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インターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」。匿名で自由に書き込めるのが特徴だが、それだけに名誉毀損や薬物関連など違法な書き込みが問題になることも多い。有害な情報は、2ちゃんねるの運営者に削除依頼をすることで、掲示板から取り除くことができるが、運営側はすべての依頼に応じているわけではない。

警察庁のまとめによると、同庁から委託を受けた民間団体「インターネット・ホットラインセンター」が今年上半期(1月〜6月)に削除要請した違法な書き込みのうち、実際に削除されたのは9.9%にすぎなかったという。他サイトを含めた全体では、削除率が96%に達しており、2ちゃんねるの削除率の低さが際立っている格好だ。

このような状況について、インターネットの誹謗中傷問題にくわしい弁護士はどう見ているのか。2ちゃんねるをはじめとする匿名掲示板などへの対処に力を入れている清水陽平弁護士に、削除依頼のポイントや課題について聞いた。

●「削除率」だけでは、対応の善し悪しは判断できない

――2ちゃんねるの「削除率」が9.9%にとどまっていることについて、どのように考えたらいいでしょうか?

「削除依頼の内容を見ていないので一概に判断できず、それゆえ、パーセンテージのみでの判断もできないと考えます。

2ちゃんねるでは現在、削除依頼に対応するために、『7日間ルールスレッド』というのが設けられていて、反論がなければ削除・開示するというルールを採用しています。

この内容や、法務局人権擁護課などが出している削除依頼などを見ることがありますが、単に『誹謗中傷がある』といった内容のことだけが書かれており、削除を依頼する理由として十分ではない――少なくとも、依頼された側が違法であると判断することが難しい――ものも、数多くあるように思います。

なかには、『これは明らかに誹謗中傷だろう』というもので削除していないものも見受けられますが、そのような『中身』の議論を飛ばして、削除『率』のみを問題とするのは、ある種のレッテル貼りを狙っているものではないか、という気がしてしまいます。

実際、私が依頼を受けて削除をしているものについては、おおむね削除が認められています。ただ、これは『裁判所が削除を認めたものであれば応じる』という2ちゃんねるのルールによる部分も大きいのですが・・・」

●裁判所の「仮処分決定」が切り札となる

――2ちゃんねるへの書き込みに対する「削除依頼」ですが、どのような内容のものが多いのでしょうか?

「私が扱っている案件について言うと、何が多いということはないのですが、基本的には名誉毀損(社会的評価の低下を招く書き込み)や、プライバシー侵害となっているものということになります。

削除をするためには、裁判所において、これらの『権利侵害がある』ということと『違法性阻却事由がない』ということを明らかにする必要があります。

どのようなものでも、常にこの点をクリアできるわけではないのですが、この点は内容と証拠を見て判断していくことになります」

――有害な書き込みを削除するためには、具体的にどのような方法があるのでしょうか? また、弁護士ならではの方法というものはありますか?

「一番確実なのは、裁判所の仮処分決定を得て、削除を依頼するという方法です。2ちゃんねるのルールとして、裁判所から削除を命じられたものについては削除する、ということになっています。

弁護士の場合、削除方法として、裁判所の『仮処分決定』を使うわけですが、仮処分の申立自体は、弁護士でなくても行うことができます。したがって、厳密に言えば、『弁護士ならでは』ということにはならないですが、やはり仮処分を申し立てていくという手続を取った上での削除依頼というのが、特徴的ではあると思います。

なお、代理人である弁護士に依頼するメリットとして、代理人弁護士の名前で削除依頼ができる点もあげられます。つまり、削除を依頼する本人の名前が2ちゃんねる上には出ないという点があります。本人が仮処分決定をとった場合は、本人名で削除を依頼しないといけませんが、そのようなことはないわけです」

●削除依頼の際に「安易なことを書かない」のが重要

――削除依頼を成功させるためのポイントとして、どのようなことがあげられるでしょうか?

「安易に削除を依頼しないことです。2ちゃんねるにおいては、削除依頼はすべて公開されてしまうので、仮処分などの方法を用いずに削除を依頼するにしても、安易なことを書かないことが重要です。

また、『警察に相談した』といったことを書く例がときどき見られますが、これも注意が必要です。おそらく、『警察が動いていると言えば応じるだろう』という考えなのでしょうが、これを書くと証拠保全の必要があるとして、逆に削除に応じてくれなくなります」

――2ちゃんねるの書き込みの削除に関して、どのような課題があるといえるでしょうか?

「仮処分決定を得ていない削除依頼の場合、削除を拒否される理由として、『事情を知らない第三者には理解できないから』というものがあります。しかし、事情を全く知らない第三者が見ても、たとえばスレッドを辿ることで内容が分かる場合も多くあります。

また、たとえば、ある組織の内輪話的なものであるといった場合には、誰の何のことなのかということが分かるという点が問題になっていることも多いです。このようなものについては、もう少し柔軟に削除に応じていただきたいなと思います」

(弁護士ドットコム トピックス)

【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
IT法務、特にインターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定に注力している。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp