◇スポーツのあり方自体を考えなおす機会に


土屋:僕も、サニブラウンでやっと興味を持ちました(笑)。駒沢の陸上競技場はあれ以上大きくできるんですか?

玉木:大きくする必要ないでしょう。陸上競技をするのに3万人も入れば十分。そのかわり、サブトラックや練習場、研修施設なんかを作る計画を立てたほうがいいよね。そうやって陸上を強化する場所にすればいい。

土屋:そう考えると、そんなにお金もかからない気がしてきました。

玉木: かからないよ!

ドイツのハンブルガーSV(HSV)を取材したことがあるんだけど、そこのクラブの施設がすごいんだよね。

サッカーコートが3面、テニスコート36面かな。体育館が2つ、レストランにバーもある、そこにさらに合宿所を建設中だったんですよ。

広報の人に「どうしてこんなに凄いの?」って聞いたら、向こうはヘンな顔して「MUST」って言うんだよね。「やらなきゃいかんだろ!」って。

スポーツの施設を作ることに関して、日本とは感覚が違うんだよ。

ドイツでは、夜になったら子供たちの練習にも使われてて、付き添いで来ているお母さんたちが会議室で学校の会議とかしてるんだよね。で、男たちはバーで酒飲んだりしてて。

そういうみんなが集まる場所になってる。日本も2020年を、スポーツのあり方自体を考え直す機会にしていかなくては。

土屋:文化が成熟してますね。

玉木: そう。パラリンピックに関しても海外は進んでるよね。身体障害者のスポーツは、日本ではまだリハビリという意識が強かった。

スポーツとしてやるんだって意識があれば、身体障害者スポーツ連盟があること自体がおかしい。

サッカー協会の中に身体障害者のサッカーが入っていていいじゃない。こうやってあらゆる競技の中に身障者が入ってくるべき。

いま、世界では臓器移植者の競技もあるんだけど、心臓移植した人が100メートル10秒切ってるんだよ。何でそんなに速いかっていうと、臓器移植した人ってステロイド飲まなきゃいけないの。

土屋:筋肉増強剤ですね。

玉木:これってドーピングでしょ? 普通は禁止ですよ。

でも、臓器移植した人に禁止することはできない。そうすると今度は、人間にとってのスポーツとは何かが見えてくる。

まだ答えはでないけど、みんなでドーピングの定義を話し合わなくてはいけない。

土屋:体育とスポーツの違い、今回のオリンピックはこれを日本人が知るチャンスですよね。

玉木:それにはまず、スポーツを勉強しないと。

俺だって、20代からスポーツライターを名乗ってたけど、36歳くらいの時に「スポーツが何なのか知らない」って思って勉強し始めたら、結構ショックでさ。

バスケットボールがどうしてゴールを吊るしているか、3歩以上歩いちゃいけないのか。
あれは、オフサイドを許した代わりに作ったルールなんだよ。

こうやってスポーツがいまの形になっているのは、すべて理由がある。

いろんな語源や、人間が競技、ルールをつくった経緯を知るっていうのはいいことなんだよ、カルチャーを知るって大事。

学校で教える日本の体育は戦前からのもので、軍事教育と結びついてたからね。懸垂なんて何でしなくちゃいけないの?
あれは陸軍が決めたこと。銃を持つ時に己の体を持ち上げる体力を要する、って。

逆上がりだってなんか意味ある?

