「流星ワゴン」最終回。原作とドラマ、どっちが勝ちか
「ずーっとカズが大きゅうなるたびに、自分の同じ頃とお前を重ねて見とったんじゃ。
いつじゃってわしのほうがしっかりしとったがの。
もし、こんなひよわな朋輩がいたら世話が焼けてかなわん。そう思っとった」(忠さん/香川照之)
ドラマ「流星ワゴン」(TBS)最終回(3月22日放送)では、主人公・一雄(西島秀俊)と父親の生き霊である忠さん(香川照之)が最後の時間を過ごした。忠さんは息子である一雄を幸せにできなかったことを悔やみ、「わしらは親子としてはいけんかったけど、朋輩だったらどうじゃったろう」と思っていたと語る。その未練が同い年の生き霊となって現れたのだ、と。
一方、原作小説では「親子って、なんで同い年になれないんだろうね」「今度もし、魔法にかかるんだったら、広樹に会いたいよ。あいつが三十八になったとき、いまの僕が会いに行けたらいいな」と繰り返し語っていたのは一雄のほう。忠さんは「……なにアホなこと言うとるんな」と笑い飛ばしていた。
原作小説とは異なる演出もふんだんに盛り込まれた、今回のドラマ。旅の最後を締めくくるやりとりも、原作とはずいぶん趣が異なっていた。原作との違いに一喜一憂するのも原作つきドラマの面白さのひとつだ。印象に残るシーンを振り返ってみたい。
■「この世でいちばんお前のことをおもうてきたんわ、このわしじゃ」(忠さん)
別れが刻一刻と近づくなか、思いのたけを吐露する忠さん。勝負にこだわったのも、会社を大きくしようと必死だったのもすべてよかれと思っての親心だったと語り、「お前を幸せにしてやれなくて、ほんまにすまない」と頭を下げる。そして、二人並んで連れションをする。
原作にも、「わし、ひとつだけやってみたいことがあったんじゃ」と忠さんが言いだし、二人で連れションをするシーンが登場する。しかし、忠さんの態度はドラマに比べると、すいぶんあっさりしている。連れションを終えると「最後に握手やらするなよ。手ぇ洗ろうとらんけん、汚えけんの」「まあ、あれじゃ、元気でがんばれや」「墓参りせんと、化けて出ちゃるど」と言いながら、ワゴンに戻って行く(原作では一雄が先にワゴンを降りるという設定だった)。
原作の忠さんは生き霊になっても相変わらず、不器用でぶっきらぼう。たまにぽつりともらす本音がグッとくる反面、言葉が少なすぎて意図がわからず、読み返して納得する場面もたびたびあった。ドラマ版の忠さんは「ひとつだけ、たしかに変わったものはある。お前自身じゃ。カズ、生きろよ。諦めるな」と熱く語る。どちらの忠さんがいいと感じるかは好みが分かれそうだが、金八先生好きの筆者としてはドラマ版が僅差で勝利だった。
ちなみに、饒舌ということでいうと、過去への旅もそうだった。原作小説でのタイムスリップは3回。ドラマでは「上野駅前」(第1話)、「取引先の会長の葬儀会場」(第2話)、「工場の前」(第3話)、「広樹がすべり止めに落ちた頃の永田家」(第8話)、「広樹の第一志望受験前日の永田家」(第9話)、「一雄の実家」(第10話)と都合6回もワゴンは時空を越えた。
正直言うと、中盤では少々かったるさを感じたこともある。でも、最終回で「たのしかったのう。たのしかったのう」とかみしめるように言う忠さんを見て、必要な時間だったと思えた。ずいぶん長い間繰り返し旅をしたからこその実感のこもったセリフのように聞こえたのだ。
■「どうするかは君が決め手くれ。だけど、俺は待ってる。ずっと待ってるから」(一雄)
ドラマ最終話では、一雄が目を覚ますと携帯に妹から大量の着信が入っている。留守電を聞くと、父親の容態が急変したことを告げる知らせだった。家に戻り、息子の広樹を連れて父親の入院先に急ぐ。病床の父親に「不思議な夢を見たんだ。その話をだれよりもオヤジに聞いて欲しかった」と話しかける一雄。その声に反応するように、父親は一雄の手を握り返す。
原作小説では、一雄は死ぬ間際のチュウさんには会っていない。現実世界に戻って5日後に妹からの電話で亡くなったことを知らされ、葬儀に向かう姿が描かれる。とあった。なぜ、病床の父親のもとに駆けつけなかったのかは書かれていない。
現実世界に戻った後のやり直しも、ドラマと小説ではだいぶ違っていた。ドラマでは葬儀の後、広樹に「いつまでこんなところにいるわけ?」と訊かれ、「父さんと一緒に逃げないか」と実家への引っ越しを持ちかける。妻・美代子(井川遙)に離婚届けを渡し、「どうするかは君が決め手くれ。だけど、俺は待ってる。ずっと待ってるから」と告げる。そして、一雄は地元に戻り、漁師見習いになる(漁師!)
