「いじめに関わった生徒と教師はカメラの前で謝罪しろ。さもないと中学校と教育委員会と警察を爆破する」

昨年10月、滋賀県大津市の市立中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺した問題が新たな波紋を呼んでいる。

冒頭の脅迫状が学校に届いたのは7月9日のこと。そして、ネット上に加害者とされる生徒の実名や顔写真、自宅住所まで公開されるようになったのも、つい最近のこと。男子生徒の自殺から9ヵ月もたった今、なぜこんな事態に?

「事件直後はどの新聞も地方版のベタ記事扱いでしたが、この問題は複数の要因が重なり、注目度を高めていきます。まずはいじめの内容。男子生徒は自殺する約1ヵ月前からハチの死骸を食べさせられたり、首を絞められたりと、同級生数人から日常的に壮絶ないじめを受けていたことが明らかになったのです」(全国紙記者)

生徒を守るべき学校や市の教育委員会の対応も問題になった。

「自殺の背景にいじめがあったことが判明したにもかかわらず、学校側は『いじめと自殺との因果関係は不明』と調査を打ち切りました。さらに7月3日、学校の生徒へのアンケートで、15人が『死亡した男子生徒が自殺の練習をさせられていた』と答えていたことが発覚。この回答を公表していなかったことが問題視され、報道が過熱。その後も、遺族の被害届を3度も受理しなかった大津警察署や、いじめを笑って見ていた担任教諭など、ずさんな対応が次々と明らかになりました」(全国紙記者)

そして7月6日―。

「フジテレビが、加害者とされる生徒の実名が掲載された訴訟準備書面を放送したのですが、名前を黒塗りにする加工が不十分で、一部が透けて読める状態でした。その画像がネット上にアップされたのです」(全国紙記者)

これにより、加害者とされる生徒たちの個人情報が瞬く間にネット掲示板にさらされることに。

顔写真や住所、電話番号、家族の実名と顔写真……。ある掲示板では「こいつは名前を変え、京都の○○中学校に転校済み」と転校先の校名と電話番号まで公開。さらに、ある生徒は父親の勤め先とその電話番号、取引先もさらされ、そのうちの一社にネット住民がかけたとされる電話の内容まで書き込まれた。「おたくの取引先に加害者の親がいることはご存じですか? そんな会社との付き合いは考え直せ」といった具合だ。

ネット住民による攻撃は学校や市の教育委員会にも及んでいる。「電話は深夜0時を越えても鳴りやみません。通常の業務が行なえない状況が続いています。意見や批判など、いろいろな方言でかかってきます」(大津市市役所守衛室の担当者)

市役所の総務課課長も言う。

「実は、爆破予告は7月5日にもあったんです。男の声で『爆弾を仕掛けた。8時。おまえらのところ』と。最悪のことも想定し、午後7時半から45分間、全職員を市庁舎の外へ避難させ、警察に通報しました」

通報を受けた警察は、庁舎前の道路を約1kmにわたって通行止めにし、近隣を通る京阪(けいはん)電車も運転見合わせなどの対応に追われた。

ネット上での個人情報公開や脅迫。「暗躍しているのは“鬼女(きじょ)”と呼ばれるネット住民たちです」と指摘するのは、ITジャーナリストの井上トシユキ氏だ。

「鬼女とは、2ちゃんねるの『既婚女性板』に書き込みをする既婚女性たちの通称。子供を持つ主婦に多く、いじめや性犯罪には敏感に反応します。2008年には日本人の母親を小バカにした記事を載せた毎日新聞社や同紙のスポンサーに電話で抗議を繰り返し、スポンサー商品の不買運動まで行ないました」(井上氏)

そんな鬼女は、加害者とされる生徒の個人情報をどうやって特定したのだろう。

「多くの場合、まず動くのは“現場”近くに住む鬼女。今回も加害者とされる生徒の名前を知り、彼らと同じ校区に住む鬼女が住所や学校などの情報を最初にネットにさらした可能性が高い」

だが、なかには誤った情報もあるようだ。ネット上で、加害者とされる生徒の家族が働いていると書き込まれたある会社の総務担当者が困惑気味に話す。

「昨日から電話が鳴りやみませんが、ウチにそういった社員はいません。業務妨害ですよ」

さらに、ある生徒の自宅周辺でもこんな噂が広がり始めていた。

「彼のお父さん、今回の事件と騒動を受けて自殺したと聞きました……」(周辺住民)

この混乱はいつまで続くのか。

(取材・文/興山英雄)