TOKIOの山口達也が被害女性と知り合ったというNHK・Eテレ『Rの法則』のウェブサイト。5月7日現在、サイトは「放送をお休みしています」として書き換えられている。

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TOKIOの山口達也が未成年への強制わいせつ容疑で書類送検され、不起訴処分(起訴猶予)になった問題で、ジャニーズ事務所が契約解除を発表した。事務所のジャニー喜多川社長はファクスで「全ての所属タレントの『親』としての責任」に言及したが、依然として会見には応じていない。なぜ社長が出てこないのか。TOKIOの他の4人に対応を押し付けるだけでいいのか。元「週刊現代」編集長の元木昌彦氏が問う――。

■被害女性は携帯電話で母親に救いを求め、助け出された

強制わいせつ罪とは暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をすることである。

TOKIOのメンバー・山口達也(46)は、泥酔して、家に呼んだ女子高生に「キスなど」の強制わいせつ行為をした。

キスを強要したぐらいで、今時の女子高生が逃げ回ったとは、私には考えにくい。彼女は携帯電話で母親に救いを求め、助け出された。母親が警視庁に被害届を出し、凶悪犯罪担当の捜査一課が動いた。

山口と被害女性はNHK・Eテレの番組『Rの法則』で知り合った。警察は捜査の過程でNHKにも事情を聞いたはずだ。NHKが4月25日に事件をスクープした。

事件を知った記者はこう考えたのではないか。ジャニーズ事務所に察知されれば、社の上層部に圧力をかけてきて潰される。NHKには事務所側に逆らえない人間が多くいる。事務所に盾突けば、年末の『紅白歌合戦』に嵐を始め、所属タレントを出さないといいだすから、うちが第一報を打つのは止めておけ、というに違いない。

■「山口メンバー」という珍妙な呼び方

NHKの報道を受けて、翌日のスポーツ紙やテレビのワイドショーは山口事件一色になった。だが、奇妙なことに、ワイドショー、全国紙でも読売新聞を除いて朝日新聞や毎日新聞までもが「山口容疑者」ではなく「山口メンバー」と報じた。

女子高生への強制わいせつ容疑で警察の取り調べを受けている人間をメンバーなどと珍妙な言葉でいい換えた背景には、ジャニーズ事務所が長年芸能マスコミをわがもの顔に牛耳ってきた歴史がある。

私の経験から語ろう。1981年、私は『週刊現代』(4月30日号)で「『たのきんトリオ』で大当たり 喜多川姉弟の異能」という記事を作った。異能というのはジャニー喜多川社長(86)の「ロリコン」疑惑のことである。当人は取材を受けなかったが、姉のメリー喜多川(91)が朝倉恭司記者のインタビューを受けた。

4ページの目立たない記事だった。発売直後、事務所側から講談社に対して、今後、たのきんトリオ(当時SMAPのような人気者だった田原俊彦・野村義男・近藤真彦の3人組)を含めて、一切うちのタレントを講談社の雑誌(主に10代の少年少女向け雑誌や漫画誌)には出さないと通告してきた。

週刊文春がこの騒動を大きく取り上げた。困った社は、私を『婦人倶楽部』という月刊誌に飛ばし、事務所側に全面降伏した。

■「稲垣メンバー」と「草なぎ容疑者」の違い

2001年8月、SMAPの稲垣吾郎が公務執行妨害と道路交通法違反の「現行犯」で逮捕された。各テレビ局は、ジャニーズ事務所側の強い「要請」があったのだろう、稲垣容疑者ではなく稲垣メンバーなる不可解な呼称を連呼した。

私の友人で芸能レポーターの梨元勝(故人)は、当時出ていたテレビ朝日の番組で局から、稲垣のことには触れないでくれといわれ、激怒して出演拒否した。それがきっかけになり、梨元はテレビ局から疎まれ、活躍の場をネットへと移すことになった。

2009年4月にはSMAPの草なぎ剛が泥酔し、全裸になって公園で暴れ、公然わいせつ罪の現行犯で逮捕された。この時は、稲垣メンバーという呼び方に批判が高まったこともあってか、草なぎ剛メンバーではなく、容疑者と呼んだ。

今回なぜ「メンバー」が復活したのだろう。スポーツ紙のように山口達也でいいはずだ。『BuzzFeed』(4月27日発信)は、新聞各社に肩書をメンバーとした理由について聞いている。

