世界的ピアニストを輩出 直木賞小説の題材にもなった日本のピアノコンクールとは
出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!第88回に登場するのは、先日『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎刊)で、第156回直木三十五賞を受賞した恩田陸さんです。
『蜜蜂と遠雷』は、ある国際ピアノコンクールを舞台に、ピアニストたちの邂逅と葛藤、成長、「才能」という罪深い言葉が併せ持つ蜜と毒、そして音楽を描いた青春群像小説。
読んだ者をコンクールの興奮に巻き込み、脳裏に音楽を響かせるこの作品がどのようにできあがったのか、ご本人にお話をうかがいました。(インタビュー・記事:山田洋介)
■構想から完成まで12年!『蜜蜂と遠雷』ができるまで
――『蜜蜂と遠雷』を読んで、何通りもの楽しみ方がある小説だと思いました。その一つが主旋律ともいえる「芳ヶ江国際ピアノコンクール」をめぐる人間ドラマです。まずはこの題材を選んだ理由のところからお聞かせ願えますか。
恩田:音楽を題材にした小説を書いてみたいという思いはかなり前からあって、中でもピアノは私自身習っていたこともあって聴くのも一番好きなので、書くならピアノのものをと思っていました。
そんな時に、静岡の浜松で三年に一度開催されている「浜松国際ピアノコンクール」で、出場者を決めるための書類審査(※)で落とされたピアニストが、敗者復活的なオーディションで勝ち上がってコンクール出場を果たし、しかも本選で最高位に入ったという話を聞いたんです。
これはおもしろい、ということで「浜松国際ピアノコンクール」を取材して、書きはじめました。ちなみに、そのピアニストはその後ポーランドのショパン国際ピアノコンクールでも優勝してしまいました。
※現在は審査方法が変わり、予備審査は書類だけでなく演奏DVDの送付が義務付けられている。
――モデルとなっているピアノコンクールがあったんですね。
恩田:そうですね、浜松がモデルになっています。「国際コンクール」を名乗るには、「国際音楽コンクール世界連盟」に加盟する必要があるのですが、浜松のコンクールはそのなかでも評判がいいんです。
――作中でも書かれていますが、大きなピアノコンクールですと一次予選から本選で順位が決まるまで二週間ほどかかります。その間ずっと予選の演奏を聴いていたんですか?
恩田:最初から最後までひたすら聴いていました。それと、この小説を構想してから書き終えるまでに12年かかっていて、その間もずっと取材に行っていましたから、浜松のコンクールは全部で4回見ています。
――コンクールの雰囲気がとてもリアルに書かれていましたが、まさか4回も取材されていたとは。
恩田:結果として4回になってしまったという感じです。本当はもっと早く終わるはずだったのですが(笑)。
――もう一つ、この小説には「音楽を解釈する喜び」もありました。作中で、登場人物たちが互いの演奏にイメージを喚起させられて、様々な情景を思い浮かべます。そうした記述を読んでから実際に曲を聴くのが楽しかったです。選曲なども恩田さんが考えたものなのでしょうか。
恩田:自分で考えたものですが、ここが一番苦しんだところかもしれません。登場人物たちそれぞれの一次予選から本選までの演奏プログラムを作るのにはすごく時間がかかりました。
とにかく曲を聴きましたし、曲と曲の組み合わせや流れもあるので、実際のコンクールのプログラムを参考にしたりもしました。
――ピアノコンクールを題材に小説を書くには音楽を文章にしないといけません。これはとても難しそうです。
恩田:「なんでこんなことを始めてしまったのか」と書きながら思っていたくらい難しかったです。
ただ、書き終えてから感じたことですが、頭の中で曲を鳴らすというのは小説にしかできないことなんですよね。その意味では音楽と小説は案外相性がいいのではないかと思います。
――風間塵にしろ栄伝亜夜にしろマサル・カルロス・レヴィ・アナトールにしろ、まぎれもなく「音楽の天才」です。これだけ天才ばかり登場する小説は珍しいのではないかと思いますが、それぞれに葛藤していて、同じ天才でもタイプが違うのが印象深かったです。
恩田:コンクールを見ていても、人によって才能の方向は本当に様々ですし、コンクールの序盤だったり終盤だったり、才能を発揮する時期も違うんですよね。同じピアノという楽器なのに、才能にはいろいろあるようです。
――恩田さんにとって「才能」とはどんなものですか?
