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●似て非なる? Windows 8 / 8.1版IE 11とWindows 7版IE 11
Webアプリケーションが主流になりつつある現在、Webブラウザーは欠かせないツールの1つだ。誤解を恐れずに述べると、Webブラウザーがあれば、他のローカルアプリケーションは不要である。そのため、Webブラウザーのシェア(市場占有率)は重要であり、各社が自社製品を研ぎ澄ましているのが現状だ。そして大手Webブラウザーの1つ、MicrosoftのInternet Explorer(以下、IE)において、Windows 7向けのIE 11がリリースされた(図01)。

システム要件として、Windows 7 Service Pack 1が前提。233MHz以上で動作するプロセッサ、512MB以上のメモリー、70MB以上のHDD空き容量が必要となる。もっとも、Windows 7 Service Pack 1が稼働している時点でこれらのシステム要件は満たしているため、特に気にすることはないだろう(図02)。

ダウンロードページにアクセスすると、Webブラウザー情報を取得し、IE 11未インストール時の場合はダウンロードをうながすボタンやメッセージが現れる。32ビット版や64ビット版をMicrosoftダウンロードセンターから直接入手できるので、複数のWindows 7マシンに対してIE 11をインストールする場合は、こちらの方が簡単だ(図03)。

さて、多くのユーザーが興味を抱くと思うIE 11の新機能だが、表層的な部分の差はIE 10と比較してそれほど多くない。そもそもIE 11は、Windows 8.1のタッチ環境によるWeb閲覧環境(俗にいうエクスペリエンス)を強化するため、タッチ操作時の応答性を改善したのが1つのポイント。Windowsストアアプリ版との連携も高まっているが、Windows 7版に関しては、その恩恵を受けることはできない。

他方で、IE 11の動作を制御する「インターネットのプロパティ」ダイアログを確認すると、いくつかの相違点を確認できた。例えばセキュリティ関連では、TLS(Transport Layer Security)の使用が初期状態で有効になるなど、いくつかの変更が見受けられる。また、Windows 8.1のIE 11には用意されていた「」は見つからなかった。

SPDY(スピーディー)は、Googleが提唱した次期通信プロトコルの1つで、今後HTTP/2.0のベースになる可能性が高い。TCP/IPコンポーネントの更新が必要なのか、IE 11 for Windows 7のインストールだけでは対応できないのかもしれない。この件に関するMicrosoftの説明は確認できなかった(図04)。

「<詳細設定>」タブや「<セキュリティ>」タブの設定項目は、IE 10の設定を引き継ぐため、初期状態は必ずしも同一ではない。Windows 8.1では初期状態で有効になっていた「<拡張保護モードを有効にする>」が無効になるケースも確認されたが、同項目の無効化を求める金融機関系Webサイトもあるため、IE 11へアップグレードした後は各種設定項目を確認すべきだろう。

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JavaScriptの実行パフォーマンスを検証
Windows 7版IE 11の内部的な改良点としては、「WebGLのサポート」、「JavaScriptエンジン関連の強化」という2つが挙げられる。順番に紹介していこう。

1つめのWebGLは、Webブラウザー上で3Dグラフィックスを表示させるための規格であり、すでに他社Webブラウザーはだいぶ前からサポートしていた。ただし、Microsoftは2011年5月に発覚したWebGLのセキュリティホールを踏まえ、前バージョンであるIE 10での搭載を見送っている。そして同セキュリティホールの修正や、WebGLの普及率などを鑑みた結果、今回のバージョンで実装したのだろう。Microsoftでは、WebGLのデモンストレーションとして、エベレストの山々を3D表示するWebサイトを紹介している(図05)。

このセキュリティホールの問題があってか、WebGLコンテンツ実行をする前に内容をスキャンし、安全が確認されない場合はソフトウェアベースのレンダラーを用いるという。つまり、GPUを利用するのは安全性を確認したWebGLコンテンツに限られるため、今後増えていくであろうWebGLコンテンツに対してのセキュリティ対策も、ひとまず安心して良さそうだ。