朝日新聞は、逮捕時、書類送検時など、「事案の軽重や当事者の属性などを踏まえて実名か匿名か、どのような呼称とするかを個別に判断する」と答えている。

■小倉智昭「NHKは事務所側に連絡を入れていたのか」

だが山口に肩書がないからメンバーとしたというのは、苦しいいい訳だ。朝日新聞出版が発行している『事件の取材と報道 2012』ではこう記されている。「社会的影響が大きな事件などでは、特にこうした見通しを十分に取材したうえで、書類送検時であっても実名・容疑者呼称を検討する」

今回の件は、十分に社会的影響の大きい事件だと思うのだが。

書類送検されたが、示談が成立していたこともあり「起訴猶予処分」になった瞬間、「山口さん」といい換えたテレビ局の節操のなさにはあきれた。本当は「山口様」とでもいいたかったのではないか。

スキャンダルを起こした芸能人を擁護することで知られる小倉智昭の『とくダネ!』(フジテレビ・5月3日放送)で、小倉は、NHKはニュースを流す前にジャニーズ事務所側にキチッと連絡を入れていたのかとNHKの報道姿勢に疑問を呈していた。

さすがにこれにはコメンテーターの社会学者・古市憲寿が、「これがもし、事務所から『ちょっとやめてくれないか』っていわれ、のんじゃうのも、どうかって、違う気がする」と反論していた。

だが彼も、同番組の中で「(地検が不起訴にしたのだから)大した犯罪じゃなかったわけですから」と発言していたのには驚かされた。

■なぜ記者たちは「ジャニー喜多川を出せ」といわないのか

『週刊現代』(5月19日号)はこう報じている。

「警視庁は山口を書類送検する際、検察に対して『厳重処分』という処分意見をつけた。これは起訴を求めるという重い見解だ」

東京地検は不起訴の理由を、山口は強制わいせつ容疑を認めていて示談も成立している。また社会的制裁を受けていることも考慮したといっている。

ここからは推測だが、被害者の母親のコメントを読む限り、女子高生の被った被害は大きいようだから、山口側は相当な額の示談金を払ったと思われる。

こうした事件では、示談が成立するかどうかが起訴と不起訴を分ける。“大した犯罪”だったのだが、カネを積んで何とか不起訴に持ち込んだというのが真相のはずだ。

その上、山口は“アルコール依存症”による肝臓病が悪化して1カ月入院していた。退院したその日の夜、焼酎を1本飲んで事件を起こしているのだ。事務所側やマネージャーの管理監督責任が問われてしかるべきだ。

企業に不祥事が起きると、記者たちは必ず「社長を出せ」と要求する。なぜ今回、「ジャニー喜多川を出せ」「メリー喜多川を出せ」と記者たちはいわないのか。

喜多川社長はファクスで、「私自身はすべての所属タレントの『親』としての責任を負いながら今後も彼らが“ひと”として成長できますよう、支援し続けて参る所存でございます」という、まるでひとごとのような文面を発表しただけだった。

■「断酒会」に参加させて、テレビで毎週流せばいい

「親としての責任」というなら、アル中の中年男をなぜ一人で放置していたのか。山口と2人で謝罪し、山口を芸能界から永久追放するとでもいうべきであった。

否、もっといい方法がある。山口を「断酒会」に参加させて、その模様をテレビで毎週流すのだ。DASH村よりリアルで啓蒙精神あふれるドキュメンタリーになる。

山口が50歳になったら、視聴者からの投票で、依存症から抜けられたかどうかを決めるというのはどうだろう。

事件発覚後の山口の身の処し方も明らかにおかしかった。酒毒が体中に回ったのではないのか、としか思えない行動だった。

3月末に警察からの聴取を受けていた。だが、事務所に知らせたのは4月に入ってからだった。事務所側はそれを受けて、極秘裏に被害者との示談交渉を進めた。事件をもみ消そうとしていたのであろう。

警察の聴取後も山口は、何もなかったかのようにテレビに出演していた。事務所の力をもってすれば、何とかなると高をくくっていたのではないか。

■50近くでも人間的に成長しない“中年ガキ”の顔

『東京スポーツ』(5月3日付)によれば、事件が報道される前日にも、事件のきっかけを作ったNHKの『Rの法則』の収録に出ていたという。記事では「NHK関係者」の発言としてこう書かれている。

「その場には希望に満ちたNHKの新入局員たちが見学に訪れていたんですが、収録を終えた山口は新入局員一人ひとりと笑顔で握手しながら『早く偉くなって僕を使ってね!』とお願いしていた。この時を振り返った新入局員たちは『番組で共演者とあんな問題を起こしていたのに……』『信じられない』『怖い』とショックを受けている」

