いきなり“投手コーチ宣言”｜太友加寿仁さんインタビューvol.1
――名刺を拝見すると“チーフコーチ”と書いてありますが、何のコーチをされているのですか？
パーソナル投手コーチをしています。小学生からプロ選手までレベルを問わずコーチングをしています。選手としての経験は、肩を壊してしまい中学生までしかないのですが、現役を諦めて以来はずっとピッチングコーチをしたいと思い続けてきたのです。
知識はもともとありませんでした。だから一から勉強しました。
よく有名なコーチの何々理論みたいなのがありますよね。でも僕はその理論をリスペクトしながらも、コーチとしてはそれほど興味はありません。コーチは理論などで目立ってはいけないというのが僕の持論なんです。
とにかく目の前に100人の選手がいれば100通りのコーチングがある。選手によって使う理論、知識、言葉は違ってきます。それを見極めて、一人一人に合ったコーチングをしています。コーチングの仕方は自己流ですが、ピッチングの本質を知る点に必要な、運動生理学、栄養学、生化学、物理学などは一からしっかり勉強しました。
――実績のない太友さんがコーチの道に入ることが出来たきっかけは？
宣言ですね。まず「自分はコーチだ。実績はゼロだけど」と宣言をしました。
しばらくすると小さなオファーがくるようになりました。その選手のコーチングをして、実績を上げると「この人に頼めばこれだけの効果が得られるのだ」ということがわかる。口コミのようなものを繰り返して今年3年目を迎えました。
これまでのコーチはまず「コーチの理論ありき」ですが、僕の場合、逆なんです。まず選手はどうか、どういう状態にあるのか、たとえば身長、体重、関節可動域などの目に見える部分から見て、この選手にはこういう風に取り組んだらいいんじゃないか、そういう細かいアプローチの繰り返しですね。
――オファーが続いたということは実績が上がったわけですね。
まず、投手じゃない状態で投手を続けていた子が、投手になりましたね。野手投げの子が完全にピッチャーになった。あとは、肩肘が痛かった子が投げ方を改善させることによって痛くならなくなった。僕自身、怪我で野球が出来なくなったので、その部分は大事だと思っています。
――つまり、将来に向けて肩を維持、温存する方法ですか？
そういう言い方をすると、球数制限という話になってしまいますよね。僕の考えはそうじゃなくて、投げ方さえ適切であれば、肩は消耗品ではないということです。その適切な投げ方を一人一人に合わせてコーチングするのです。
――下世話な話ですが、フィーはどれくらいですか。
1時間6980円です。これで北海道から沖縄までどこへでも行きます。
たいてい、親御さんに呼ばれますね。子供が肩や肘が痛くなって、病院へ行っても治らないから、ちょっと見てくれないか、というようなオファーです。
外傷的な何かがない限り、そうした症状はほとんど治ります。肘に関しては95％以上が投げ方ですね。肩に関してはもう少し複雑ですけど。現地に行けば、子供の体をチェックして、どこがどう悪いのかを見つけます。
――プロ選手の場合は、どんなオファーがあるのですか？
プロ選手の場合は成績を上げたい。どうすればもう少し速いボールが投げられるか、キレのある変化球が投げられるか、あとは体のメカニズムについて。
当然、最初は見ず知らずの僕に対して不信感があります。「こいつは一体誰なんだ？」と。でも僕と選手の間に立って僕のことを選手に紹介してくれるトレーナーさんとか、整骨医の先生がいるから、一応話を聞いてみようか、となります。
――今、MLBで活躍しているダルビッシュなどもそうですが、自分の体のメカニズムを自分で説明できる選手が多くなっているように思います。太友さんの仕事は、ますます必要になってくるのではないですか。
プロアマ問わずそうですね。
――このインタビューは、ブログについて聞くのが本筋なのですが、太友さんのお仕事が面白すぎるので、もう少し聞きます。これからコーチングの仕事はどういう方向に発展させるのですか？
これまで短い時間での仕事が多かったのですが、1時間単位の仕事だとコーチとして欲求不満になってしまいます。1時間でもある程度効果は出るのですが、できれば1シーズン通してコーチングしたいと思います。これからはそういう方向に徐々にシフトチェンジしていきたいと思っています。
――1時間でも効果が出るのですか？
ポイントを見つけられるかどうかです。ここを治せばここもここも直るというポイントです。でも1時間では難しいですよね。だからもう少し時間をかけて、コーチングに取り組みたいのです。
――こういう仕事をしている人は、太友さんだけじゃないですか？
そうかもしれませんね。僕は怪我で野球を断念した若いころからずっと投手コーチの仕事がしたかった。本当ならもう少し早く始められたらよかったのに、と思ってもいるのです。
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