2年時から東福岡の攻撃を牽引してきた藤川。あと一歩ゴールを奪いきれなかった試合を悔やんだ。写真:田中研治

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[選手権準々決勝] 東福岡 0-1 東海大仰星/2017年1月5日/等々力
 
 違和感をぬぐい去れないまま、前回王者は大会を後にした――。第95回全国高校サッカー選手権大会は1月5日に準々決勝を行ない、連覇を狙っていた東福岡(福岡)が0-1で東海大仰星(大阪)に敗れた。
 
 大方の予想に反する、優勝候補の敗退だった。相手に打たれたシュートは、わずかに1本。セットプレーのこぼれ球を押し込まれた。たった1本のシュートによって、連覇への挑戦は、終止符を打たれてしまったのだ。
 
 ただし、東福岡がずっと攻め続けていたとは言い難い展開でもあった。攻めあぐねる東福岡に対し、守備でリズムを作り出した東海大仰星が反撃していく試合だった。苦戦、そして敗戦につながる要因は、攻撃が機能しなかったことだ。
 
 中盤の底でサイドチェンジのパスを配るMF鍬先祐弥(3年)と、藤川虎太朗(3年)と高江麗央(3年)のプロ入り内定の2シャドーを起点に、中央突破とサイド攻撃をバランスよく仕掛けるのが、東福岡にとって理想的な形だったはずだ。しかし、相手のダブルボランチが素早いプレスをかけてきたことも影響し、中央突破の回数が減って、サイドからのクロスばかりになった印象が残った。
 
 藤川は「自分たちがもっと周りを見て、次にどういうプレーができるかとイメージを膨らませれば、打開策があったと思う。前半はサイドからと思って攻撃したけど、そこでも点を取れなかったのが現実。2シャドーと1ボランチのトライアングルをもっと上手く使えれば、相手も惑わされたのかなと思う」とサイド攻撃に偏った理由を探り、敗戦を悔やんだ。
 
 前半、東福岡のチャンスは2本のみ。前半14分にMF高江が放ってクロスバーを叩いたミドルシュートと、同26分に右CKからDF小田逸稀(3年)が打ったヘディングシュートだけだ。優位に見えても、流れの中からゴール前を崩すことは、できていなかった。 クロスから1トップの藤井一輝(3年)がシュートを狙う形も悪いわけではないが、ポジションを線で結ぶような攻撃は、ルートが分かっていれば相手は怖くない。
 
 東福岡としては、中盤で奪われればカウンターを食らう可能性がある。無難に強みであるサイドから仕掛けるという選択自体が悪かったわけではない。しかし、そこで優位性を作った後、次の展開に持ち込めなかったことが、まさかの敗戦につながった。

第95回高校サッカー選手権 準々決勝 東福岡0-1東海大仰星 PHOTO

 
 森重潤也監督は「パスを出した後に、ペナルティエリアに走って行けていない。藤川も高江もパスを出して終わってしまっていた。ゲームメイクをしながら前に飛び込んでいくとか、シュートを打ちに行くとかをしなければ、攻撃をやり切れない。そこまで、もっとハードワークをしなければいけない」と、相手にとっての危険地帯を増やしていく多重的な攻撃ができなかった要因を運動量にも求めた。
 
 後半19分、途中出場のFW佐藤凌我のポストプレーを起点に左サイドへ展開し、アーリークロスが逆サイドへ流れたところを折り返してチャンスになるシーンがあった。同じように、中央を使いながら得意のサイド攻撃を活用して相手を振り回せなかったことが悔やまれる試合となった。
 
 東海大仰星の守備が良かったと素直に相手を称えることもできる試合だ。それでも、もっと藤川や高江が積極的にパスを引き出し、マークをはがして相手を困惑させれば……。そんな思いになるのは、左サイドバックの小田逸稀を含めた3選手のプロ入りが内定しているからでもある。森重監督は「ああいうのを突破していけるようにならなければ、この先は厳しくなるよ」と辛口のエールを送った。
 
 藤川は「もっと、やれた。自分がもっと上手くて強ければ、こんな試合にならなかった。最後の笛が鳴った時は、本当に悔しかった。でも、気持ちを切り替えたというか、こんなところで涙を流していられない。みんなが泣いている顔を見て、本当に辛かったけど、でも、胸を張ってやっていこうと思った」と前を向いた。
 
 藤川や高江がプロの世界で、勇気を持って、相手がプレッシャーをかけてくるスペースのわずかな合間でパスを引き出して仕事をするシーンを見ることがあるとしたら、その背景には、間違いなくこの一戦の悔しさがあるだろう。
 
取材・文:平野貴也(フリーライター)