5日のW杯欧州予選(グループ7)ルーマニア戦を1―1で引き分け、グループ首位のセルビアに4ポイントの遅れをとったフランス。9日の直接対決を含めた残り3試合すべてに勝っても、セルビアが2勝すればダイレクトに予選を突破することはできなくなり、2位チーム同士のプレーオフを戦う可能性も高まっている。

 いずれにしても9日のセルビア戦は予選最大のヤマ場となるが、それを前にしたチーム内の雰囲気がかつてないほど緊迫していることを示す出来事が明らかになり、波紋を呼んでいる。

 7日付のル・パリジャン紙によると、“事件”はルーマニア戦の前日、4日夕の練習前に起こった。記者会見後の全員ミーティングで、ドメネク監督が突然、選手にこう言い放ったという。「きょうはきみたちに練習でもっといいところを見せてほしいと思う。きのうは不満が残った。土曜日(5日)の重要な試合に備え、意欲的にとことんまでやるという姿勢が見られなかった」。

 普通の場合なら、監督が選手たちにハッパをかけただけととられてもおかしくない発言だが、選手たちの反応は違っていた。会議室には重苦しい雰囲気が漂ったという。その沈黙をあえて破ったのが主将のティエリ・アンリだった。

 アンリは「監督、僕たちもあなたに言いたいことがある」と切り出し、「チームを代表して言うが、不満があるのは僕たちもいっしょだ。あなたの(指揮する)練習の間、僕たちは退屈している。僕が代表に入って12年になるが、こんな状況ははじめてだ。どうやってプレーしたらよいか、何をしたらいいのかわからない。僕たちにはスタイルも方向性もアイデンティティもない。これじゃうまくいかない」と静かな口調で訴えたという。

 アンリがやる気を失っているとは考えられない。この発言の翌日にピッチで見せたプレーから見てもわかる。しかしいったんピッチを離れると、アンリの表情はいつも浮かない。それはここ数年ずっとそうだが、とくにルーマニア戦の翌朝、TF1局のサッカー番組「テレフット」に監督とともに生出演したときなど、身体の具合でも悪いのかと思われるほど、視線も定まらず暗い表情でボソボソと語るようすは明らかに“普通”ではなく、無愛想とも不機嫌とも違う“憔悴”が感じられた。

 その背景に今回のル・パリジャン紙が報じた“事件”があったとしたら、このアンリの憔悴ぶりにも説明がつく。舞台裏だけでなく、公の記者会見の場でもアンリは「監督が就任して以来、僕たちはつねに困難を抱えてきた」(4日、ミーティング前の記者会見)と“意味深長”な発言を行なっている。

 フランスサッカー連盟は、この件について「ノーコメント」。試合前日の8日、主将として記者会見に臨むアンリとドメネク監督には、これについて質問が殺到すると見られる。W杯予選突破のカギを握る大一番の前に、厄介な問題が生じたことはたしかだ。