小型24時間ジムのエニタイムフィットネスは、利便性と会費の安さを理由に若い世代から支持されている。写真は東京大田区の平和島店(撮影:大澤 誠)

フィットネス業界で今、大きな変革が起きている。これまでダイエットや体を鍛えるために通う場所といえば、大型施設の総合フィットネスクラブ(スポーツクラブ)が常識だった。しかし最近では、「24時間年中無休」をうたった新業態の小型ジムが急激に店舗数を増やし、若い世代から高い支持を集めている。
スタジオやプールも完備した従来の総合フィットネスクラブと違って、新たな24時間営業の小型ジムは筋トレや有酸素運動のマシンに特化。シャワーなど水回りも至って簡素だ。店舗面積は60〜80坪程度とコンビニより多少広い程度で、夜間から早朝はスタッフ不在の無人営業になる。
その分、会費は総合型より3割前後安く、都内でも月会費の相場は8000円未満。鉄道駅周辺にあるビルの1フロアを借りて営業するケースが多く、便利な場所にあって、いつでも利用できるため、「コンビニ型ジム」や「24時間ジム」と呼ばれている。
こうした24時間ジムの多店舗化で大きく先行するのが、「エニタイムフィットネス」だ。エニタイムはアメリカで大成功した24時間ジム。それを日本でも普及させようと、野村不動産系のフィットネス事業会社を退職した元役員や中堅幹部らが集まり、2010年から国内で事業展開を開始。年を追うごとに出店ペースは勢いを増しており、日本でもエニタイム店舗数はすでに400店を突破し、今年度末には500店に迫る勢いだ。
エニタイムの成功を見て、各地で24時間ジムへの新規参入組が続出し、同様の業態は全国で1000店を超えるまでになった。なぜ、24時間ジムは日本で短期間に受け入れられたのか。さらなる市場成長の余地はあるのかーー。
東洋経済では大きな転換期にあるフィットネス業界のキーマン2人にインタビュー。1回目はエニタイムの国内運営会社、Fast Fitness Japanの土屋敦之社長に聞いた。

24時間ジムは地方でも成立する

ーー出店攻勢を強めています。

昨年度に初めて年間100を超える新店をオープンさせたが、今年度は150店以上の出店を目指している。10月末時点の店舗数は420店で、その約8割がフランチャイジー(FC)だ。現在、約100社のFC加盟企業が各地でエニタイムの店舗を運営しており、どの会社も出店意欲が強い。早ければ来年春には500店を突破するだろう。

オープン予定のものも含めると、すでに都内だけでエニタイムは160店近くあり、大都市圏はかなり押さえた。今は地方での出店に重点を置いている。10月時点で33都道府県に進出済みで、まだ店舗がない県にもこれから出て行く。首都圏は駅の周辺が主な立地だが、地方は車社会。ショッピングセンターやロードサイドの飲食店の2階など、生活圏で人が集まる場所に出している。

ーー地方は人口が少なく、大都市のようにはうまくいかないのでは?

だから逆にチャンスがある。人口が少ないから、投資負担が大きい従来の総合フィットネスクラブは出ていない。でも、低投資の24時間ジムなら出せる。「地方の人はジムに行かない」なんて言う人もいるが、ジムがないから通っていないだけ。本格的なジムができたら通いたいと思っている人たちはたくさんいて、地方でもエニタイムの店舗は順調に会員が集まっている。


たとえば、熊本県では昨年7月に1号店を直営で熊本市内に出した。前年に熊本地震があって、そうとう苦戦することも覚悟していたが、オープン月だけで約1000人もの会員が集まった。その約2カ月後、近くに出した2号店もすぐに1000人集まった。12月中旬には熊本で5店目がオープンする。

今、こうした地方での大量出店が当社の急成長を引っ張っている。大事なのは先にマーケットを押さえること。われわれが今のペースで地方でも地盤を固めたら、他社はもう出てこられないだろう。

ーーエニタイムはアメリカで成功した業態ですが、それをそのまま日本に持ち込んだのですか。

コンセプトはもちろん、セキュリティの仕組みなどもすべてアメリカと同じです。ただ、水回りだけは意図的に変えた。アメリカのエニタイムはトイレやシャワーが男女兼用なんですよ。さすがに日本でそれはまずいだろうということで、男女別々にした。

ーー会員構成の特徴を教えてください。


土屋敦之(つちや・あつゆき)/1991年大学卒業後、野村不動産に入社し、後に志願して新規のフィットネスクラブ「メガロス」事業に従事。退社後にメガロス時代の元上司らに誘われ、Fast Fitness Japanで24時間ジム「エニタイムフィットネス」の国内展開に携わる。2017年に社長就任(撮影:風間仁一郎)

どの店舗も判を押したように顧客層が同じで、男女の比率は7対3。年齢で言えば、20〜40代が80%以上を占め、若い世代が圧倒的に多い。また、全体の約半数がスポーツクラブやジムに初めて通う初心者で、もう半数の多くは総合型に以前入会したけれど、何らかの理由で退会された人たちです。

ーー必ずしも総合型の現役会員を奪っているだけじゃない?