恩田:努力できることと、続けられることじゃないかと思います。何かを続けるのは大変なことなので、「続けられる」ということ自体が一つの才能だというのはすごく思いますね。
第二回 「これまでとは違うことをやらないと」という強迫観念 につづく
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恩田:音楽を題材にした小説を書いてみたいという思いはかなり前からあって、中でもピアノは私自身習っていたこともあって聴くのも一番好きなので、書くならピアノのものをと思っていました。
そんな時に、静岡の浜松で三年に一度開催されている「浜松国際ピアノコンクール」で、出場者を決めるための書類審査(※)で落とされたピアニストが、敗者復活的なオーディションで勝ち上がってコンクール出場を果たし、しかも本選で最高位に入ったという話を聞いたんです。
これはおもしろい、ということで「浜松国際ピアノコンクール」を取材して、書きはじめました。ちなみに、そのピアニストはその後ポーランドのショパン国際ピアノコンクールでも優勝してしまいました。
※現在は審査方法が変わり、予備審査は書類だけでなく演奏DVDの送付が義務付けられている。
――モデルとなっているピアノコンクールがあったんですね。
恩田:そうですね、浜松がモデルになっています。「国際コンクール」を名乗るには、「国際音楽コンクール世界連盟」に加盟する必要があるのですが、浜松のコンクールはそのなかでも評判がいいんです。
――作中でも書かれていますが、大きなピアノコンクールですと一次予選から本選で順位が決まるまで二週間ほどかかります。その間ずっと予選の演奏を聴いていたんですか?
恩田:最初から最後までひたすら聴いていました。それと、この小説を構想してから書き終えるまでに12年かかっていて、その間もずっと取材に行っていましたから、浜松のコンクールは全部で4回見ています。
――コンクールの雰囲気がとてもリアルに書かれていましたが、まさか4回も取材されていたとは。
恩田:結果として4回になってしまったという感じです。本当はもっと早く終わるはずだったのですが(笑)。
――もう一つ、この小説には「音楽を解釈する喜び」もありました。作中で、登場人物たちが互いの演奏にイメージを喚起させられて、様々な情景を思い浮かべます。そうした記述を読んでから実際に曲を聴くのが楽しかったです。選曲なども恩田さんが考えたものなのでしょうか。
恩田:自分で考えたものですが、ここが一番苦しんだところかもしれません。登場人物たちそれぞれの一次予選から本選までの演奏プログラムを作るのにはすごく時間がかかりました。
とにかく曲を聴きましたし、曲と曲の組み合わせや流れもあるので、実際のコンクールのプログラムを参考にしたりもしました。
――ピアノコンクールを題材に小説を書くには音楽を文章にしないといけません。これはとても難しそうです。
恩田:「なんでこんなことを始めてしまったのか」と書きながら思っていたくらい難しかったです。
ただ、書き終えてから感じたことですが、頭の中で曲を鳴らすというのは小説にしかできないことなんですよね。その意味では音楽と小説は案外相性がいいのではないかと思います。
――風間塵にしろ栄伝亜夜にしろマサル・カルロス・レヴィ・アナトールにしろ、まぎれもなく「音楽の天才」です。これだけ天才ばかり登場する小説は珍しいのではないかと思いますが、それぞれに葛藤していて、同じ天才でもタイプが違うのが印象深かったです。
恩田:コンクールを見ていても、人によって才能の方向は本当に様々ですし、コンクールの序盤だったり終盤だったり、才能を発揮する時期も違うんですよね。同じピアノという楽器なのに、才能にはいろいろあるようです。
――恩田さんにとって「才能」とはどんなものですか?
恩田:努力できることと、続けられることじゃないかと思います。何かを続けるのは大変なことなので、「続けられる」ということ自体が一つの才能だというのはすごく思いますね。
第二回 「これまでとは違うことをやらないと」という強迫観念 につづく
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