「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今日の漢字は「空」。土を掘って作った穴、室の入り口を描いた象形文字に、ゆるく弓状に曲がった形を示す「工」という字を添え、ドーム状の形を表した漢字です。今回は「空」に込められた物語を紹介します。



「空」は「穴」という字に「工場」「工具」の「工」と書きます。

「穴」は分厚い土の層を掘って作った室の入り口を描いた象形文字。

その下に添えられた「工」という字は、ゆるく弓状に曲がった形のものを示すことがあります。

そこから、穴の上部が曲がったドーム状の形を表したのが「空」という字。

もとは「穴」そのものを意味していました。

また、穴は中に何もないことから、「あく、あける、から、むなしい」といった意味ももつようになります。

いにしえの人たちの頭上にあるのも、大きな穴。

からっぽの穴からは神々が舞い降り、雲や雷が出てきては消えてゆく。

そこで、いにしえの人たちは、「穴」を意味するこの漢字を、頭上に広がる“そら”としても使うようになったのです。

霞がかった山のかなたから、一日の始まりを告げる光が届く朝。

春の野に、いにしえの人がひとりたたずんでいます。

懐かしい人との幸せな語らいが夢だったことに気づき、涙をこぼしながら空を見上げている娘。

きっと今頃あの人は、神さまのもとへ帰り、空の穴のふちに腰掛けながら私を見下ろしている。

いつしか、泣き濡れた瞳をあたたかな陽射しが乾かしてゆきます。

それは、やさしかったあの人からの贈りもの。

彼女はふたたび、この世を生きてゆくための強さを取り戻すのでした。

ではここで、もう一度「空」という字を感じてみてください。

震災が起こった五年前のあの日。

私たちは、この世にあるすべてがはかないものであるということを、あらためて思い知らされました。

ただ空を見上げ、呆然とするしかなかった日々。

その間、涙も、祈りも、ため息も、空は黙ってうけとめてくれました。

やがて空は、美しい模様を描き出します。

金色の朝焼け、茜色の夕暮れ、笑顔がこぼれる希望の虹。

雲の切れ間から差し込む光は、天地をつなぐ繊細な梯子。

ひとときのやすらぎと新たな力を空から受けとって、私たちはふたたび、決意を新たにします。

もろく、弱く、はかない存在だからこそ、一所懸命に今を生きてゆこう、と。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

3月12日の放送では「菜」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/