なお、Windows 8.1のIE 11では、Media Source ExtensionsなどHTML5で策定される、ドラフトレベルの仕様を一部サポートしていた。Windows 7とIE 11でTest Driveのデモンストレーションサイトにアクセスしてみたところ、「Windows 8.1のIE 11ではないので、MSEが使えない」といったメッセージが現れた。Windows 7版IE 11でメディアストリーミング関連機能が利用できないのか、バージョンチェックによる単純なミスかは分からないが、前述した相違点などを踏まえると、Windows 8.1用とWindows 7用のIE 11は完全に同一ではなさそうだ(図06/07)。

JavaScriptの実行パフォーマンスを検証

そしてもう1つのJavaScriptは、IE 9時代から搭載していたJavaScriptエンジン「Chakra(チャクラ)」を強化し、事前にJavaScriptコードをバイナリ化するJITコンパイラの利用範囲拡大など、さまざまなアプローチで高速化を実現している。さらに、利用しなくなったメモリー領域を自動的に開放する「ガベージコレクション」のバックグラウンド動作を効率化することで、結果的にパフォーマンスの改善につながるそうだ。

MicrosoftはWindows 7版IE 11に対しても、「他のWebブラウザーより30%も高速化した」「IE 10より9%も速くなった」と公式ブログで述べている。そこで、同一のハードウェア環境でJavaScript系ベンチマークを実行することにした。

今回は、Nehalem世代のIntel Core i3-540(3.06GHz、開発コードネーム:Clarkdale)に16GBのメモリーを搭載した、やや古めのPCで測定を行っている。同PCは筆者が個人的に24時間運用を行っている簡易サーバーも兼ねているため、バックグラウンドでは各種ソフトが稼働している有様だ。そのため、実際の使用環境に近い数値を計測できたと思うが、同一のハードウェア構成より低い数値になった可能性が高い。この点はあらかじめご了承頂きたい。

続いて使用するベンチマークツールだが、JavaScriptの実行速度測定が中心となるため、デファクトスタンダードに数えられるSunSpider 1.0.2と、Microsoftが用意したEtchMark、そして公正を期するためにMozilla FoundationのKraken 1.1とGoogleのOctane 2.0も使用することにした。各ベンチマークを3回実行し、その平均値を数値として今回示している。また、IE 10およびIE 11だけでなく、参考としてMozilla Firefox 25とGoogle Chrome 30のベンチマーク結果も並べているので、併せてご覧頂きたい。

まずはSunSpider 1.0.2のベンチマーク結果。筆者が以前IE 11リリースプレビューを用いたベンチマーク結果と比べると相対的に異なるものの、IE 11が優れている結果になったのは同じだ。Microsoftが用意したEtchMarkの場合、IE 10およびIE 11の結果は同じだったため、あまり良い参考例とはいえないだろう(図08〜09)。

前述の通り、KrakenはMozilla Foundation製、OctaneはGoogle製のため、自社製Webブラウザーに有利な結果になるかと思ったが、KrakenではGoogle Chrome 30とMozilla Firefox 25はわずかな差だ。これら2つのWebブラウザーと比較して、Windows 7版IE 11はやや遅かったが、IE 10はさらに遅さが強調される結果となった。

OctaneはやはりGoogle Chrome 30がもっともスコアが高く、約14,000ポイント。IE 11はIE 10よりも高い約9,800ポイントとなったが、すべての面で他社製Webブラウザーをしのぐ結果にはいたらなかった(図10〜11)。

全体的な性能や機能を踏まえると、JavaScriptエンジンに関する改善は引き継がれているものの、Windows 8 / 8.1のIE 11に加わった全機能がWindows 7版IE 11にも組み込まれている訳ではないようだ。だからといって、Windows 7ユーザーがIE 11へのアップグレードしない理由はさほど多くないだろう。前述したセキュリティ設定に関するトラブルが発生する場合は、TLSを無効にすることで対応できるからだ。

なお、社内やオンラインバンキングなど、アップグレードにより日常業務が滞るような可能性がある場合は、システム管理者からの通知や公式アナウンスによる安定動作を確認するまで、アップグレードを抑止する方法もある。今後Windows 7ユーザーは、Windows Update経由でIE 11へのアップグレードをうながされるので、IE 10を使い続ける予定の方は、「Internet Explorer 11自動配布の無効化ツールキット」の適用をおすすめしたい。

阿久津良和(Cactus)

(阿久津良和)