『脱法ドラッグの罠』森鷹久/イースト新書
なぜ法規制に効果がないのか?(帯裏より)

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合法ハーブ、脱法ドラッグ、危険ドラッグと次々と名称が変わった。
で、結局、それは何なの? 
と疑問だったので『脱法ドラッグの罠』を読んでみた。
著者は森鷹久。三年半の取材を費やして本書を記した。

『脱法ドラッグの罠』は、全六章。
第一章 起きるべくして起きた「事件」
第二章 脱法ハーブとは何か
第三章 ルポ・製造工場潜入
第四章 「脱法」を許容した果てに
第五章 誰が脱法ハーブに手を出すのか
終章  脱法からの脱却法

まず、脱法ドラッグは、葉そのものには幻覚作用をもたらす成分は含有されていない。
自然由来ではないのだ。
ケミカルなドラッグだ。
乾燥させた葉っぱを刻み、そこに後から化学物質を混ぜ込んだものなのである。
“脱法ハーブに含まれる人体に何かしらの影響を与える化学成分が規制されると、その化学式を少しだけ変化させ“似て非なるまったく別の物質”として代用するという事を繰り返してきた”。
違法薬物として指定するタイムラグのあいだに売り抜ける。指定されたら、少し変えて「違うモノ」にしてしまう。
いたちごっこなのだ。
脱法ハーブの恐ろしいところは、ここだ。
副作用がどうでるかわからない。治療法がわからない。データが蓄えられないからだ。
薬事法が改正され、似た薬物を一緒に取り締まる包括指定ができるようになると、ドラッグは、さらに大きく手を加えられる。
“いたちごっこを繰り返すうちに、脱法ハーブはどんどん得体のしれない物になった。まるで日々成長を続けるモンスターだ”。
こうなると、“病院に担ぎ込まれた患者がいても、医師すら適切な対処法がわからない”。

このモンスターのもうひとつ恐ろしいところは「カジュアル化」だ。
劇物であるにもかかわらず、パッケージは“若い連中に人気のファッションブランドのロゴとか、あとは海外アーティストのジャケットなんかの丸パクリ”。「ジャケ買い」する若者もいるらしい。
価格も安い。
おしゃれで安価になったことで、恐ろしいドラッグであることが認識しにくい。
手軽に買えるようにもなっている。
自販機で販売する業者も登場、“コインを入れてレバーを回せば脱法ドラッグが出てくる、いわゆる「ガチャガチャタイプ」のものまで用意されていたというから開いた口が塞がらない”。
本書の第三章は、製造工場潜入ルポだ。
製造工場もカジュアル化している。それぞれが分業化されていて、罪の意識を感じることもほとんどないままに製造に加担している。その生々しく空疎な現場のようすは、ぜひルポを読んでみてほしい。

脱法ハーブ製造会社に薬品を売っている人物が、潜入取材している著者に言う。
“「大体うちは製薬会社ですから、見てもらえばわかりますけどね、中国の企業から正規のルートで薬品を輸入しているだけです。薬品といっても、いわゆる薬ではないんです。殺虫剤とか農薬用とか、人体に入れる目的でなく研究用として輸入しているんですよ。それを必要としている方々や会社に売ってるだけ。その後薬品がどう使われようと、知りませんよ。そこまで責任をとれなんて法律もないでしょ!」”
法律が禁じていないのだからやっていいという感覚が、どのような事態を招いてしまったのか。
ぜひ『脱法ドラッグの罠』を読んでみてほしい。(米光一成)