技能実習制度にまつわる「抜け道」とは(写真:freeman98589 / iStock)

外国人が日本で働きながら技能を学ぶ「技能実習制度」で来日したベトナム国籍などの実習生6人が、放射線教育も行われないまま、福島第一原発でがれきなどを焼却する施設の建設工事に従事していたことが、5月1日に明らかとなった。

東京電力が定めた自主ルールに違反する事態だが、同社は6人の被ばく量を把握していないという。6人は、東京の元請ゼネコンの下請企業が受け入れた実習生だった。また、3月には、ベトナム人実習生が、盛岡市の建設会社に雇用され、同社が請け負った福島県郡山市での除染作業に従事していたことが明らかとなっている。実習生によれば、会社との雇用契約書には「除染作業」は記載されておらず、作業内容や放射能の危険性についての説明もなかったという。

制度の欠陥により見過ごされてきた

これらの報道について、「これはやってはいけないこと」「奴隷制度同然」などと強く非難する声が上がっている。確かに、実習生に対し、作業の内容や危険性などについてきちんと説明しないまま、情報や日本語能力の乏しさにつけこんだとすれば、言語道断である。

しかし、「福島第一原発の敷地内で技能実習生が働くこと自体は、制度上、違反ではない」「技能実習としてこれ(除染作業)を行わせてはならないという旨の法令上の規定はない」とする法務省には違和感を抱いた人が多いのではないか。そもそもベトナムには原発がなく、原発関連の技能移転などありえないのに、なぜ制度上違反ではないのか。

これまでも技能実習生が原発関連作業に従事していたことは、業界内では知られていた事実だが、そのようなことが事実上黙認されてきたのは、技能実習制度にまつわる2つの「抜け道」があるからだ。

除染作業などの原発関連作業自体は、技能実習制度の対象となる職種(現在77職種139作業)ではない。技能実習制度は、途上国への技能移転による国際協力を目的とする、という建前がある。そのため、来日前に母国で同種の業務に従事した経験があることや、技能実習を修了して母国に帰国した後に当該技能を要する業務に従事する予定があることが、技能実習が認められるための要件として課される。

事故を起こした原発の特殊な環境下での作業自体は、そのような技能移転の趣旨にそぐわないから、職種として対象とならないのは当然だ。それにもかかわらず、これまで技能実習生による原発関連作業への従事が黙認されてきたのはなぜか。それは、上記の要件が課されるのは、あくまでも技能実習の「必須業務」についてであって、「関連業務」や「周辺業務」については求められないからだ。

「必須業務」とは技能を修得するために必ず行わなければならない業務をいい、「関連業務」とは必須業務に関連して行われることのある業務であって、修得しようとする技能の向上に寄与する業務をいい、「周辺業務」とは必須業務に従事する者が関連して通常携わる業務のうちの関連業務以外のものをいう。

技能実習生は、実習時間全体のうち2分の1以下の範囲で「関連業務」に従事でき、3分の1以下の範囲で「周辺業務」に従事できることとなっている。技能実習生の原発関連作業は、「必須業務」ではなく、「関連業務」や「周辺業務」に押し込まれて行われてきたのだ。

「業務の定義があいまい・実習実施場所の記載不要」

実習生が従事する予定の作業を記載する技能実習計画書(実習実施予定表)は、実習生の受入企業が、厚生労働省が公表している「技能実習実施計画書モデル例」にならって作成して、外国人技能実習機構(法務省・厚生労働省による認可法人)から認定(許可)を受けることになる。

ただ、「関連業務」や「周辺業務」の記載モデル例はあいまいである。たとえば、建設関係の職種についていえば、「必須業務」の記載が比較的詳細であるのに対し、「関連業務」は土工作業(対象職種・作業に係る手作業の部分)、クレーン組立・解体等作業とされ、「周辺業務」は建設機械の移送車両への積載及び移送作業(建設機械置場から現場等)並びに補助作業、不要物の搬出作業など、あいまいで抽象的な記載となっている。

つまり、ここに押し込もうと思えば何でも作業を押し込めるような表現ぶりとなっている。実際、3月に除染作業への従事が発覚したケースでは、実習生は「建設機械・解体・土木」(契約書の作業内容の欄)などとして来日していたという。

