J1は柏、J2はFC東京が初優勝を飾り、新戦力の台頭も目立ったJリーグ。ただし、今年も変わらなかったのはレフリー判定をめぐるトラブルであった。ではJリーグ開幕以来、恒常的、かつ年を重ねるごとに複雑になりつつある「レフリー問題」解決の糸口はどこにあるのか?普段、スカパー!Jリーグ中継解説で弁舌鋭くレフリーを斬る大西貴氏に、この問題の根底にあるものと日本サッカー界に向けた問題解決への提言を伺った。

■世界に通じるレフリー育成には外部からの評価が不可欠

――スカパー!中継を拝見しても大西さんは特にレフリーについて言及されています。

大西「サッカー界ではレフリーについて論ずることはタブーになっているところがどうしてもありました。でも、10月に行われたスカパー!のディレクター会議では、Jリーグ規律委員会の方がはじめて出席されて、プレーを交えて判定基準も説明したんです。メディア、すなわち伝える側に対して日本のサッカー界が『説明しなくてはいけない』と感じた。そして説明に来た。これは日本サッカー界にとって大きな進歩だと思うんです。
でも、逆に言えば僕らが中継で言わなければ、こんな機会が生まれることもなかった。レフリーについて論ずるのはちっともタブーではないんですよ。

――では、なぜこれまでレフリー批判がタブー視されてきたのでしょうか?

大西「昔はレフリーの皆さんがボランティア、アマチュアの方がほとんどだったので、レフリーに対しリスペクトし、『レフリーに文句を言ってはいけない』という考え方があったからですね。
もちろん今でも、選手や監督はゲームを壊さないために文句を言ってはいけないのは原則です。でも近年、レフリーのレベルは下がってきている。なぜかというと、彼らへの『いい、悪い』という評価が選手に比べてあまりにも少ないから。さらに言えば、批判されることに慣れていないからです。
現在、プロサッカークラブの選手や監督はサポーターや色々な方に見られている。見られることによって社会的に評価を受ける立場にあるわけです。その一方で、レフリーについては評価しない、評価してはいけない空気がこれまで日本のサッカー文化において存在していました。でも、日本のサッカーがよりワールドスタンダードになるためには、やはりレフリーにも注目していかなくてはいけません」

――最近では、上川(徹・日本サッカー協会トップレフリーインストラクター)さんが多くのメディアに露出するようになって、レフリーの生活などはわかるようになってきました。

大西「それはいいことだと思います。レフリーの生活を知ることで、選手と同じようにワールドスタンダードなレフリーを目指す小学生、中学生、高校生が今後生まれるかもしれない。ただ現在は、UEFAチャンピオンズリーグに日本人選手が出場するのは当たり前の光景になった一方で、いまだチャンピオンズリーグで笛を吹いた日本人はいない。選手が世界を目指すのであれば、レフリーも世界を目指すべきでしょうね」

――そうですね。レフリーとしてFIFAW杯に出場することは確かに名誉なことですが、大陸ごとにレフリー出場枠があることなどで、必ずしも世界トップクラスのレフリングが成されているわけではないですからね。

大西「もちろん僕も、現在の日本においてレフリーを職業として生活している方が一握りであることはわかっています。でも0ではない。昔は0だったんです。その状況からJリーグが始まり(1993年)、JFAレフリーカレッジができ(2004年)、プロフェッショナルレフリーが誕生(2008年)し、少しずつ階段を上がってきている。この流れでいけば日本におけるレフリーの待遇はどんどんよくなっていくはずです。