東京・銀座にアマゾンジャパンが期間限定で開いた「Amazon Bar」。壁にはずらりとお酒が並べられている(記者撮影)

ビールにワイン、ウイスキー、日本酒――。あらゆるお酒のボトルが壁一面にずらりと並ぶ光景に、道行く人々が思わず足を止める。ここは、銀座の街中に突如現れた「Amazon Bar(アマゾンバー)」。ネット通販(EC)の巨人・アマゾンが、10月20日から29日までの期間限定で運営するバーだ。

店内では、アマゾン酒類事業部のバイヤーがえりすぐった160種のお酒を、1杯500〜1500円で提供。国内外の酒造メーカーとコラボしたイベントや試飲会も連日開催する。展示されている約5000本のお酒は、実際にアマゾンのECサイトで購入できるものの一部だ。

質問に答えるとお薦めのお酒を提案

「これまで知らなかったお酒と出合い、アマゾンの豊富な品ぞろえをリアル空間で体感していただきたい」(アマゾンジャパンの前田宏・消費財事業統括本部長)。その狙いから、アマゾンバーには通常のメニュー表を置かず、訪れた客のその日の気分に合うようなお酒をお薦めする独自の注文システムを設置した。


店内に設置されたタブレットで質問に答えると、おすすめのお酒を提案してくれる(記者撮影)

専用のタブレット端末からビール、ウイスキー、赤ワインなど、お酒の種類だけを選択、その後、「今の気分を一言で言うと?」「今したいアクティビティは?」といった選択式の質問に答えていくと、お薦めの銘柄が複数表示される仕組みだ。注文するお酒を確定し、横にある端末からレシートを発券。それをカウンターに持っていき、支払い・受け取りを行う。

このようなバーを出店するのは、アマゾンにとって世界初の試みだ。本社のある米国では州によって酒税が異なるため扱い方が複雑で、アマゾンによるお酒の販売はごく一部にとどまっている。一方の日本ではそうした制約がないうえ、「酒類は食品・飲料、日用品など消費財のグループの中で、最も成長著しいカテゴリーの1つ」(前田本部長)であり、今回の世界に先駆けた取り組みにつながった。

そもそも、酒類はECに向いている商材といえる。ワインや日本酒といった瓶入りのもの、ビールやチューハイの24缶ケースなど、重さのある商品を自宅まで届けてもらえるのは便利だ。また、ワインやウイスキー、日本酒などは一般的な食品・飲料以上に産地や種類が多岐にわたる。リアルの店頭では見つけにくい珍しい銘柄を探すのにも、ECは向いている。

日本のアマゾンが酒類の直接仕入れ・販売を開始したのは2014年4月。まだ歴史は浅いものの、重要なカテゴリーに位置づけ、商品数を拡充するとともにあらゆる施策を講じてきた。

酒類専用倉庫やワイン直輸入も始めている

2015年7月には酒類専用の低温倉庫を稼働させ、取り扱い可能なお酒の種類を大幅に増やした。また2016年2月にアマゾン専属のソムリエに電話やメールで無料相談できるサービスを、その年の6月にはワインを主要産地から直輸入し販売する取り組みを始めている。これらの施策も貢献し、アマゾンにおける2016年の酒類売上高は、初年度の2.7倍まで拡大した(実数は非公開)。


「プライム・ナウ」の専用倉庫には、ワインなどのお酒と一緒におつまみも並べられている(撮影:尾形文繁)

日本にも相次ぎ上陸している、アマゾンの有料会員「プライム」向けの最新サービスでも、酒類関連の取り組みは活発だ。2015年に始まった、注文商品を最短1時間で届ける超速便「プライム・ナウ」では、冷えた状態で届くスパークリングワインをはじめ、最大で150銘柄のお酒を用意。チーズや菓子類など、おつまみに適した軽食類とともに販売を強化してきた。

2016年末に日本での販売を開始した、ボタンを押すだけで注文が完了する「アマゾン ダッシュボタン」には今年6月、ビール・チューハイ類が加わった。特にビールの品ぞろえについて前田本部長は、「(ボタン未発売の)アサヒビールの『スーパードライ』やキリンビールの『一番搾り』を含め、広く人気のある銘柄は均等に提供したいし、メーカーにも当社から提案している」と意欲的だ。

メーカー側も手応えを感じているようだ。ボタンを導入したサッポロビールの「黒ラベル」缶は、2017年1〜9月のアマゾンでの販売数が、前年同期比約2.1倍に伸びた。またキリンビールのチューハイカテゴリーにおいては、実店舗での販売は「本搾り」より「氷結」のほうが多いものの、アマゾンの酒類総合ランキングでは、ボタンを導入した本搾りが、氷結を上回る逆転現象も起きた。


キリンビールが展開する「本搾り」のダッシュボタン。Wifiに接続させれば、白い部分を押すだけで注文が完了する(記者撮影)

つねに消費者の目に触れさせるため、メーカーは実店舗で他社より多くの棚を占有しようと奮闘している。だが、スペースの限られた棚には陳列しきれない製品も多い。中小メーカーの苦労はなおさらだ。

そんなメーカーにとって、アマゾンでの販売には「ニッチな製品でもロイヤルティの高い消費者に直接訴求できる」(サッポロビール)というメリットがある。加えて、ダッシュボタンのように繰り返しの注文を簡便化するツールがあれば、他社製品に“浮気”される心配も減る。

お酒を買うアマゾンユーザーはまだ少数派


アマゾンバーの開店イベントには、俳優の別所哲也さん、女優の三船美佳さんが登場した。右端にいるのは、アマゾンの前田宏・消費財事業本部長。左端は鈴木亘・酒類事業部長(記者撮影)

急速に巨大化する”酒屋アマゾン”だが、書籍や家電など売れ筋のカテゴリーに比べれば、お酒を買うユーザーはごく少数派だ。「ECでお酒を買うという習慣自体がまだ根付いていない」(アマゾン消費財事業本部の鈴木亘・酒類事業部長)。アマゾンにこれだけの品ぞろえがあるということの認知も、まだ広がっていない。

今回アマゾンバーでは、注文用レシートを発券する際、アマゾンの購入ページに飛べるQRコードを印刷したレシートも発行。店内で過ごす間にこれをスマートフォンで読み込んでもらい、アマゾン上で酒類のページを回遊し、購入してもらうきっかけを作りたい考えだ。

お酒の販売には産地や製法についての情報提供も重要。特設ページを作ったり、動画を使ったりと、ネットならではの工夫ができる」(前田本部長)。今後も国内外のメーカーを巻き込んだ、”酒屋アマゾン”の試行錯誤が続きそうだ。