ええ、違いますね。そういう人も当然いるが、大半は運動したいけど総合型への入会をためらっていた人や、過去に総合型を退会された人。そういう人たちが、家の近くにエニタイムができて、じゃあ通ってみるかと。つまり、24時間ジムが運動人口の増加につながっているわけで、新しい市場を創出したと自負している。

人気の背景に総合型への不満

ーー最初から成功する自信はあったのですか。

業界では「マシンだけ置いて会員が集まるわけがない」と言われたが、成功する可能性はあると思っていた。いちばんの根拠は価格です。

当時いろいろなアンケート調査を見ると、みなさん運動はしたいと考えているのに、「フィトネスクラブは会費が高すぎるので入会しない」という回答が非常に多かった。だったら、料金設定を下げて、プライスギャップを埋めたら会員が集まるのではないかと。結果はごらんのとおりです。

ーーなぜ20〜40代に支持されたと分析していますか。

20〜40代は仕事や付き合いでいちばん忙しい世代。しかし、従来の総合型は大半が夜11時までに閉館するし、仕事帰りの夜間や土日にも利用できる標準会員になったら、1万円以上の月会費を取られる。

シニアの多くは昼間の会員で会費が安いが、夜しか通えない20〜40代の人たちは、一番高い会費を払わされている世代でもあるんですよ。そうした総合型の料金設定や使い勝手に対する不満があって、24時間ジムがその受け皿になっているのだと思う。

ーー開業する際の初期投資額や標準的な収益モデルを教えてください。

エニタイムは世界トップランドのマシン設備を使っているので、それがおよそ2000万円ぐらいして、内装工事費が大きめの100坪なら3500万〜4000万円。さらに敷金・保証金や物件仲介手数料、FC加盟金などを積み上げていくと、開業時にかかる費用は8000万円から1億円近くになる。

一方、損益分岐点は会員数で400〜500人だが、今の1店舗当たりの平均在籍会員数は約850人で、損益分岐点を大幅に超えている。月会員費7000円として、月の売上高が約600万円。人件費や本部に支払う諸費用、家賃などを差し引いても店舗段階で毎月200万円以上の営業利益が出て、初期投資を4年かからずに回収できる計算です。

商売として考えれば、これほど収益性の高い事業はめったにない。出した店舗が実際にうまく回っているから、どのFCも出店意欲がものすごく強い。みんなやる気満々で、今は本部が「行くぞ!」と掛け声をかけたら、FCが一斉に「オッー」と手を挙げるような状態です。

トップシェア維持し、1000店目指す

ーー24時間ジムは参入障壁が低く、新規参入組が後を絶ちません。同じような24時間ジムがあちこちにできて、かなり競争が激しくなりそうです。

過当競争と言われるコンビニを見ても、1店舗当たりの日販は市場を作ったセブンーイレブンが図抜けている。同じように24時間ジムではエニタイムが市場のパイオニアで、ブランド力はいちばん高いと思う。楽に勝ち残れるとは考えていないが、「エニタイムがいちばんかっこいい」と思ってもらえるよう、これまで以上に店舗の質にこだわりたい。

また、シェア、店舗数でもトップの座を絶対に守り抜く。24時間ジムの業態は全国で1000店以上にまで増えたが、この調子でいけば、最大で2000店ぐらいの市場になると思う。そのうちエニタイムだけで半分の1000店を目指したい。

ーー後発組への対抗策として、会費を下げる考えは?


店舗はオートロックで、会員は専用ICキーをかざして入退出する。夜間から早朝まではスタッフが不在。トラブルや事故が起きた時には、通報ボタンを押して警備員を呼ぶ(撮影:大澤 誠)

戦略としてはありだと思うが、現時点ではまったく考えていない。価格を下げるということは、自分たちの提供しているサービスの価値を下げるということ。今の水準でも総合型と比較すれば十分安い。価格を下げて失敗した企業は世の中にたくさんある。今の会費を下げるぐらいだったら、多少会員が減っても我慢したほうがいい。 

ーー土屋さんは以前、野村不動産グループの総合フィットネスクラブ「メガロス」の運営にも携わりました。総合型の現状をどう見ていますか。

大きな施設を作って、大量の会員を集めるのが総合型のビジネスモデル。しかし、最近はどこも都市部に従来のような大きな新店を出せなくなった。それがすべてを表していると思う。地価や施工費が高騰し、新店に必要な投資額が跳ね上がっている。しかも、重い固定費を覚悟して出したところで、昔みたいには会員が集まらない。

ーー同じ24時間ジム業態で脅威になりそうな会社は?

どのライバルがというよりも、われわれの関心は、出店に適した好立地が今後もあるかどうか。新規参入組がどんどん増え、最近はほかの24時間ジムと場所の確保で競合するケースが増えている。いくらFCに出店意欲があっても、いい場所がなければ店は出せない。すごく高い金額で物件を押さえに来る競合他社もいて、びっくりすることもある。

あと懸念としては、異業種からの参入組ですね。フィットネス業界で食べてきた会社は専門知識があるのでまだいいんですよ。何の知識もないのに、「トレーニングマシンを置いて、24時間営業にしときゃ儲かるらしいぞ」と、安易な考えで異業種から入ってくる企業がたくさんある。そんな店舗で何か大きな問題が起きたら、24時間ジムそのものに対する不安が広まりかねない。そこがすごく心配だし、非常に懸念している点です。