2019年9月28日に投稿された、次のようなツイートが話題になっている。

写真は、純米吟醸「山本」と書かれた日本酒のラベルのようだ。裏を見ると、原材料に秋田県産の米を使った、秋田の酒のようだ。

「改良信交」とは秋田で生まれた酒造好適米のことだが、お酒の解説は途中から、そのお米の栽培を依頼した一家の話へと展開している。具体的には、次の通りだ。

「弊社では能代市二ツ井のスキー一家としても有名な安井親子に(改良信交の)栽培を委託しています。後から分かったことですが、安井家の長女はバスケットボールが上手だった私の高校の同期生でした」

投稿者は「他に書くことあったのでは?」と突っ込んでいるが...。ちょっとユニークな解説は、いったいなぜだろう?

Jタウンネット編集部が投稿者に問い合わせてみると、「他にも個性的なラベルを多数販売している酒蔵で、とても美味だった」と激賞していた。そこで酒蔵の代表に、直接聞いてみることにした。

「あえて突っ込みどころを用意してます」


ユニークな裏貼りだが、つい読んでしまう。 依澄さん(@_Fons)のツイートより

電話で答えてくれたのは、秋田県の北部、八峰町八森にある酒蔵・山本合名会社代表の山本友文さんだった。

「お酒の瓶のラベルの裏のことを『裏貼り』と、業界では言うんですが、お客様におもしろがってもらえるような楽しさを重視したいと思っています。
細かい情報は要らないでしょう。とにかく楽しんでほしいのです。あえて突っ込みどころを用意しておくと、お客様と酒販店様の間にコミュニケーションも生まれるのではないかと......」

山本さんのポリシーは、銘柄のネーミングにも表れているようだ。「ツーアウトフルベース」「逆転サヨナラ満塁ホームラン」というお酒のブランドもある。もちろん日本酒の銘柄だ。

「『ツーアウトフルベース』は緊張感があるシャープな切れ味の純米吟醸です。『逆転サヨナラ満塁ホームラン』は思い切り華やかな余韻のある後味の純米大吟醸です。この順番で飲んでいただくのが理想です」


左から純米吟醸「ツーアウトフルベース」、純米大吟醸「逆転サヨナラ満塁ホームラン」(山本合名会社ホームページより)

色にこだわったネーミングもあるそうだ。「ピュアブラック」「ミッドナイトブルー」「ストロベリーレッド」「サンシャインイエロー」など、まさにカラフルなラインナップだ。名前だけ聞いたら、洋酒? カクテル? と勘違いしそうだが、れっきとした純米吟醸である。


新商品の純米吟醸ターコイズ・ブルー。 依澄さん(@_Fons)のツイートより

山本さんの酒造りの基本方針は何ですか? と聞いてみた。

「10数年やってきて、白神山地の湧き水の仕込み水、秋田産の酒造好適米などを使い込んでみて、ここ数年は、香りは控えめで、ジューシーで、飲んだ後の切れ味がシャープな酒ですかね。あと味のきれいさを出すことに落ち着いてきましたね。これがうちの酒なんだってね。それ以外を求められたら、他の蔵の酒をお勧めしますね。秋田には美味い酒いっぱいありますから...」

山本さんの酒造りには、そのユニークな経歴も影響しているのかもしれない。アメリカの大学に5年以上留学し、帰国後は音楽制作プロダクションに長く勤務していたという。「お酒は楽しんでもらえばそれでいいんだ」という言葉に深みが感じられた。