生きる上で避けられない支出「食費」を巡って、ネットで議論が起きている。発端は7月31日放送の「news zero」(日本テレビ)で取り上げられた都内で働く30代単身男性の家計状況だ。多い時で月180時間の残業、手取りは23万円という男性は、「買いたいものも買えない。洗濯機が壊れてしまったが、今はコインランドリーを使っている」と、窮状を訴えていた。

しかし、男性の食費が月々4万円だと分かると、ネットでは「高すぎる」と多くの批判が上がった。4万円を30日で割ると1日あたり約1300円だ。三食きちんと食べようとすれば、必要な額のようにも見える。

35歳未満、単身世帯の食費平均は3万9510円


総務省が出した2018年の家計調査報告によると、単身世帯の月々の平均支出は16万2833円、このうち食費は4万4067円だった。2017年の同じ調査でも単身者の平均食費は3万9649円で、毎年4万円前後を推移している。

2017年の報告では、35歳未満、35歳〜59歳、60歳以上の3分類で、それぞれの生活費を出している。35歳未満では、月々の平均支出が15万5808円、食費は3万9510円と、やはり番組に出た男性の食費とほぼ変わらない。

健康で文化的な最低限度の生活を送るには、食費4万円は必要、という試算もある。全労連はこれまで、各地の25歳単身男性を想定した「最低生計費試算調査」を行ってきた。これによると、秋田県秋田市、福島県福島市、愛知県名古屋市、香川県高松市など、地域に関わらず食費は約4万円前後と試算されていた。東北では、青森県を除く5県で、必要とされる食費は4万円を超えていた。

例えば、さいたま市の試算では、朝食は家でパンと牛乳などを摂るものとし、昼食はコンビニ500円の弁当を購入すると想定している。夕食は家で食べる。25歳の成人男性が1日に必要なカロリーの90%を食事、10%を嗜好品で賄うとすると、日々の食費は958.69円だ。これに日々の弁当代や会食分、食費上昇分などを考慮し、必要とされた月々の食費が3万8610円だった。

ネットでは「あんまり食わない俺でも月3万は超える」「食費4万じゃ足りないよ」という声もあった。ちなみに、編集部の30代男性は、自身の食費について「自分は朝食を摂らないが、それでも月4万円は確実に超える。多い時は6万円くらいかかるときもある」と話している。30代単身男性で食費4万円は、特別高い額ではないようだ。

努力や工夫で食費を抑えるのは「当然そうすべき」ことなのか

とはいえ、単身世帯の食費4万円に「高すぎる」という声が噴出したのも理解出来る。主婦を対象とする生活情報誌ではほぼ毎月、「食費をいかに抑えるか」という視点で組まれた特集やレシピが掲載される。子どもが複数人いて、実家から食料の援助もないのに月々の食費が4万円台、という読者が紹介されていることもある。

こうした特集やレシピでは、もやしや鶏胸肉といった安い食材だけ使っていたり、調味料を手作りしていたり、揚げ物でかさ増ししていることも多い。残業を180時間している人に、「肉は高いから」と豆腐ハンバーグを手作りするような余裕は、精神的にも肉体的にもないだろう。

自炊や節約で食費を抑えられる人は確かに素晴らしい。しかし、そうして実現させた安い食費を最初からそうあるべき額として考え、そうでない人を「贅沢」と言うのはどうなのだろうか。食費4万円を当然のように「高い」と言う人の多さからは、日本の余裕のなさが垣間見える。