ホームと通路が頑丈な扉で仕切られている北越急行美佐島駅(2014年8月、恵 知仁撮影)。

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来春の北陸新幹線金沢延伸で盛り上がるなか、ちょっと怖い鉄道の「名所」が消えていきます。そのショッキングな風景を動画で撮影してきました。

毎日暴風に見舞われる駅

 いよいよ来春に迫った北陸新幹線の金沢延伸。2014年11月1日には長野、新潟、富山、石川県の知事が集まり「北陸新幹線沿線知事サミット」が開催されるなど、その日に向けて期待が高まっています。

 しかしその裏で、ある「名所」が消えていきます。新潟県十日町市にある北越急行の美佐島駅です。

 美佐島駅は全長約10kmの赤倉トンネル内に存在。この赤倉トンネルは線路がひと組しかない単線で、断面が狭くなっています。また北越急行を走る特急「はくたか」は、最高速度160km/hで在来線最速です。そうした断面の狭い赤倉トンネルに「はくたか」のような高速列車が突入すると、はたしてどうなるでしょうか。

 この場合、トンネル内部に猛烈な風が発生します。つまりトンネル内にある美佐島駅は、非常に危険なのです。

 そのため同駅のホームは頑丈なステンレスの扉で仕切られており、停車列車が到着したとき以外、ホームに入れないようになっている、のですが、それでも「はくたか」が高速で通過したときの様子が恐ろしいとして、鉄道ファンのあいだで有名だったりします。

美佐島駅に鳴り響く不安な旋律

 「はくたか」が美佐島駅に接近すると、トンネル内の気圧変動で「サー」という音が聞こえ出します。動画の冒頭に聞こえる音です。ノイズではありません。列車通過後にその音が消え、静かになっているのと比べれば分かりやすいと思います。

 そしてチャイムが鳴り、「まもなく下り電車が高速で通過します。危ないですからホームに出ないでください。下り電車が高速で通過します。ご注意下さい」というアナウンス。くり返される「高速で通過します」に、どれだけスゴイのだろうかと期待と不安が入り交じるそのときです。次に響く警報音がまた「緊急地震速報」のように、聞くからに不安になる音階。子供なら泣き出しそうな、この心理的圧迫感。わざと不安にさせているようにしか思えません。実際、そうなのですけれども。

 落ち着かない警報音と、くり返される「まもなく高速で電車が通過します。大変危険です。ホームには絶対に出ないでください」の声。そして轟音と共に特急「はくたか」が通過すると、扉の隙間から空気が漏れる「ピューーーーーーーー」という音が列車通過後、およそ1分も鳴り止みませんでした。

強風でガラスが割れたことも

 ちなみに美佐島駅の防風扉は、このホームと通路を仕切るもの以外にもう1枚、通路と外に出る階段を仕切るものがあります。「ホーム|通路|階段」という形をイメージしてください。そしてホームの扉が開いているときは、階段の扉は逆に閉まるようになっています。

 なぜかというと、美佐島駅に列車が到着してホーム側の防風扉が開いているとき、トンネルに特急「はくたか」が進入してくると強風が発生。それが開いている美佐島駅ホーム側の防風扉から漏れ出し、階段を伝って地上の駅舎を破壊してしまうからです。北越急行の開業前、防風扉を開けたまま列車を通過させたところ、風圧で駅舎にある待合室のガラスが割れたことがあります。

 特急「はくたか」は越後湯沢駅で接続する上越新幹線と連携し、首都圏と北陸地方を結ぶ役割を持っています。そのため2015年3月14日に北陸新幹線が金沢まで延伸すると、この特急「はくたか」は廃止される予定です。よって美佐島駅でこのような光景が見られるのは、あとわずかしかありません。「はくたか」廃止後も同駅を通過する快速列車が存在し、同様の状況は発生すると思われますが、最速160km/hで走る特急「はくたか」の強烈な風圧は来春で見納めになります。

 北越急行によると美佐島駅について「不思議な駅ですので、機会をみて一度下車してみてはいかがでしょうか」とのこと。北陸新幹線の金沢開業で盛り上がっていますが、その影で消えていく風景にも要注目です。