埼玉を地盤とする食品スーパーのベルク。1959年の創業以来、閉店したのはわずか2店舗だけだという(記者撮影)

コンビニエンスストアやドラッグストアとの競争激化や、人手不足に伴う人件費上昇といった逆風が吹き荒れる食品スーパー業界。この厳しい環境下で、埼玉県を中心に106店を展開するベルクが快走を続けている。

同社が5月10日に発表した4月の既存店売上高は前年同月比1.3%増と、60カ月連続での前年同月超えを果たした。全体の業績も好調だ。今2019年2月期は売上高2205億円(前期比4.3%増)、純利益68億円(同0.5%増)を計画しており、28期連続での増収、13期連続での最高純利益更新を見込む。

整然としていない陳列棚

4月中旬に行われた決算説明会の席上、ベルクの大島孝之社長は「商品力強化に力を入れ、買い上げ点数の増加を図った。毎月10店舗に調査員を派遣してサービスをチェックするなど接客力の向上にも努めた」と語った。


カップ麺は区画された棚に一見乱雑に置かれているが、作業効率の向上を考えた結果、各店舗でこのような手法を徹底しているという(記者撮影)

実際にベルクの店舗に足を運ぶと、従業員の作業効率アップを目的とした工夫が随所に施されていることがわかる。牛乳や豆腐、モヤシなどの戦略商品はケースごと陳列し、商品補充が必要な際にはケースごと素早く入れ替える仕組みを採用。よく見ると、カップ麺や菓子類も整然と並べずに、区画された棚の中にゴロゴロと入れてある。メーカーの営業担当者が陳列に手を出しそうになることもあるが、作業効率の悪化につながるため、ベルクはそのような行為を認めないという。

品質・サービスの均一化や低価格販売が顧客から支持を受け、ベルクの従業員1人当たりの売上高は同業他社の1.3倍の水準となっている。会社全体の営業利益率も4.5%(2018年2月期実績)と、同じく埼玉を地盤とし高収益率で知られるヤオコー(2018年3月期営業利益率は4.1%見込み)と肩を並べる。


店頭には特売の生鮮品がずらりと並ぶ。こうした低価格販売が顧客から支持を受ける理由の1つとなっている(記者撮影)

こうした作業効率の向上を支えているのが、店舗運営の「標準化」だ。競合のヤオコーは、店長に大きな裁量を与えることで地域特性に応じた店舗を展開し、収益を伸ばしている。これに対して、ベルクは店舗運営のフォーマットを統一し、本部主導で100店を超えるすべての店舗で同じ店作りを追求している。

本部が各店舗に指示を出して同じような店作りをするのは、チェーンオペレーションとしては一般的であろう。その点、ベルクは徹底の“度合い”が違う。

強みの源泉である”本部主導”

まず、店舗の広さは大型の約600坪に統一。小型、中型の店舗には決して手を出さない。品出し作業をするスタッフがいても買い物カート2台がすれ違えるように、ゆったりとした通路スペースを確保するためだ。

店舗の広さが均一であるため、店内レイアウトも基本的に全店同じ。商品棚や冷凍ケースなどの大きさや形状も同様だ。備品も店舗側の独自の判断では購入できない。モップやガラスクリーナーといった清掃道具が必要な際は、リストの中から本部に注文して取り寄せる仕組みになっている。


ベルクは店舗形状にとどまらず、スタッフの日常業務の手順も統一している(記者撮影)

店舗形状などのハード面だけではなく、スタッフの日常業務の手順などソフト面も統一している。たとえば、床や冷凍ケースは磨く時間帯や作業手順が細かく決められている。

商品の仕入れについても本部が産地などから一括調達し、全店に配給する。売れる商品を調達するのは本部の役割で、一方で最適な売り場レベルの実現や人員体制の確立など店舗運営については店長の役割と、本部と現場の責任を明確に分けている。店長は売上高や利益などの収益目標を課せられているが、その達成度合いは人事考課には直結しないので、本部から要求される店舗運営に徹することができる。


つまるところ、ベルクは全店統一の店舗オペレーションを徹底することで、品質やサービスの均質化を図っている、というわけだ。

「『ベルクならばどこの店に入ってもハズレがない』という安心感を顧客に持ってもらいたい。コンビニでも、たとえ同じ系列であっても日頃から利用したい店とそうでない店がある。明るい雰囲気、居心地のよさ、床や棚が汚れていないなどを顧客は無意識にとらえて、店を選別している。ベルクは全店が『何となく雰囲気のよい店』になることを目指している」と、小達真・経営企画部長は強調する。

創業以来、閉店したのは2店だけ

オペレーションの統一により規模のメリットが発現し、商品の販売価格も安くできる。「やるとなったらやる」(小達部長)と、特売品に指定した商品はチェーンを上げてセールする。特売品だけでなく、日頃から特に購入頻度の高い牛乳や食パン、豆腐、納豆などは競合店に負けない価格を設定。低価格を訴求するために、PB(プライベートブランド)の開発も強化している。


安売りに定評があるベルク。特に牛乳は競合店より安いと、もっぱらの評判だ(記者撮影)

並行して、既存店のブラッシュアップに全力を注いでいることもあり、年間の出店は既存店舗数の5〜10%程度(2019年2月期は5出店を計画)を目安にしている。埼玉県北部に所有する2つの物流センターが有効に機能する関東エリアに集中出店していく方針だ。一方で、撤退する店舗は極めて少なく、1959年の創業からこれまでに閉鎖したのは2店舗しかない。

チェーンストアの原点ともいえる標準化を愚直に推進することで順調に収益を積み上げてきた同社だが、今後の経営は決して安泰とは言い切れない。とりわけ、スーパー業界の人手不足は深刻で、ベルクもパートスタッフが足りずに派遣社員で補うケースがある。同社の人件費は年々上昇傾向にある。

今後は、現在30店舗に設置しているセミセルフレジを今後も積極的に各店舗に導入し、さらなる生産性向上を狙って既存店の改装も継続する構えだ。ベルクの快進撃はどこまで続くか。