「リノベる」のショールーム

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 政府は2020年までに中古住宅市場を20兆円、2倍に拡大する方針を打ち出した。そこで今、注目されているのが「リノベーション」ビジネスだ。

 中古マンションを自分好みに大規模改装する事業で急成長しているベンチャーがある。創業からまだ5年の「リノべる」だ。2013年度の受注件数は113件、それが2014年度は300件と一気に2倍に膨らみ、収支は黒字化、着実に利益を上げている。その成長の秘密に迫るべく、作家の山下柚実氏が築40年の建物をリノベーションしたという本社を訪ね社長を直撃した。

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 壁を這う太い配管に、天井から下がったペンダント照明。築40年とは思えないレトロモダンな空間。本社に併設されたショールームには何人もの客がいて、興味深そうに空間を覗きこんでいた。

 同社では、初めて家を購入する客が9割以上を占める。「中古マンションの購入費と工事費とを合計して、3500万〜4000万円くらいが大半でしょう」と山下智弘社長(40)は言う。

 その金額にまず驚かされる。同規模の新築マンションと比べて2/3程度と、格段に安い。その上、好きな間取りにできて、立地も東京23区内など自分が望む場所から選ぶことができるなんて、まさに理想の家作りではないか。そんなユニークな住宅ビジネスがなぜ、ほとんどなかったのか? いったいどのように実現したのだろうか? 「例えばファッションと比較してみてください」と山下社長は言った。

「ストリートファッションでは世界一オシャレと言われる日本人。それなのに、住んでいる空間はなぜか画一的で、ビニールの壁紙と床に囲まれて衣服だけオーガニックコットンにこだわる、みたいな矛盾が現実にありますよね。家については我慢していることすら気付かないくらい、発想が固定化しているのです」

 同社が手がけるリノベーションは、築数十年の中古マンションを骨組み部分だけ残して“スケルトン状態”に戻し、配管・配線を総取り替えする。その上で間取りや設備をがらりと改装する。

「こだわりのある方々に、住みたい家を、身の丈にあった費用で創り上げてもらうお手伝いです」

 客の平均年齢は37歳。95%がネット経由でやってくる。工事は、面積が68平米、費用は886万円が平均的という。決して安い買い物とは言えない。ところが山下社長は奇妙なことを言った。

「最初はお客さまに、どんな家が欲しいですか、という質問をいたしません」

 では何を聞くのですか?

「初恋のこと、初めて買ったCD、思い出の旅……その人が本当に求めている暮らし方や価値観を確認するために、本質的な質問を重ねていきます。長い時には3時間、4時間と、カウンセリングに近いですかね」と笑った。

「家って奥深くて一生に何度もできない買い物ですから。暮らす人の思いを形にするために、そうしたディープデータを活用し、嗜好にあった家作りをお手伝いします」

 大量に作って一気に販売する新築マンションの間取りは「8割の人が嫌だと言わない中庸ライン」を狙っている。「一方、私たちが売っているのは、たった一人の人が良いという空間です」と山下社長。

 買い手の思いに応える家。考えてみれば、まだ十分に供給されているとは言えない。わかりにくい不動産業界の構造や物件情報もインターネットによって透明化してきた。いよいよ家電や車のように、住宅も売り手から買い手に選択権が移りつつあるのではないか。古着もオシャレという感覚が定着している30〜40代。好みの間取りやデザインが選択できる中古住宅へという流れも、自然なのだろう。

 かつて、「ウサギ小屋」とまで揶揄された日本の住宅。その割に「一生で一番高い買い物」として君臨してきた特別な商品。あまりに高く見えていたそのハードルが、ブランドファッションと同程度に、自分のこだわりを表現するアイテムになる日も、すぐそこまで来ているのかもしれない。

※SAPIO2015年5月号