「問題のあるレストラン」とは宮沢賢治『注文の多い料理店』なのか。今夜3話
「いい話って、ときどき人を殺すんだよ」
「それ、誰かに押しつけた途端、美談じゃなくなるんだよ」
これはフジテレビの木曜劇場「問題のあるレストラン」の先週放送分(第2話)で、臼田あさ美演じる森村鏡子(旧姓・三千院)が発したセリフだ。専業主婦だった鏡子は、離婚後の養育権について話し合う席で、夫からおまえは妻としての役割を果たしていないとなじられたあげく、自分の母親がいかに父親と息子に尽くしてきたか涙混じりに語られる。これに対し、それまでまともに反論できずにいた鏡子が、ついに言い放ったのが上記のセリフだった。家事ばかりか育児・介護まで押しつけられた世の女性たちの本音を代弁するかのようなこのセリフに、思わずハッとさせられた視聴者も多いのではないか。あるいは、自らを犠牲にして誰かに尽くすことがとかく“いい話”として語られがちな世間に対する、アンチテーゼとも受け取れた。
「問題のあるレストラン」は、このエピソードにかぎらず、いまだに男尊女卑の風潮が根強い社会と闘いながらも、自分たちの夢を実現しようとする女性たちを描くドラマだ。脚本を手がける坂元裕二は、これまで「Mother」や「それでも、生きてゆく」などの作品で親子や家族の問題をとりあげて話題を呼んできたが、本作もそのタイトルどおり問題作となりそうな予感を抱かせる。
ドラマは初回からしてショッキングだった。大手飲食会社「ライクダイニングサービス」の役員会議で、仕事で責任を問われた社員の藤村五月(菊池亜希子)が、屈辱的ともいえるセクハラを受ける。主人公の田中たま子(真木よう子)は、同僚で親友の五月へのこの仕打ちに怒りを爆発させ、男性社員にバケツで水をかけて回るという復讐に出た。復讐は、社長の雨木太郎(杉本哲太)にバケツを向けたところで警備員に取り押さえられたため完遂しないまま終わる。だが、これをきっかけにたま子は会社をやめ、自らビストロを開店することを決意。そんな彼女のもとには、高校時代の同級生だった前出の鏡子のほか、元同僚の新田結実(二階堂ふみ)と烏森奈々美(YOU)、腕利きのシェフでありながらゲイであることを理由に就職先がなかなか見つからなかった几(おしまづき)ハイジ(安田顕)など続々と仲間が集まってきた。みな、何かしらの問題を抱えた者たちばかりだ。
ところで「問題のあるレストラン」のキャストには、ここ最近のNHKの朝ドラで主要人物を演じた俳優が妙に目立つ。たとえば、雨木社長役の杉本哲太と、たま子の元上司の土田役の吹越満は、一昨年の朝ドラ「あまちゃん」でそれぞれ駅長と観光協会長を演じていたことが思い出される。また「あまちゃん」では若き日の駅長役、そして一昨年から昨年にかけて放送された「ごちそうさん」ではヒロインの夫役を務めた東出昌大は、本作でたま子がライクダイニングサービスにスカウトしてきたシェフ・門司誠人を演じている。さらに、誠人の同僚の川奈藍里を演じるのは、「ごちそうさん」では東出と兄妹役だった高畑充希だ。今回のドラマでは、2人は付き合っているようだが、第2話で「恋愛って何だと思う?」と訊く藍里に、誠人が「独占欲のある性欲のことでしょ」と冷たく返していたあたり、どうも彼女は遊ばれているっぽい。女に対するこうした態度といい、誠人は天才タイプではあるものの、これまで東出の演じてきた役柄とは打って変わって、かなりヤなやつだ。恩人であるはずのたま子に対しても、彼女の退社後はライバル店のシェフとして立ちふさがり、平然と暴言を吐いたりする。
表参道のビルの屋上にビストロを開こうとするたま子には、先にあげた以外にも、もうひとり仲間がいた。それは、松岡茉優演じる雨木千佳だ。松岡といえば、「あまちゃん」や、東出昌大と共演した映画「桐島、部活やめるってよ」で注目された若手実力派女優のひとりである。その名前を初回放送時に番組表で見つけて、彼女がドラマのどんな役で出演しているのか、私はずっと探しながら視聴していたのだが一向にわからなかった。それが話がかなり進んだところでようやく、屋上の片隅でフードを目深にかぶった少女が松岡演じる千佳であることが判明する。顔を隠しているし、コミュニケーション障碍という設定ゆえ一言もセリフを発しないのだから気づかなかったのも当然だろう。最近ではバラエティ番組でトークの才能も発揮しつつある松岡を、あえて無口な役に据えたというのが面白い。
千佳はその天才的な料理の腕を買われて、たま子のビストロのメインシェフに抜擢される。彼女はじつはたま子の宿敵・雨木社長の娘なのだが、父を嫌い、殺そうとしたことすらあるらしい。第2話では、『ゴルゴ13』の単行本を読みふけったり、結実と火花を散らしたり(ちなみに結実役の二階堂ふみと松岡茉優は今年成人式を迎えた同年代。いずれも実力派と目されるだけにそのやりとりは見逃せない)していた千佳が、ラストへ来て何を思い立ったのか、父親のいるレストランへと押しかける。不穏な空気が流れたまま、ドラマは今夜放送の第3話へと続く。
それにしても、このドラマのタイトル「問題のあるレストラン」とは何を意味するのだろう。似たタイトルを持つ宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』では物語が進むにつれ、「注文の多い」の本当の意味が明かされていく。とすれば「問題のあるレストラン」というタイトルにもまた、同様のトラップが仕掛けられているのか。初めの2回分を見るかぎり、「問題のある」とは、雨木の経営する会社のレストランとも、たま子たち問題を抱えた者たちの集まったビストロを指すものともとれる。いや、ひょっとすると、これから彼女たちのつくった店の内部から新たに問題が生じるのだろうか。
