昔のクルマは手動でギヤを落とす必要があった

 最近のAT車のセレクトレバーは、P、R、N、Dの4つのポジションが基準で、Dの脇にM(マニュアル)のゲートがあるクルマが多い。ところがひと昔前のAT車は、Dの下に「2」や「L」といったレンジがあるのが普通だった。あの「2」や「L」レンジはどうしてなくなってしまったのだろう?

 その前に、そもそもなぜ「2」や「L」レンジが必要だったのか。むかしのAT車のDレンジは、シフトアップはまずまずでもシフトダウンは消極的で、十分なエンジンブレーキを得るには、手動でセレクトレバーを動かし、任意にギヤを落とす必要があったから。

 長い下り坂や、急な上り坂、スポーツ走行で鋭い加速が欲しいとき、こうしたときは「2」「L」の出番だった。この頃のATは、3速や4速が主流だったので、OD(オーバードライブ)のオン/オフ切り替えボタンがあって、「2」と「L」レンジがあれば、ギヤは自由に選べたわけだ。

 ところが平成元年に世界初の5速AT(Y31 セドリック・グロリア)が登場し、2001年に6速AT、2002年に7速ATが開発されると、一気に多段化が進み、いまや6速ATが標準レベル。こうした多段ATで、ギヤを任意にセレクトするとなると、「2」や「L」だけでは当然足りないので、パドルシフトやセレクターレバーに「M」レンジを設け、「+」「−」でギアを選べる仕組みになったという次第。

優秀なATほど常にDレンジが最適

 また平成に入り、小型車を中心にCVTが普及したのも大きな要因といえるだろう。CVTは無段変速が特徴なので、本来は2速、1速といった概念がない。したがって「2」「L」レンジもあり得ないので、これらのレンジは不要になった。

 もっともCVTでもスポーツモードやマニュアルモード付きのものがあって、多段ギヤのトルコンATのような操作が可能になっているが、これらもパドルシフトやパドルボタンで操作するので、「2」「L」などのポジションはいらない。トルコンの多段ATもCVTも、燃費をよくするために高いギヤを使いつつ、滑らかな変速、スムースな加速を得るために進化してきた技術。

 いずれもDレンジに入れておくだけで、環境や道路の状況、起伏、ドライバーの操作に合わせ、最適なシフトポイントを自動的にコントロールするプログラムになっているので、優秀なATほど、基本的にDレンジが一番効率のいいエンジン回転数で走ることができる。

 というわけで、セレクトダウン、セレクトアップの出番は減っていく一方で、シフトチェンジに関してはフルオートが当たり前になる日も近いだろう。