのギャラリー数は急上昇し各試合平均5000人近く増加している。9月開催の国内メジャー日本女子プロゴルフ選手権は過去最高となる4日間3万5719人のギャラリーが来場し、前年比で1万5000人以上増加し、10月の日本女子オープンは4万6165人で前年比2万人以上プラスであった。

年間を通じてみると68万2868人と過去最大を記録した。2018年が55万7374人で、プラス12万5494人増。入場料や飲食、交通費など1人当たり1万円とすると、約12億5000万円の経済効果とみることができる。

さらに渋野が全英女子オープン優勝後、参戦したトーナメントのテレビ視聴率もNEC軽井沢72、ニトリレディス、女子プロ選手権、東海クラシックと昨年に比べ倍以上となっている。

NEC軽井沢での視聴率は4.6%⇒12.3%、最終戦のLPGAチャンピョンシップは4.6%⇒13.6%と3倍の伸びで(トーナメント振興協会調べ 関東地区 日曜日)あった。渋野の出場していない試合は昨年とほぼ変らないので、渋野効果は間違いない。視聴率1%は億単位の価値があるといわれているので、莫大な経済効果である。このフィーバーは女子では宮里藍の登場以来だ。

LPGAのホームページのアクセス数は渋野が優勝する前までは、7000万ページビューが平均であったが、優勝後は1億ページビューを超え、多い月は1億6000万ページビューに達したとのことである。1つの競技のホームページが月間1億ページビューを超えていることは凄いことである。ホームページの価値まで急上昇させたのだ。

渋野日向子ゴルフ界に及ぼす波及効果

渋野は子供好きであることを公言している。全英女子オープンで優勝した後からは、トーナメント会場に子供たちの姿が多く見られるようになった。また、ギャラリーも渋野が出場する試合が確実に増えている。全英女子オープンの時のように、笑いながら、ギャラリーとハイタッチできる状況ではなくなったが、渋野は子供たちからの声かけやサインには笑い顔で応じている。

宮里藍が2003年にアマチュアの高校生でツアー優勝し、プロ入りし女子プロブームが起こった。その宮里藍に憧れて、ゴルフを始めた世代が、まさにいま活躍している渋野日向子、畑岡奈紗に代表される21歳のいわゆる黄金世代である。渋野に憧れ、ゴルフを始める子供たちの中から、第二の渋野日向子が生まれるかもしれない。おおきな波及効果が期待できる。宮里藍と同じサントリー所属になったことも、後押しするだろう。


本にできるよ。と色紙に書いた渋野日向子(筆者撮影)

渋野は年末のLPGAの表彰式の後、記者の「今年を表す言葉は何か?」という問いに対して「本にできるよ。もちろん自分では書けないので誰か書いてください」と周囲を笑わせながら答えた。

まさに、自分自身も想像しなかった、シンデレラストーリーの1年だった。2020年はオリンピックイヤーである。今年の目標に「東京五輪」を上げている。

オリンピックに出場できるゴルフオリンピックランキングは1月30日時点で、畑岡奈紗4位、渋野日向子11位、鈴木愛13位である。15位以内であれば、1か国4名まで出場できる。最終決定は6月30日のランキング。この3名が揃ってオリンピックに出場でき、金メダルを目指してほしい。

(文中一部敬称略)