あんなの全く意味なんてないんだよ(笑)。

土屋:(笑)あれはスポーツじゃなくて体育なわけですね。

玉木: 文科省に言わせると「自分ができないものに立ち向かい、達成感を得る」っていう名目があるらしいんだけど、そんなの逆上がりである必要ないだろ、って(笑)。

土屋:今回のオリンピックは、体育ではなくスポーツを日本に根付かせるきっかけになるべき。

玉木:そういうことを分かった上での国立競技場問題だ、って話。

土屋:我々はいいものができることを祈るしかないんですか。

玉木:スポーツの場を作るなら、スポーツについて勉強するべきなんだけど、建築家っていうのはやっぱり建築にしか興味ないんだよ。安藤忠雄さんもそう。

彼の設計した家に住んでる人に聞いたら「一年住んでやっと慣れてきた」って。

安藤さん自身も「あんな住みにくいところに住めるか」ってギャグで言ってるしね。

まあ、家はそれでもいいんだけど、スポーツに関してはだめ。

スポーツする人のことを第一に考えないと。選手がどう入って、試合が終わったらどういう風にシャワーをあびて着替えるか、ミーティングはどうするかなどの導線も含めて。

土屋:選手に快適な競技場を作ると、それが結果的に一番カッコよく見えるのかもしれませんね。

玉木: そう! 決して宇宙船のようなデザインだけがカッコイイわけではないってこと。

前にロンドン五輪の馬術競技の競技場を作った日本人に話を聞いたんですよ。

グリニッジ天文台のあるところの広場に競技場を作ったんですけど、観客席は仮設で全部鉄パイプ。終わったらすぐ取り外せる。

これのことを「サステナブル」って言うわけ。

土屋:「サステナブル」って?

玉木: 「持続可能」という意味。作ったものを持続させるのではなく、そのスペースを持続させるためなんだ、っていう。

神宮外苑に「サステナブル」なものを作ると考えると、競技場が持続可能なのではなく、神宮外苑の緑や環境が「サステナブル」なものを考えなくてはいけない。

土屋:成熟した都市でのオリンピックは、これまでのものとは違ってきますね。

玉木:2回目のオリンピックは、考え方を変えないと。俺も最初は「ザハ案いいな」って思ったの反省してるよ(笑)。

土屋:最後に玉木さん、5年後はどんなオリンピックになっていてほしいですか。

玉木:なんとかスポーツのことをみなさんに分かってほしい。

前回の東京オリッピックの時に出た『作家がみたオリンピック』っていう本があって、大江健三郎、三島由紀夫、石原慎太郎など作家の目を通して見た文章が載ってるんだけど、菊村到って人が「こんなすばらしいことを二度やるのはバカだ」って、すごい絶賛してるんだよ(笑)。

それがものすごく印象に残っててね。

今度は2回目なんだから、バカだと言われないようなものしたいと思いますね。

土屋:オリンピックはTVで見るもので、まさか目の前で見られるとは思ってませんでした。

玉木: 本当にね。俺も1964年の東京オリンピックの時は京都にいてテレビで見てたから。

でも、テレビの電波で世界が結ばれるんだから、テレビで見るのも素晴らしいですよ。現地に行ったら同時にいろんな競技は見られないからね(笑)。

土屋:新国立競技場も、未来のあるスタジアムになるといいですね。

玉木:そうですね。本当にそう願ってます。

土屋:玉木さん、今日はありがとうございました!

文責:ライブドア編集部

▼玉木正之


1952年4月6日、京都市生まれ。
1972年東京大学教養学部に入学。
1975年に同大学中退。
大学在学中から新聞(東京新聞)で演劇・音楽・映画評、コラム等を執筆。

ミニコミ出版の編集者等を経てフリーの雑誌記者(小学館『GORO』)になる。
その後、スポーツライター、音楽評論家、小説家、放送作家として活躍。
雑誌『平凡パンチ』『ビッグ・コミック』『ダ・カーポ』『朝日ジャーナル』『週刊サンケイ』『オール読物』『ナンバー』『現代』『週刊現代』『サンデー毎日』『音楽の友』『レコード藝術』『CDジャーナル』等の雑誌や、朝日、毎日、産経、日経各紙で、連載コラム、小説、音楽評論、スポーツ・コラムを執筆。

数多くのTV番組にも出演。ラジオではレギュラー・ディスクジョッキーも務める。

現在は、横浜桐蔭大学客員教授(2009年より)、静岡文化芸術大学客員教授(2010年より)、石巻専修大学客員教授(2013年より)、立教大学大学院非常勤講師(2009年より)、 立教大学非常勤講師(2010年より)、筑波大学非常勤講師(2012年より)を務める。


土屋礼央

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