韓国大統領府(青瓦台)の鄭然国(チョン・ヨングク)報道官は24日、北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部が前日発表した重大声明で青瓦台を第1の攻撃対象だと威嚇したことについて、「容認できない挑発的な言動」と非難。韓国軍の合同参謀本部も同日、「北の最高司令部の声明に対するわが軍の立場」と題した声明を出し、「北が自らを破滅に追い込む挑発的な行動を即刻中断するよう強く求める」と訴えた。

韓国軍はさらに、「(北が)われわれの忠告を無視し挑発を強行するなら、計画、準備した通り、断固とした報復により骨身に染みるまで後悔させる」と表明。無謀な挑発で引き起こされる状況により、「独裁体制の崩壊が早まることを明確に警告する」と強調した。

北朝鮮と韓国が、こうした「舌戦」を展開するのは珍しいことではない。とくに北朝鮮は、韓国の朴槿恵大統領やオバマ米大統領に対し差別表現まで用いて、口汚いヘイトスピーチを繰り返してきた。

これに対し、韓国や米国は「大人の態度」を示し、「反論するのも馬鹿げている」といった抑制的に対応してきた。それだけに、今回の韓国軍が「破滅」や「独裁体制の崩壊」にまで言及するのは異例だ。

ズバリ言って、韓国は同盟国である米国とともに金正恩氏に対する「心理戦」を展開しているのだ。

そもそも、こうした声明などを通じた心理戦は北朝鮮の得意分野だった。たとえば朝鮮半島が第1次核危機の最中にあった1994年3月、板門店での南北協議で北側の朴英洙(パク・ヨンス)首席代表が、韓国側の宋栄大(ソン・ヨンデ)首席代表にこう言い放ったのは有名だ。

「ソウルはここからそれほど遠くはない。もし戦争が勃発すればソウルは火の海になるだろう。宋さん、あなたはまず生き残れないだろう」

もちろん、協議は決裂。この様子を収めたビデオは当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領の指示でテレビ放映され、北朝鮮の「危険さ」を全世界に認識させた。

しかし、朴氏の「火の海」発言は、実は失言ではなく、巧妙な計算に基づくものだったと言われている。実際、戦争になればソウルは北朝鮮の長距離砲部隊によって甚大な破壊を被る。それを知っている韓国国民は、動揺せずにはおれないからだ。

もっとも、こうした過激な言動を心理戦に用いるには、相手からどんな反応があっても動じない胆力と内部の団結が求められる。金正日時代の北朝鮮には、それが存在したと言えるだろう。

しかし、正恩氏の北朝鮮はどうか。昨年8月の軍事危機では、まんまと韓国とのチキンレースに敗れた。

韓国側は、まず間違いなくこうした「弱さ」を見透かしている。そして、昨年8月の軍事危機の際に見られたように、自軍兵士が北側の地雷で吹き飛ぶ映像を公開するなどして国内の団結を図り、その一方で、米軍と組んで「斬首作戦」によるプレッシャーを金正恩氏に与えている。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

気になるのは、こうした心理戦により、米韓側が何を目指しているかだ。もしかして米韓は、われわれの知らない、金正恩体制の決定的な弱点をつかんでいるのだろうか。