罰金支払い拒否者の「労役場」収容者急増の理由
何らかの犯罪を引き起こし、罰金の支払いを命じられたする。基本的に、罰金は刑罰なので定められた期間内に一括納付するのが原則だ。だが、資力がなくて一括で支払えない場合はどうなるのか。その場合は、「分納することを検察官が認めれば可能なこともある」(元検察官の弁護士)という。しかし、それでも支払えない場合、労役場留置となる。
労役場とは刑務所のことだ。罰金が支払えない者は労役場として当てられている刑務所に「労役場留置」され、刑務所内での作業に従事する。2015年1月現在、1日5000円相当の作業を行なうと規定されている。労役場留置は最長2年まで認められているので、罰金を全額、労役場留置で支払うことも可能だ。
もともとこの労役場留置は、罰金を“支払わない者”のための制度である。ところが近年、“支払えない者”の留置が増えている現実がある。
不況の経験で労役場留置者が急増法務省資料によると、労役場留置者数は1977年から1997年まで100人台だったが、1998年以降、急激に増え続け、2007年には1013人を超え、以来、1000人を割ることなく推移している(出所:平成25年『犯罪白書』)。
ある法務省関係者は「バブル崩壊後の不況以降、労役場留置を希望する人が増えてきた」と明かす。やはり不況による影響は大きい。
「労役場といっても単体の施設ではありません。刑務所に収容されます。もっとも内部では懲役囚と労役場留置者とは刑務所内では区別はされています。しかし、基本的に扱いは拘置所での留置とほとんど変わりません」(前出の弁護士)
裁判で罰金刑が決まり、資力がないなどの理由で罰金が支払えないとなると、何度も検察庁と話し合い、一括納付が困難ならば分割納付の道を提示するなど、官の側もできるだけ「罰金納付を促す」(元検察官の弁護士)ことがほとんどだ。
罰金納付を促す過程で、大抵の者は一括ではなくとも罰金を納付する。ところがここ数年の傾向は、罰金刑が決まった段階で、労役場留置を希望する者が増えている。
「交通違反などで罰金2万円なら、労役場留置1日5000円相当なので4日間入ればいいのだろうと。つまり『刑務所に見てみたい』と物見遊山感覚で労役場留置を望む者もいます。この不況時、2万円稼ぐのが困難な者にとって労役場は3食出るし、寝床で眠れる。懲役志願の犯罪者と同じ心理でしょう」(同)
丸刈り、手錠、腰縄姿……扱いは懲役囚こうして、官の説得に応じず労役場留置が決まるとまず検察庁に出頭する。収監状が読み上げられ、手錠、腰縄が打たれる。収容施設である刑務所では丸刈りにされる。扱いは懲役囚のそれと同じだ。
「そもそも労役場留置とは官が用意した“就労の場”ではなく、罰金が支払えないなら留置して懲役囚と同じ扱いをするという心理面での懲罰的要素が含まれています。それは留置前に何度も説明します」(同)
とはいえ、活況の兆しがみえてきたといわれるここ2〜3年でも1000人を超える労役場留置者がいる。これは前出の元検察官の弁護士や法務省関係者の話を総合すると、「人権意識の高まりを受けて、刑務所のほうが民間企業などに比べて過ごしやすい環境が整えられている」と受け止める者が増えてきたためだろう。労役場体験を記した書籍も世に出ていることも無縁ではなかろう。
「不況期には刑務所受注の仕事もなかった。労役場留置で1日5000円換算といってもその仕事がなかった時期もある。労役場留置は刑務所側もコスト割れ。罰金刑を命じられたなら分割でもいいから納付して貰いたいのが本音でしょうね」(同)
刑務所をみればその国の人権意識がわかるという。懲役囚ではないが罰金納付目的で志願して刑務所入りを望む人が増える日本は人権意識高い国といえるだろう。見方次第では誇っていい話だ。だがどこか腑に落ちない。そう思う向きも多いのではないだろうか。
(取材・文/秋山謙一郎)