岡田ジャパンにおける玉田の存在感は徐々に大きくなっている<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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「メッシのプレーは参考になるよね。この間のアトレティコ戦の話ならいっぱいできるよ」と、新潟市内での日本代表合宿の初日練習を終えた玉田圭二は笑顔で話し始めた。
「やっぱりパスを繋ぐサッカーでも、ドリブルは大事だと思うんだよね。引いた相手を崩すこともできるし、攻撃のアクセントになるから」と、メッシの話をしているが、同じく「ドリブルは最大の武器」と自負する玉田自身を重ねているようでもあった。

 クラブと比べると練習時間の乏しい代表チームだが、最前線の柱となりつつある玉田は自身の役割に手ごたえを掴んでいる。
「グランパスと代表で(自分に)求められることには、大きな違いはないけれど、やっぱり代表のほうが、(中盤から)たくさんパスが出てくるよね。代表のほうがパスの出し手タイプの選手が多いのも理由だと思うし、自分のタイミングをわかってもらえているということもあると思う」

 パスのタイミングをお互いが共有できる理由として、選手たちのコミュニケーション能力があげられる。代表には当然、トップレベルの選手が揃うが、何も技術面だけを意味しているわけではない。選手同士が問題点や得意とするプレースタイルなどを積極的に話し合い理解を深めていく能力も優れている。また玉田は、中村俊輔や遠藤保仁など、ジーコジャパン時代からともにプレーしているため、これまで重ねた時間が互いの共通理解に結びついているのだろう。

 3月、初めて岡田ジャパンに招集された玉田は、練習中から積極的にチームメイトと話す姿を目にする。「玉田は昔はそれほどチームメイトと話さなかったけれど、今は若手ともよく話すし、変わったなと感じる」と遠藤も話していた。
「以前に比べれば、ワールドカップを戦ったこと、ワールドカップ予選を勝ち抜いたことで自分の中に自信があるのは確か。それにこのチームは話をしやすい空気があるからね。やっぱり話すことって大事だと思う。選手のプレースタイルにしてもやっぱりその選手の性格は出るから。それを知るには話すことが一番でしょ」

 Jリーグでの得点率を比較すると、玉田よりも高い選手は数多く存在する。しかし、「確かにゴールを決めるにこしたことはないし、フォワードにとってゴールを決める仕事は大事だけど、それだけじゃないからね」と、己の役割について熟知している。

 それでもレギュラーの座は安泰ではない。彼自身も理解している。ジーコジャパン時代は常にスーパーサブとして存在し続けた。その場所を維持するのはたやすいことではなかったはず。メンバー選考最後の練習試合ではBチームながらいつもゴールを決めていた玉田。「何かやってくれるかもしれない」という期待を指揮官に抱かせる存在だった。

 そして今、立場は変わった。国際経験も代表経験も積み、気がつくとベテランの位置に立っている。今合宿に興梠慎三、岡崎慎司、森島康仁と北京五輪世代の若いフォワードが初招集されたことについては、「彼らにとって、(自分が)良い見本になれればいいと思う。僕を見て何かを感じて欲しいし。代表に呼ばれるというのは何かしら長けたものがあるから。ただ彼らから僕が得る刺激もあるし、お互いが刺激し合えればいい」と、新戦力の登場にも動じる素振りを見せることはない。

 前線から積極的な守備が生命線とも言える現代表のスタイルを考えると玉田の存在は欠かせない。だからこそ、彼はこのチームでは、「なにをすべきか」を証明しなくてはいけない。その覚悟が彼の落ち着いた言葉から伝わってくる。

text by 寺野典子


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