9月下旬にフィットビットの新製品が日本で発売される(撮影:尾形文繁)

腕時計型端末「スマートウォッチ」の品ぞろえが充実してきた。最も有名で売れているのはアメリカのアップルが展開する「アップルウォッチ」だが、女性からじわりと人気を集めているのが同じくアメリカのフィットビットだ。日本ではまだメジャーとはいえないブランドだが、欧米では人気が高く、日本でも9月24日に主力となる新製品を投入し、知名度向上に躍起だ。

スマートウォッチは、手持ちのスマートフォンと連携してLINEやメールの通知、電話の着信を腕時計の画面で確認できるのが基本機能で、スマホをいちいちバッグなどから取り出すわずらわしさがない。スマホのように指で画面操作もでき、自分で好きなアプリを追加できるなど利便性が高い。

「睡眠」に特化して差別化をアピール

アップルやサムスンなど大手企業が多彩な高機能で競う中、フィットビットが特徴的なのは機能を「睡眠」に特化して攻勢をかけている点だ。

新製品発表に合わせて9月11日に都内で記者会見したフィットビットのスティーブ・モーリー副社長兼アジア太平洋地域事業部長は「みなさんを健康にするのがわれわれのミッション。健康・フィットネス系スマートウォッチでのリーダーはわれわれだ。世界中で睡眠時間の膨大なデータを日々収集しており、新製品やサービスに役立てている」と意気込んだ。


フィットビットの新商品(撮影:尾形文繁)

この日発表した新製品は「Fitbit Versa2(フィットビット ヴァーサ2)」。価格は通常モデルが2万6990円(税込み)、予備のベルトなどが付いたスペシャルエディションが3万1800円(同)で、9月24日からアマゾンなどECサイトのほか、ビックカメラなどの量販店でも発売する。

9月11日から先行予約を開始しており、ある販売代理店関係者は「受注の出足は想定より好調だ。スマートウォッチが日本でも関心を呼び始めているのではないか」と喜ぶ。

ヴァーサ2は、腕に装着したまま布団に入れば、就寝したかどうかを自動判断して、起床するまでの間に、睡眠時間や心拍数、寝返り回数などのデータを収集・分析し、睡眠スコア(0〜100)を算出する。


フィットビットのアプリでは各睡眠ステージの合計時間がわかるようになっている(画像:フィットビットのアプリから引用)

人が寝ている間に繰り返す「目覚めた状態」「レム睡眠」「浅い睡眠」「深い睡眠」の各時間を表示し、性別や同世代の平均、過去の自分と比べるなどその日の睡眠状態がどうだったかをチェックでき、健康管理に役立てられるのが特徴だ。

今後は機械学習を利用して事前設定した30分の間隔を基に、睡眠サイクルの中で起床するのに最適な時間(浅い睡眠かレム睡眠中)に起床を促し目覚めをよくする「スマートウェイク」機能を追加する考えだ。また、血液中の酸素レベルの変異の推定値を提供する「推定酸素偏差グラフ」も実装し、睡眠中の呼吸変異をグラフで可視化する予定のほか、健康改善に向けた有償によるサービスも検討している。

2700万人のアクティブユーザー

フィットビットはもともと歩数など活動量計を得意とするアメリカ生まれのスタートアップ企業だ。ウエアラブル端末の先駆けともいえ、日本ではソフトバンクが2013年に取り扱いを開始して、一部のファンから人気が高まった。

アクティブユーザーは世界に2700万人おり、105億件以上という大量の睡眠時間データを蓄積して得られた知見を活用し、さらにデータ分析の精度を上げている。

ただ最近は世界的にアップルウォッチなどライバルのスマートウォッチに押されて苦戦気味だ。スマートウォッチの代理店関係者は「運動が得意でアクティブな人はガーミンやスント、アップルはアップル好きでガジェット好きな人、フィットビットは健康を意識し始めた初心者が購入の選択肢になる。そんな中、アップルも初心者を意識した活動量計などを強化しており、バッティングが始まっている」と分析する。

もっとも日本はこうしたスマートウォッチ自体の普及が世界に比べて遅れている。モーリー副社長は「日本人は腕時計をつける率は高いが、エレガント系を好む傾向にあった。一方でテクノロジー系のスマートウォッチをどこでも使うのに抵抗感がある人が多い」と分析する。

そのうえで、「最近は各社の商品バラエティが増えて抵抗感がなくなっている人が多い。小売店でも扱いが増えて自然につけている人が増えている」(モーリー副社長)として、日本市場の潜在力の高さに注目する。

成長のカギを握る「女性」と「法人」

フィットビットが日本で特に狙っているのが「女性」と「法人」だ。女性向けには生理周期から女性の健康状態をみるトラッキング機能を提供するほか、法人向けにも健康を軸に攻勢をかけている。

損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険や三菱ケミカル、電通など100社以上がフィットビットの端末を導入。各企業は端末から取得したデータを従業員の健康診断結果や勤怠記録と結びつけて、健康維持につなげようとしている。


フィットビットのスティーブ・モーリー副社長は「今後の成長率を見ると、日本は非常に高い」と強調する(撮影:尾形文繁)

モーリー副社長は「健康経営を推進し、ヘルスケアコストを削減しようとしている大企業が特に日本では多い。世界でもこんなに興味を示している企業はない」と驚く。

背景にはデータに裏付けられた特異な日本市場がある。フィットビットによると、睡眠時間は主要世界18カ国で最低となる平均6時間47分、平均就寝時間も午前0時で最も遅い結果という。また記憶を処理する時間とされるレム睡眠の時間も77分と最低レベルで、“不健康予備軍”が多い。

モーリー副社長は「車は複数のセンサーがついて故障の有無がチェックされているように、人間の健康もコンスタントに確認できるデバイスを手頃な価格で提供したい。そして5年後に振り返ってフィットビットのデバイスが毎日モニターされる当たり前の世界にしたい」と語る。健康を軸にしたスマートウォッチ競争が激しくなる中、フィットビットは生き残れるか。