相手のプレスを受けて攻撃が停滞するなか、柴崎は献身的に前線をサポートしつつ、時に裏のスペースを狙ったロビングで武藤を走らせていた。呼吸が合わなかったためにチャンスには結びつかなかったが、注目すべきはパスを出すタイミングやセンスだ。
 
 これは長谷部や山口にはない部分で、本田が言う「距離感を近くした」攻撃では有効なアクセントになる。巧みなサイドへの展開で幅をもたらした柏木もアピールには成功したが、このレフティについて言えば年齢が気になるところ。3年後のロシア・ワールドカップを見据えた場合、より期待値が高いのは柴崎のほうだろう。確かにフィジカル面に課題を抱えているものの、より多彩な攻撃を目指すうえでは、柴崎の成長にかけるのもひとつのアイデアだ。
 左SBで米倉がテストされた最終ラインは、吉田のパフォーマンスが低調だったのは言うまでもない。トラップをミスしてボールを奪われた末のイエローカードに加え、前半終了間際には軽率に足を出してPKを与える始末。掛け値なしにイラン戦のワーストプレーヤーで、試合後のミックスゾーンでは本人も肩を落としていた。
 
 一方で、1か月前のアフガニスタン戦以来、2試合ぶりに先発復帰を果たした森重には、及第点を与えていいかもしれない。左CBに入り、守備に不安を抱える左サイドのコンビ(宇佐美、米倉)をフォローし、的確なカバーリングでピンチを未然に防いでいた。
 
 上背のあるイランのFWとの空中戦では後手を踏む場面もあったが、190センチ台の選手を相手にしたのだから、ある程度は仕方ない。それよりも、懸命に身体を当てて相手の体勢を崩すプレーを徹底していた点を評価すべきだろう。
 
 奇しくも、絶対的な軸である吉田が不安定なプレーに終始し、レギュラー獲りを狙うバックアッパーが一定のパフォーマンスを見せるという構図になったCBは、思い切った手を打ってもいいのかもしれない。今までのハリルジャパンを振り返ると、吉田が軽率なプレーでチームにダメージを与える試合、もしくは失点に結びつきそうなミスを犯す試合は、決して少なくなかった。本人の危機感を煽る意味でも一度、吉田外しを断行してみるのも手ではないか。
 
 最後にSBについて言えば、先発起用された米倉は及第点止まり。ハリルホジッチ監督が、「後半は良いポジショニングで守ってくれた。カウンターで良い状況を作っていたのに、ボールが来なかった」と言うように、後半に立て直した守備では一定の評価を得たが、攻撃面ではアピールできなかった。
 
ライバルとなるユーティリティの酒井高(イラン戦では右SBで出場)がハイパフォーマンスを見せたわけではないものの、米倉もまた序列を上げるインパクトを残せたわけでもない。つまり、左は長友がファーストチョイス。右が長期離脱中の内田の復帰を待つという現状に変わりはなさそうだ。

取材・文:五十嵐創(サッカーダイジェストWEB)