山口は謝罪会見後にもおかしな動きをした。TOKIOの4人に土下座して謝り、「退職届」を渡していたのだ。

事務所に出すべきものを、仲間に渡してどうする。ここにも、事件の重大さに思いが至らず、50近くになっても人間的に成長しない“中年ガキ”の顔がのぞいた。

「TOKIOに戻りたい」と無邪気に甘えれば、これまで同様、メンバーやファンたちが何とかしてくれると考えたのだろう。

■メンバーには切ることも許すこともできはしない

さすがにTOKIOの他のメンバーから、「裏切り」「復帰はあり得ない」「そんな甘えた言葉は聞きたくなかった」という批判の声が出た。だが、この4人も、言外に「山口に戻ってもらいたい」という甘えの構造から抜け出てはいなかった。

何でもいいから謝れ、頭を下げろ、涙を流せ。そう事務所からいわれて、十分な話し合いもないまま会見を開いたのが見え見えだった。無理もない。彼らには、山口を切ることも許すこともできはしないのだから。

もう一度いう。山口とともに謝罪すべきは喜多川姉弟である。高齢であるというのは理由にならない。

不祥事やスキャンダルが出ると、自分たちは影に隠れて、当人たちを操りテレビでさらし者にするのが、ジャニーズ事務所の危機管理のやり方である。

年端もいかない若者たちを集め、歌えない踊れないのを数でごまかし、アイドルグループに仕立て上げる。寝る間もないほどカネを稼ぐ操り人形にはするが、人間としてどう生きるべきかという教育を施してこなかった。山口などはその悪い見本であろう。

■示談を進めたのは事務所か、山口本人か

ジャニーズ事務所をつけ上がらせたのはメディアの責任も大である。テレビ局などは、ジャニーズ事務所に媚びへつらい、歌番組はもちろんのこと、ドラマも丸投げ状態が長く続いた。

出版社も同様である。先に述べたように、ジャニーズ事務所はもちろんのこと、AKB48などのアイドルたちのスキャンダルも、一部の週刊誌を除いて、社の上から扱うなと厳命が下され、現場からは不満の声がでていると聞いている。

各社の芸能担当記者たちも同様である。今回、山口やTOKIOの4人の会見でも、週刊誌などは入場を制限され、質問ができるのは気心の知れた無難な記者ばかりだった。

そのため、強制わいせつの範囲を矮小化し、キス程度だったことにしたい事務所側のもくろみを打ち破る質問は何も出なかった。TOKIOの4人に答えを求めるのは酷だろうが、質問することで見えてくるものがあるはずだ。

示談を進めたのは事務所か山口本人か。アルコール依存症はどの程度か。退院後、事務所は山口にどう対処していたのか。事件が報じられるまで、山口をテレビに出演させ続けていたのはなぜか。TOKIOの解散はあるのか。聞きたいことは山ほどあるはずだが、そうした質問は出なかった。

■所属タレントにセクハラをする「帝国」の実態

ましてや、なぜジャニー&メリーの喜多川姉弟は表に出てこないのか、という質問などは期待するほうが無理というものだ。芸能マスコミも根腐れしてきている。

喜多川社長の才能は「芸能界で売れる見栄えの良い少年」を発掘することである。フォーリーブス、たのきんトリオ、SMAP、TOKIO、嵐など、次々にアイドルグループを成功させてきた彼の異能ぶりが、今日のジャニーズ帝国をつくりあげた。

しかし、フォーリーブスのメンバーだった北公次が、喜多川社長についての暴露本を出した。週刊文春の連載キャンペーンを喜多川が名誉棄損で訴えた裁判では、二審の東京高裁(矢崎秀一裁判長)が一審判決を翻して、喜多川社長の所属タレントへのセクハラ行為をはっきりと認定した。

帝国の実態が次々に明るみに出て、土台が崩れつつあった。それに拍車をかけたのがSMAPの解散だった。

その前にSMAPのマネージメントをしていた女性マネージャーが事務所を辞め、独立した。

先月には、関ジャニ∞の渋谷すばるがグループからの脱退を発表した。15周年のツアーを始める直前だった(※)。

※初出時、「5周年」としていましたが、正しくは「15周年」です。訂正します。

かつて「王国」「帝国」とまでいわれたナベプロ(渡辺プロダクション)が70年代後半に「崩壊」したのも、一テレビ局の反乱からだった。驕れるジャニーズ帝国の崩壊もそう遠い事ではないはずだ。これからも事務所の方針に嫌気を起こし、離れるタレントが出てくる。

山口達也の不祥事が、SMAP解散で急坂を下り始めたジャニーズ帝国凋落のダメ押しになる。私はそう思っている。(文中敬称略)

(ジャーナリスト 元木 昌彦)