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コンビニコーヒーで復活した市場
スターバックスコーヒーといえばオシャレなカフェとしての人気が高く、コアなファンも多い。しかしコーヒーチェーンとしてのスターバックスに立ちはだかるのが、現在、台頭しているコンビニコーヒーの存在だ。

安価で本格的な味が楽しめるコンビニコーヒーに対して、スターバックスはどう向き合うのか。先日、スターバックス コーヒー ジャパンの新CEOに就任した水口貴文氏はどう見ているのだろうか? また、スターバックスがとる戦略とは?

コンビニコーヒーでコーヒー業界が活性化

今やコンビニ各社がレジ回りにコーヒーマシーンを導入し販売しているコンビニコーヒー。自宅や会社のすぐそばにある店舗でコーヒーが飲めるという点で消費者のアクセシビリティが高い。また、価格にしてみてもスタンダードなドリップコーヒーが、スターバックスのショートで280円(税別)なのに対し、セブンイレブンのRサイズ、ファミリーマートのSサイズ、ローソンのSサイズ、いずれも93円(税別)と1/3程度だ。

さらに以前、「フラッペとラテで勝負、ファミマのおいしい戦略」でお伝えしたように、ファミリーマートではスターバックスのフラペチーノに競合するフラッペの新味を積極的に導入、カフェ利用者のニーズを取り込むべく、カフェラテの配合比率を大手カフェチェーンの比率に近づける、など攻めの姿勢である。

しかし、水口氏はコンビニコーヒーの隆盛について意に介する様子はないようだ。同氏は「コーヒー業界が盛り上がっているということではないでしょうか。コーヒーの消費量は伸びていますし、そう意味では我々の会社としてはすごく大切なことだと思っています」とむしろポジティブなとらえ方をしている。

日本は世界有数のコーヒー消費国。全日本コーヒー協会の世界の国別消費量資料の2014年統計によると、日本はEU、アメリカ、ブラジルに続く世界第4位で巨大なコーヒーマーケットでありつつも、国内消費量においては2007年の43万8,384トン以降は落ち込んでいた。しかし、コンビニコーヒーが普及を始めた2013年には6年ぶりに44万6,392トンと過去最高を記録し、その後も増加傾向にある。コンビニコーヒーの存在でコーヒー業界が活性化したと見ても良さそうだ。

●新形態の店舗で業績拡大へ
○2020年に1500店舗を目指す

また、水口氏は「正直に申し上げまして、あまり社内でどこのコンビニがという話はしておりません」と強気だ。では、コンビニコーヒーが市場を席巻した2013年以降において、スターバックスの業績はどう変化しているのだろうか。売上高は、2013年3月期が1,165億2,500万円、2014年3月期が1,256億6,600万円と上昇している。2015年度の数字については、スターバックス コーヒー ジャパンが2015年3月にスターバックスコーポレーションの100%子会社になったため公開されていないものの、水口氏によると増収増益の基調を保っているという。

もうひとつ着目したいのが店舗数。コンビニコーヒー普及前の2012年度が985店なのに対し、2015年度は1178店と1,000店を超えている。2014年度から2015年度にかけて82店舗増えており、この増加ペースは創生期を除くと2007年のリーマンショック前に次ぐ2番目に高い増え方だ。そして、前CEOの関根純氏が目指した「2020年には1500店舗を目指す」という方針は引き続き維持していくという。

コンビニコーヒー隆盛にもかかわらず、スターバックスは店舗が増加し勢いを増している。その秘密はいったいどこにあるのだろうか。

○昔ながらの喫茶店を思わせる新形態店舗

コンビニとスターバックスが違う点、ひとつはスターバックスが昔から提唱しているキーワード「サードプレイス」だ。自宅でも職場でもない第3のくつろげる場所という意味である。コーヒーだけではなく、居場所を提供しているというわけだ。コンビニでは提供できない空間がスターバックスの強みのひとつである。また、パートナーと呼ばれる店舗スタッフによるおもてなしも欠かせない要素だ。

しかし昨今、スターバックスはこのサードプレイスのあり方を多様化させ、今までの店舗では考えられないようなスタイルの店舗も送り出している。例えばバリスタが客と話をしながら一杯一杯とコーヒーを入れてくれるカフェ「EXPERIENCE BAR」、従来の店舗のように駅前や繁華街ではなく、住宅街でコーヒーを飲みながらゆったりとした時間が過ごせる「Neighborhood & COFFEE」、そして女性向けにワインなどアルコール類を提供する「EVENINGS」の3つだ。

このうち、「EXPERIENCE BAR」や「Neighborhood & COFFEE」はスタンダードな店舗に比べ、おもてなしやゆったりと過ごせる時間というものをさらに重視しているのが特徴で、昔ながらの喫茶店に近い価値観の店舗になる。喫茶店と差別化をはかり発展してきたスターバックスが喫茶店に回帰するといってもいいだろう。

また、今後のスターバックスで危惧されるのが、都市部で出店が飽和状態になり利用客から飽きられること。しかし、新しいスタイルの店舗を投入すれば周囲の店舗とサービスが重なるリスクは減る。水口氏は店舗数については具体的に明かさなかったものの「都心部ではもうちょっと多様化した店舗の形態が必要になってくるでしょう」と、新形態の店舗を織り交ぜていく旨を匂わせていた。

●目指すはスタバらしさ
○新規性と意外性のあるメニュー

もうひとつのスターバックスにおけるキーワードは「サプライズ&デライト」。常に驚きと楽しさを提供するという意味である。スターバックスコンビニコーヒーや、そして昔ながらの喫茶店とも差別化できる点であるのが、コーヒーだけでない独自の商品ラインナップだ。スターバックスのメニューにおけるファンも多い。水口氏は「商品の開発力は本当に強みだと思っています」と自信をのぞかせる。

その根拠はコーヒーや果汁などにゼリー・果肉を入れたフローズンドリンク・フラペチーノの人気だ。スタンダードな製品に加え季節のおすすめも用意されており、新製品は発表されるたび常に話題となる。フラペチーノに続く大人気商品をどう開発していくかという課題はあるというものの、フラペチーノそのものは日本で開発された商品が国内だけでなく中国でも売り出された実績もあり非常に好評だ。

コンビニや喫茶店で用意できないような新規性と意外性の高いメニューを投入し続けることで、スターバックスならではの魅力を作り出し、ユーザーの囲い込みにつながっているといえる。

○体験を売るスターバックス

現在、ユーザーの購買傾向は「モノを買う」から「体験を買う」に移行している中、スターバックスではこれまでのパートナーによるおもてなしやゆったりとした空間、他では味わえない製品に加え、先に紹介したような新形態の店舗で新たな体験を提示しようとしている。

ただし、新形態店舗についてはまだ試験的な運用の段階であるため、どれだけ今後、幅広いユーザーに受け入れられるかは未知数だ。店舗のコンセプトを聞いて「スターバックスらしくない」と感じるユーザーもいるのではないだろうか。水口氏は「時代の変化に合わせて多様性、そしてお客様の価値観・変化に合わせたスタイルの提案を継続して、自分たちの殻を破っていくのが必要」と話す。

とはいえ、同じ本格コーヒーを飲むにせよ、コンビニコーヒーが安く手軽にとモノとしての魅力を高めているのに対し、スターバックスではユーザーの体験を重視する、とモノと体験とで姿勢が対照的なのは明らかだ。日本のコーヒー市場が拡大している中、ユーザーの楽しみ方も多様化している。そんな現状において、スターバックスがどこまで魅力的な体験を提供して、さらなるファンを獲得できるかが気になるところだ。

(丸子かおり)