(近藤正高)
「それ、誰かに押しつけた途端、美談じゃなくなるんだよ」
これはフジテレビの木曜劇場「問題のあるレストラン」の先週放送分(第2話)で、臼田あさ美演じる森村鏡子(旧姓・三千院)が発したセリフだ。専業主婦だった鏡子は、離婚後の養育権について話し合う席で、夫からおまえは妻としての役割を果たしていないとなじられたあげく、自分の母親がいかに父親と息子に尽くしてきたか涙混じりに語られる。これに対し、それまでまともに反論できずにいた鏡子が、ついに言い放ったのが上記のセリフだった。家事ばかりか育児・介護まで押しつけられた世の女性たちの本音を代弁するかのようなこのセリフに、思わずハッとさせられた視聴者も多いのではないか。あるいは、自らを犠牲にして誰かに尽くすことがとかく“いい話”として語られがちな世間に対する、アンチテーゼとも受け取れた。
ドラマは初回からしてショッキングだった。大手飲食会社「ライクダイニングサービス」の役員会議で、仕事で責任を問われた社員の藤村五月(菊池亜希子)が、屈辱的ともいえるセクハラを受ける。主人公の田中たま子(真木よう子)は、同僚で親友の五月へのこの仕打ちに怒りを爆発させ、男性社員にバケツで水をかけて回るという復讐に出た。復讐は、社長の雨木太郎(杉本哲太)にバケツを向けたところで警備員に取り押さえられたため完遂しないまま終わる。だが、これをきっかけにたま子は会社をやめ、自らビストロを開店することを決意。そんな彼女のもとには、高校時代の同級生だった前出の鏡子のほか、元同僚の新田結実(二階堂ふみ)と烏森奈々美(YOU)、腕利きのシェフでありながらゲイであることを理由に就職先がなかなか見つからなかった几(おしまづき)ハイジ(安田顕)など続々と仲間が集まってきた。みな、何かしらの問題を抱えた者たちばかりだ。
ところで「問題のあるレストラン」のキャストには、ここ最近のNHKの朝ドラで主要人物を演じた俳優が妙に目立つ。たとえば、雨木社長役の杉本哲太と、たま子の元上司の土田役の吹越満は、一昨年の朝ドラ「あまちゃん」でそれぞれ駅長と観光協会長を演じていたことが思い出される。また「あまちゃん」では若き日の駅長役、そして一昨年から昨年にかけて放送された「ごちそうさん」ではヒロインの夫役を務めた東出昌大は、本作でたま子がライクダイニングサービスにスカウトしてきたシェフ・門司誠人を演じている。さらに、誠人の同僚の川奈藍里を演じるのは、「ごちそうさん」では東出と兄妹役だった高畑充希だ。今回のドラマでは、2人は付き合っているようだが、第2話で「恋愛って何だと思う?」と訊く藍里に、誠人が「独占欲のある性欲のことでしょ」と冷たく返していたあたり、どうも彼女は遊ばれているっぽい。女に対するこうした態度といい、誠人は天才タイプではあるものの、これまで東出の演じてきた役柄とは打って変わって、かなりヤなやつだ。恩人であるはずのたま子に対しても、彼女の退社後はライバル店のシェフとして立ちふさがり、平然と暴言を吐いたりする。
表参道のビルの屋上にビストロを開こうとするたま子には、先にあげた以外にも、もうひとり仲間がいた。それは、松岡茉優演じる雨木千佳だ。松岡といえば、「あまちゃん」や、東出昌大と共演した映画「桐島、部活やめるってよ」で注目された若手実力派女優のひとりである。その名前を初回放送時に番組表で見つけて、彼女がドラマのどんな役で出演しているのか、私はずっと探しながら視聴していたのだが一向にわからなかった。それが話がかなり進んだところでようやく、屋上の片隅でフードを目深にかぶった少女が松岡演じる千佳であることが判明する。顔を隠しているし、コミュニケーション障碍という設定ゆえ一言もセリフを発しないのだから気づかなかったのも当然だろう。最近ではバラエティ番組でトークの才能も発揮しつつある松岡を、あえて無口な役に据えたというのが面白い。
千佳はその天才的な料理の腕を買われて、たま子のビストロのメインシェフに抜擢される。彼女はじつはたま子の宿敵・雨木社長の娘なのだが、父を嫌い、殺そうとしたことすらあるらしい。第2話では、『ゴルゴ13』の単行本を読みふけったり、結実と火花を散らしたり(ちなみに結実役の二階堂ふみと松岡茉優は今年成人式を迎えた同年代。いずれも実力派と目されるだけにそのやりとりは見逃せない)していた千佳が、ラストへ来て何を思い立ったのか、父親のいるレストランへと押しかける。不穏な空気が流れたまま、ドラマは今夜放送の第3話へと続く。
それにしても、このドラマのタイトル「問題のあるレストラン」とは何を意味するのだろう。似たタイトルを持つ宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』では物語が進むにつれ、「注文の多い」の本当の意味が明かされていく。とすれば「問題のあるレストラン」というタイトルにもまた、同様のトラップが仕掛けられているのか。初めの2回分を見るかぎり、「問題のある」とは、雨木の経営する会社のレストランとも、たま子たち問題を抱えた者たちの集まったビストロを指すものともとれる。いや、ひょっとすると、これから彼女たちのつくった店の内部から新たに問題が生じるのだろうか。
(近藤正高)