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ドイツの技術者であるカール・ベンツは1880年代半ばごろ、改良した自転車にガソリンエンジンを組み合わせ、世に送り出した。これが世界で初となる商用の「自動車」が誕生した瞬間である。そして、彼がエンジンの製造ライセンスをほかの業者に付与したことが、自動車メーカーの勃興を後押しすることになった。

彼が設立したベンツ&シー・ライニッシェ・ガスモトーレン・ファブリークの競合企業だったダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフトは、フランスのパナール・ルヴァッソールにライセンスを供与した。また、米国ではダッジ・ブラザーズが、オールズモビルにエンジンとトランスミッションを提供したのだ。

こうして5,000あまりの自動車メーカーが、20世紀の中ごろまでに台頭した。ベンツのようにクルマを一から手がけるメーカーもあれば、他社が製造した部品を組み立てて生産する企業もあった。その数は合併によって徐々に減っていき、いま知られているほんのひと握りにまで縮小した。

そして自動車産業は、新たな勃興期を再び迎えつつある。電動化、自動運転、コネクティヴィティの分野における技術革命がほぼそろって起きているおかげで、交通のあり方が新興企業の手によって180度変えられようとしているのだ。

かつてのベンツを思わせる戦略

電気自動車(EV)の新興メーカーであるリヴィアンを例に見てみよう。RJ・スカリンジによってフロリダで2009年に設立されたこの企業は、ガソリン1ガロンあたり60マイル(1リットルあたり約25km)の燃費で走れるハイブリッドカーの生産を当初は目指していた。

EVの生産へと舵を切ったのは、11年のことだ。社名を創業時のメインストリーム・モーターズ(Mainstream Motors)から変更した数年後、ミシガンに拠点を移した。

スカリンジが描いているビジネスモデルには、かつてのベンツがとったような戦略が見てとれる。リヴィアンは、「スケートボード」と名付けた完全電気駆動のパワートレインを、ほかの自動車メーカーに販売するつもりなのだ。

さらに、高級市場に照準を合わせたピックアップトラックの製造に加え、ゆくゆくはサブスクリプション方式の所有モデル(そこではインターネットに接続された自律走行トラックやSUVが、顧客の要望に合わせて提供される)の展開を見据えている。

リヴィアンが構える5拠点では、約750名の従業員が働く。カリフォルニア州アーヴァインではバッテリーの設計、シリコンヴァレーでは車体中枢部のプログラミング、英国では車体の設計を手がけている。またリヴィアンは、同社初となる完全電気駆動のふたつのモデルを18年のロサンジェルス・オートショーで発表した。フルサイズピックアップトラックと、ラグジュアリーSUVである。

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市場に渦巻く、3つの新しいテクノロジー

新たな自動車サプライチェーンを構成する企業は、何百とある。リヴィアンもそのひとつだ。そこでは新旧の企業が混在し、クルマを丸ごと生産するところもあれば、バッテリー駆動のドライヴトレインやレーザーセンサーを生産するところもある。また、人工知能(AI)を取り入れたコンピューターの中枢部分を手がけるところもあるだろう。

「3つの新しい技術がそろって市場に影響を与えています。これが規模の大きさにかかわらず、さまざまな企業が独自の専門分野を見つけるために市場に参入している現状を生み出しました」。自動車価格情報サイトの「ケリー・ブルー・ブック」と「オート・トレーダー」のエグゼクティヴ・パブリッシャーであるカール・ブラウアーは、そう語る。

フォルクスワーゲン(VW)のような企業がけん引するこの業界では、EV技術に今後5〜10年で3,000億ドル(約32兆4,800億円)が投資されるだろうと、ロイター通信は19年1月に予測している。「注視すべき本当に大切な点は、主要な企業が新興企業とパートナーシップをいくつ結んでいるかということです」とブラウアーは話す。

ゼネラル・モーターズ(GM)は、自律走行車を手がけるクルーズを16年に買収している。この出来事は、クルーズがシリコンヴァレーの老舗インキュベーターであるYコンビネーターのスタートアップ養成スクールを卒業後、2年もたたないうちに起こった。

トヨタは、AIやロボティクス、データ、クラウドなどの技術に投資するヴェンチャーキャピタルファンドを17年に立ち上げている。ルノー・日産・三菱アライアンスはその翌年に、クルマ関連の幅広い分野、つまり電動化、自動運転、コネクティヴィティを担うスタートアップに資金提供するため、最大10億ドル(約1,100億円)をファンドに割り当てた。アルファベット、Uber、シスコといったテクノロジー大手各社も、次世代型のクルマの技術開発を進めている。

アップルには、テスラやフィアット・クライスラー、メルセデス・ベンツから従業員を引き抜いたと噂されるミステリアスな自動車部門「Project Titan」がある。そしてアマゾンは、リヴィアンに対して7億ドル(約765億円)を19年2月に投資した。自動車業界における人気のスタートアップとして、リヴィアンという小さな企業はテスラと渡り合うだろうとの噂が、瞬く間に広まっていった。

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市場の「突破口」に賭けたトップの座

テスラや日産、そしてほかの大半の大手自動車メーカーが、低価格で長時間走行できるEVの生産に参入するなかで、リヴィアンはこんな突破口を見つけたのだ。電気駆動のラグジュアリートラックを生産している会社は、どこにもない──。

同社のピックアップトラックは6万9,000ドル(約747万円)と、目を見張るほどの高値だ。フォードのオフロード向けピックアップトラック「F-150」の基本価格の倍以上となる。同社はまた長期的な戦略として、サブスクリプション方式の自律走行ピックアックトラック事業も視野に入れている。

電動化、コネクティヴィティ、自動運転をうまく組み合わせる流れのなか、業界で再び統合に向けた競争が生じているいま、リヴィアンの見つけた突破口は、トップの座を勝ち取るためのアイデアなのだ。