「Pen」12.1号「もうすぐ絶滅するという、紙の雑誌について。」CCCメディアハウス

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『Pen』の最新号の特集タイトルが「もうすぐ絶滅するという、紙の雑誌について。」だった。大変刺激的なタイトルである。

特集の主旨は、巻頭にはっきり書いてある。
「紙に印刷されて書店に並ぶ雑誌は、やはり老兵のように消え去るのか? 否――紙だからこそ伝えられる大切なものがあるということを、この特集で証明します」

ただ、正直なところを言うと、少し期待はずれだった。

紙の雑誌で活躍する若手編集者たちのミニインタビュー集は頼もしさを感じさせてくれたし、16ページにも及ぶ雑誌の歴史年表(監修・赤田祐一)はとても興味深い。欧米の雑誌のトピックも併記されているので日本のものと比べると面白い。『少年ジャンプ』とスチュアート・ブランドの『ホールアースカタログ』は同じ年に創刊されていたんだ、とか。

壇蜜、広末涼子、松任谷正隆、泉麻人、藤代冥砂らの著名人が影響を受けた雑誌を語る特集は、登場する雑誌のタイトルに古いものが多いため、「紙の雑誌はこんなに刺激的だったんだぞ!」と若い世代にアピールするためのものだろうか。

リトルマガジン特集はたしかに面白そうなものもあるものの、最初から「リトル」と括ってしまうのは、ちょっと野心の馬力が足りないような気がする。
特集の最後が「いまフォローすべき、ウェブマガジンまとめ」なのもカクッと来てしまった。それ、紙の雑誌の話じゃないじゃん!

と、なんだか文句を書き連ねてきたけど、特集の中に出てくるいろいろな雑誌のことを読めばやっぱり面白いし、紙の雑誌の未来を予感させるフレーズもそこかしこに現れる。

雑誌「ウィンクル」を編集した大隅祐輔さんは、もともとカーライフスタイル誌を作ろうとしていたのだが、営業の人から「その雑誌、本当にやりたいの?」「ウケる、ウケないじゃなくて、本当にやりたいものをやったほうがいいよ」と言われて、「ジャパニーズヒップホップの捉え方」という大特集を展開してしまった。
「ウィンクル」の編集に携わっているのは大隅さんだけという“ひとり編集部”。だからこそ自由で大胆な方針や特集を作ることができるのだろう。次号は「笑い」の特集なのだという。

個人的には、紙の雑誌の未来はこのあたりにあるのではないかと考えている。大規模な広告収入に頼らなければいけない雑誌も、儲けが出ないようなリトルマガジンも、どっちも続けていくのは苦しい。ならば、出版のシステムと流通はしっかり利用しつつ、編集者一人がフリーランスを集めて自分好みの雑誌をつくり、採算に乗せていく。コストを抑えれば、10万部とか売れなくても数千部の売り上げでも黒字になるはずだ。

つまり“一人一雑誌”の時代である。もちろん実際には数人が集まって作業するわけだが、ビッグバジェットに頼らないコンパクトな雑誌づくりが力を持っていくような気がする。年表に登場する服部みれい編集のエコカルチャー雑誌『マーマー・マガジン』や、コメントに登場する島崎賢史郎編集のインディーズファッション雑誌『Nマガジン』などが好例だろう。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』と『プレジデント』を愛読するヒップホップアーティストのバーバルは、紙の雑誌についてこうコメントしている。
「雑誌には不意を突いてほしい。ネットの世界では、結局、自分が興味のある情報にしか飛んでいきません。でも自分が知らないことであっても実はこんなに面白い、そういう情報でビックリさせてくれるのは、雑誌ならではの魅力だと思います」

世の中の不意を突く雑誌を作るには、大勢で会議するよりも、個人のパッションで突っ走ってしまったほうがいいんじゃないかと昨今考えている。
(大山くまお)