星野リゾートはグループで5番目となる新ブランドBEB(ベブ)の展開を始めた(写真:星野リゾート

国内高級ホテル・旅館を運営する星野リゾートは2月5日、「BEB5 軽井沢」(べブファイブ カルイザワ)と名づけた新ホテルを長野県軽井沢町に開業した。

星野リゾートはこれまで高価格帯の宿泊施設の運営が多かった。だが、今回のBEB5は20〜30代の若者がターゲットで、利用者全員が35歳以下であれば1泊1室、1万6000円で宿泊できる。BEBというブランド名に特別な由来はなく、短くて覚えやすく、商標がとれるものを機械的に導き出したという。客室数は73室で、 コンセプトは「仲間とルーズに過ごすホテル」としている。

若者世代の余暇の過ごし方を調査した結果、気心の知れた仲間とともに、日常の面倒な人間関係や時間を忘れたいという体験ニーズにたどりついたという。そのため、友人と深夜まで語り明かし、翌朝に寝坊して朝食を食べそびれても、朝食時間帯以降もホテルが用意した軽食を食べることができる。

若年層の旅行離れに危機感

また、施設内の「卓上アイスホッケー」や屋外ホットワイン体験などのアクティビティも一切予約不要と、とことん「ルーズさ」を演出する。

BEB5の狙いについて、星野リゾート代表の星野佳路氏は、手薄だった若年層開拓のほか、「将来の観光産業を支える20〜30代の(国内)旅行離れトレンドを止めたい」点にあると語った。

ここ数年、日本の観光業界は急増するインバウンド需要の取り込みに躍起になっている。ただ、国内の宿泊需要で見れば、増えたとはいえインバウンドは20%程度で、まだまだ日本人の宿泊需要のほうが大きい。

さらに、星野リゾートを支えるのは購買力が高く、年間複数回にわたり旅行をする40〜50代という客層だ。こうした層は年齢が上がれば身体上の理由から旅行回数が減少してしまう。

一方、20代は星野リゾートを知っているにもかかわらず、高額な宿泊料金から縁遠い存在と感じているという。グループを牽引する高級温泉旅館「界」(かい)や高級宿泊施設「星のや」の将来を盤石にするために「こちらから若者のほうを向くことで、早くからファンにしたい」(星野氏)狙いだ。

星野氏は1年間で宿泊を伴う国内観光旅行に出掛けた20〜30代男性が年代全体の50%程度しかいないことを挙げつつ、「はたして観光業は若者をターゲットにした商品をつくってきたのか。業界一体となって、若者に国内旅行が楽しいと思わせないといけない」と危機感をあらわにした。

それを踏まえ、BEBが取り入れたのが宿泊価格の固定制度だ。利用者全員が35歳以下であれば、曜日や連休にも関わらず、1室1万6000円で値段が変動しない。ホテル業界では長期休暇期間のみならず、休日やその前日に価格を極端に高く設定することが常態化している。BEBを35歳以下の3人で利用すれば、週末でも1人あたり5000円ほどで宿泊できる。

これまで星野リゾートが展開している施設のうち、開示されている施設の年間累計ADR(平均客室単価)は、家族向けのリゾートホテル「リゾナーレ」で約4〜5万5000円、「界」が約3〜6万5000万円、「星のや」は約6万5000〜9万円。BEB5の低価格は際立っている。

低価格はレッドオーシャン

気になるのは、低価格分野の競争が激しい点だ。大手予約サイトを見れば、軽井沢の周辺で、1万6000円以下で泊まれる宿泊施設は100軒近くもある。「仲間とルーズに過ごす」というコンセプトは、アメリカのAirbnb(エアビーアンドビー)など民泊とぶつかる。

この点について星野氏は「低価格帯の競争だけが激しいわけではなく、どこ(の価格帯も業態)も激しい。『界』のような温泉旅館も供給過剰だ」と指摘する。

星野氏によれば、「界」や「星のや」同様、 70〜80%の客室稼働率が実現できれば採算が合うように設計したため、収益はしっかり出てくるという。

その秘訣は、チェックインの機械化や清掃オペレーションの自動化により、スタッフ数を最小限に抑えることだ。BEB5の金子尚矢総支配人によれば、スタッフ数は77室を抱える「星のや軽井沢」の3分の1から4分の1まで抑えられる。

とはいえ、星野氏は「『界』でいえば、温泉旅館というモデルは昔からあった。市場調査で把握できることはすべて実現したが、BEBのコンセプトはまったく新しいため、最初から20代にアピールできる(完全な)サービスになっているとは思ってない」と漏らす。

期待と不安が入り交じったBEBは目論見どおりの支持を集められるか。そのためには若い客からよりリアルなニーズを吸い上げ、改良を積み重ねる必要がありそうだ。