ベンツ、BMWが日本で意外に苦戦し始めた事情
国内では輸入車販売が好調の中、メルセデス・ベンツやBMWなどのドイツ車勢が苦戦している(撮影:鈴木紳平、大澤誠)
2008年に約70%だったのが、2018年約64%に低下――。
これは日本でのドイツ車トップ4にして、輸入車トップ4でもあるメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン(VW)、BMW、アウディの輸入車全体の新車販売に占める比率である。日本では輸入車の好調が伝えられる一方、見方によっては1割近くも彼らのシェアは低下しているのだ。
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1月10日、JAIA(日本自動車輸入組合)が発表した2018年12月度輸入車新規登録台数統計によると、輸入車全体の新車販売台数は前年比4.3%という順調な伸びを示したが、外国メーカー製乗用車に限るとその伸びは1.1%にとどまった。
さらにメルセデス・ベンツは前年比1.0%減(6万7531台)、BMWは2.9%減(5万0982台)、アウディは6.6%減(2万6473台)と、意外にも苦戦を強いられている。6.0%増だったVWも、ディーゼル車スキャンダルによる深刻な販売不振の反動によるもので、ピーク時(2014年:6万7438台)の8割弱(5万1958台)までに回復したにすぎない。
なぜドイツ車は苦戦しているのか
順調に景気が拡大して高級品が売れているはずの日本で、なぜドイツ車は苦戦を強いられているのか。
原因はいくつか考えられる。1つはレクサスの好調だ。レクサスは2018年、前年11月発売の現行型「LS」が初のフル・イヤーを迎えたほか、年末には「UX」や「ES」を発売し、前年比20.8%増の5万5096台と、BMWをしのぐ水準まで販売を伸ばしてきた。年に1万台も増えたということは、同価格帯のドイツ車メーカーから相当な需要を奪ったのは間違いないだろう。
ドイツ車以外の輸入車勢も2018年は勢いづいた。ボルボ(前年比10.3%増:1万7392台)、ジープ(同13.2%増:1万1438台)、ランドローバー(同10.2%増:3964台)、ジャガー(同24.7%増:3260台)、アルファ ロメオ(同36.6%増:2510台)など、軒並み前年比で大幅アップを達成している。
これらのメーカーはいずれも新型SUVの投入で台数を稼いだのに加えて、ナビゲーションシステムや自動運転支援システムの充実で再びユーザーの注目を集め始めている。2〜3年前まで、ドイツ車以外の多くの輸入車は純正装着のインフォテインメント・システムが明らかに時代遅れで、そもそもカーナビとしての性能が低かったほか、後付け品ゆえにほかの車載システムとの統合が図られていなかった。
日本市場は言語が異なることに加えて、地図のサプライヤーも異なることから、一定の販売台数が見込めるドイツのトップ4以外は最新のナビゲーションシステムの導入が遅れていたのだ。5番手につけるMINI(2018年の販売台数:2万5984台)やポルシェ(同7166台)といった、トップ4のグループ企業ブランドでも、対応が整ったのは2014〜2016年と最近の話。近年の技術の進歩で、現地法人(インポーター)の特別な努力がなくても、多くの外部サプライヤーが日本仕様に対応できるようになってきた。
こうした背景をよそに、とりわけメルセデス・ベンツとBMWの2社は、ドイツ本社の意向を受けた販売競争に明け暮れてきた。表向きにはおくびにも出さないが、この2ブランドはグローバル販売台数でトップを奪うべく各国のインポーター単位で販売台数を競わせており、そこで好成績を出した管理職層が本社で出世する仕組みになっている。
毎年度末の数合わせのためインポーターはインセンティブ(報奨金)を増額してディーラー(販売店)の奮起を促す。結果、ディーラーは大幅な値引きや自社登録(新車に試乗車などの名目でナンバーを付け、新古車として市場に流す)をしてでも販売台数の上積みを図るのだ。
日本における輸入車の勢力図に変化
メルセデスやBMWの2018年12月販売実績がそれぞれ19.0%増、20.1%増だったのはそういった“努力”の成果だと思うが、それでも通年での前年実績には双方とも及ばなかった。ディーゼル問題が尾を引き不振から脱することができないアウディは、こうした競争に過度に踏み込まなかったようだが、日本法人の社長が比較的短期間で交代することを余儀なくされたところを見ると、ドイツ本社は現状を好ましいとはとらえていないはずだ。
VWグループ(VW+アウディ+ポルシェ+ベントレー)、BMWグループ(BMW+MINI)、ダイムラー(メルセデス+スマート)の3日本法人は、ディーラー網整備を含む販売、整備や技術サポートなどのアフターセールス、マーケティングや広報といった主要分野で今もほかを圧倒する規模を持つ。
だが、日本における輸入車の勢力図が、これまでのドイツ車一極集中から脱しつつあるのは明らかだ。今や自動車はパワートレインを中心とした古典的なハードウェア技術の集積から、グローバル・サプライヤーが司るソフトウェアの集合体に変化しつつあり、技術の進歩によって言語や法規制(時速100キロメートルを上限とする速度制限、左側通行など)の壁も低くなってきた。
高級品を求めるユーザーの嗜好も、隣家のクルマとは違うデザインやブランド、機能を求めてより一層多様化していることが、ドイツ車のシェア低下から垣間見えてくる。