さらに、昨年11月から施行された技能実習法に基づく新制度では、技能実習計画書に、実際に実習を実施させる具体的な作業場所(実習実施場所)を記入しなくてもよいことになっている。つまり、技能実習を行わせる企業の事業所(受入企業の工場など)の所在地は記入するが、必ずしも作業ごとの具体的な実習実施場所(建設作業場所など)を記入しなくてもよい。そのため、特に受入企業が別の企業との間で締結した請負契約により、実習生が、受入企業の事業所の所在地とは別の場所で作業に従事する場合に、そのことが審査されないことになり、原発関連施設での作業であることが判明しないのだ。

入管法に基づく旧制度でも、包括的に(基本的には1カ所の)実習実施場所を記載するだけで作業ごとの記載は求められていなかった。このように、申請を審査する技能実習機構や入国管理局には、原発関連施設での作業であることが明らかとならない仕組みなのである。

法務省や厚生労働省は、報道を受けて、今後は、除染を含む実習計画を認めず、計画を申請する企業・団体に対し「除染に従事させない」との誓約書提出を求めることにした。しかし、本来は、実際の作業内容と認定された技能実習計画との齟齬あるいは技能実習計画書への作業の記載自体が曖昧であることも改善しなければならない。実際の作業内容と認定された技能実習計画との齟齬は、あらゆる職種で起きている不正行為だ。

こういった不正行為を撲滅するには、まず、技能実習機構に提出する技能実習計画書及び受入企業に備え付けが求められる技能実習日誌に関して、関連業務及び周辺業務についても、作業ごとに具体的な内容を記載させること、作業ごとに実習実施場所を記入させることを徹底させるための法改正を行うことが必要である。

その上で、認定された技能実習計画と実際に従事させている作業内容に齟齬がないかどうかを技能実習機構が監視して徹底的に取り締まるだけの人的基盤の整備が不可欠である。

技能実習機構(発足時の職員数は約330名)は、実習生の受入企業(約3万9000社)に対し、3年に1回程度の割合で実地検査を行うとしている。しかし、全国の労働基準監督機関において、2016年に受入企業に対して5672件の監督指導を実施したところ、その70.6%に当たる4004件で労働基準関係法令違反が認められたという現状に鑑みれば、まったく足りない。半年に1回程度の実地検査を可能とすべく、少なくとも6倍程度の人員増が必要であろう。

「下請けがやりました」は通用しない

東電は今回の件を受け、元請企業に契約内容の確認を徹底させるとしているが、このような人権侵害問題は、元請企業や下請企業だけの責任ではない。2011年に国連人権理事会が「ビジネスと人権に関する指導原則」を承認した。これにより、国連加盟国で企業が人権に対して責任を負うことが求められるようになった。

企業は、自社による作為・不作為の侵害のほか、自社との関係性(バリューチェーン、サプライチェーン)で生じた侵害にも責任が及ぶとされている。ビジネスと人権に関する国別行動計画を作成する旨を2016年に公表した我が国は、現在、企業活動における人権保護に関する法制度や取組みについての現状を確認するなど、同計画の作成に向けて対応中である。

2017年12月の「日経スペシャル ガイアの夜明け」(テレビ東京系)において、縫製工場で技能実習生の人権が侵害されている状況が告発され、直接の契約関係にはないものの、当該工場を生産工場としていた大手アパレルブランドが社会的に非難され「炎上」する一件があった。

このように現代においては、企業は、自社のコンプライアンスだけではなく、調達→生産→物流→販売という商品やサービス提供の全プロセスにわたって責任を持つことが求められている。直接、間接に技能実習制度を利用している大企業は多く、そのほとんどが、ガイアの夜明けで「炎上」した大手アパレルブランドと同様の爆弾を抱えている状態だ。一刻も早く、法律専門家など外部の第三者に依頼して、自社が取り扱う商品やサービスのプロセス全般について、法令違反状況がないかの監査を行うべきであろう。問題が発覚したときのレピュテーションリスク(企業イメージの深刻な失墜)は計り知れない。