原作小説では広樹は転校していないし、一雄の仕事も見つかっていない。ギャンブルとは別のものにハマっていた美代子は“外泊をしなくなった”ものの、完全に断ち切れたのかは不明。でも、広樹は夜12時前には寝るようになり、家族三人で朝食をとるようになった姿が描かれる。
電子部品の営業マンがいきなり地元で漁師をはじめ、荒れていた息子は転校をきっかけに明るく笑うようになり、やさぐれていた妻がしおらしい顔で訪ねてくるというドラマの展開は少々できすぎているようにもみえる。でも、原作小説が刊行された2002年に比べると、えいやで居住地を変えてしまうハードルはじつは下がっているのかもしれない。原作とドラマ、どちらがより魔法で、よりリアルなのか見比べてみるのも楽しい。
(島影真奈美)
いつじゃってわしのほうがしっかりしとったがの。
もし、こんなひよわな朋輩がいたら世話が焼けてかなわん。そう思っとった」(忠さん/香川照之)
ドラマ「流星ワゴン」(TBS)最終回(3月22日放送)では、主人公・一雄(西島秀俊)と父親の生き霊である忠さん(香川照之)が最後の時間を過ごした。忠さんは息子である一雄を幸せにできなかったことを悔やみ、「わしらは親子としてはいけんかったけど、朋輩だったらどうじゃったろう」と思っていたと語る。その未練が同い年の生き霊となって現れたのだ、と。
原作小説とは異なる演出もふんだんに盛り込まれた、今回のドラマ。旅の最後を締めくくるやりとりも、原作とはずいぶん趣が異なっていた。原作との違いに一喜一憂するのも原作つきドラマの面白さのひとつだ。印象に残るシーンを振り返ってみたい。
■「この世でいちばんお前のことをおもうてきたんわ、このわしじゃ」(忠さん)
別れが刻一刻と近づくなか、思いのたけを吐露する忠さん。勝負にこだわったのも、会社を大きくしようと必死だったのもすべてよかれと思っての親心だったと語り、「お前を幸せにしてやれなくて、ほんまにすまない」と頭を下げる。そして、二人並んで連れションをする。
原作にも、「わし、ひとつだけやってみたいことがあったんじゃ」と忠さんが言いだし、二人で連れションをするシーンが登場する。しかし、忠さんの態度はドラマに比べると、すいぶんあっさりしている。連れションを終えると「最後に握手やらするなよ。手ぇ洗ろうとらんけん、汚えけんの」「まあ、あれじゃ、元気でがんばれや」「墓参りせんと、化けて出ちゃるど」と言いながら、ワゴンに戻って行く(原作では一雄が先にワゴンを降りるという設定だった)。
原作の忠さんは生き霊になっても相変わらず、不器用でぶっきらぼう。たまにぽつりともらす本音がグッとくる反面、言葉が少なすぎて意図がわからず、読み返して納得する場面もたびたびあった。ドラマ版の忠さんは「ひとつだけ、たしかに変わったものはある。お前自身じゃ。カズ、生きろよ。諦めるな」と熱く語る。どちらの忠さんがいいと感じるかは好みが分かれそうだが、金八先生好きの筆者としてはドラマ版が僅差で勝利だった。
ちなみに、饒舌ということでいうと、過去への旅もそうだった。原作小説でのタイムスリップは3回。ドラマでは「上野駅前」(第1話)、「取引先の会長の葬儀会場」(第2話)、「工場の前」(第3話)、「広樹がすべり止めに落ちた頃の永田家」(第8話)、「広樹の第一志望受験前日の永田家」(第9話)、「一雄の実家」(第10話)と都合6回もワゴンは時空を越えた。
正直言うと、中盤では少々かったるさを感じたこともある。でも、最終回で「たのしかったのう。たのしかったのう」とかみしめるように言う忠さんを見て、必要な時間だったと思えた。ずいぶん長い間繰り返し旅をしたからこその実感のこもったセリフのように聞こえたのだ。
■「どうするかは君が決め手くれ。だけど、俺は待ってる。ずっと待ってるから」(一雄)
ドラマ最終話では、一雄が目を覚ますと携帯に妹から大量の着信が入っている。留守電を聞くと、父親の容態が急変したことを告げる知らせだった。家に戻り、息子の広樹を連れて父親の入院先に急ぐ。病床の父親に「不思議な夢を見たんだ。その話をだれよりもオヤジに聞いて欲しかった」と話しかける一雄。その声に反応するように、父親は一雄の手を握り返す。
原作小説では、一雄は死ぬ間際のチュウさんには会っていない。現実世界に戻って5日後に妹からの電話で亡くなったことを知らされ、葬儀に向かう姿が描かれる。とあった。なぜ、病床の父親のもとに駆けつけなかったのかは書かれていない。
現実世界に戻った後のやり直しも、ドラマと小説ではだいぶ違っていた。ドラマでは葬儀の後、広樹に「いつまでこんなところにいるわけ?」と訊かれ、「父さんと一緒に逃げないか」と実家への引っ越しを持ちかける。妻・美代子(井川遙)に離婚届けを渡し、「どうするかは君が決め手くれ。だけど、俺は待ってる。ずっと待ってるから」と告げる。そして、一雄は地元に戻り、漁師見習いになる(漁師!)
原作小説では広樹は転校していないし、一雄の仕事も見つかっていない。ギャンブルとは別のものにハマっていた美代子は“外泊をしなくなった”ものの、完全に断ち切れたのかは不明。でも、広樹は夜12時前には寝るようになり、家族三人で朝食をとるようになった姿が描かれる。
電子部品の営業マンがいきなり地元で漁師をはじめ、荒れていた息子は転校をきっかけに明るく笑うようになり、やさぐれていた妻がしおらしい顔で訪ねてくるというドラマの展開は少々できすぎているようにもみえる。でも、原作小説が刊行された2002年に比べると、えいやで居住地を変えてしまうハードルはじつは下がっているのかもしれない。原作とドラマ、どちらがより魔法で、よりリアルなのか見比べてみるのも楽しい。
(島影真奈美)