清楚なお嬢様がぶたダブルヤサイマシニンニクアブラカラメ『ラーメン大好き小泉さん』
こってり系ラーメン屋に足を向けた瞬間から、大体の人は「体脂肪?コレステロール?明日お腹壊す? うるせえうまいラーメン食いたいんだ!」欲が暴走しているはずです。
そんな思いをぶちまけるマンガが鳴見なる『ラーメン大好き小泉さん』 (Kindle版)です。
某ゴルフの上手い人とは別です。
感想を色々検索してみると、ほとんどがこれ。
「ラーメン食べに行きたい」。だよねー。
飯テロマンガとしての威力は絶大です。
●「小泉さん」人気の2つのポイント
主人公の小泉さんが、いろんな店でラーメンを食す話です。
2つの点において、わかりやすく魅力を発揮しています。
1・清楚なお嬢様とラーメンの組み合わせ
女の人はラーメン屋に一人で入りづらい、なんて意見をたまに耳にします。
でも最近きれいなラーメン屋多いので、そうでもないんですよね。
女性向けのヘルシーなラーメンも多いです。
ところが、このマンガに出てくるラーメン屋は、表紙の通り、脂ギットギトなこってり系がメイン。
普通盛りを頼んでも、大盛りサイズのが出てくるタイプのお店。
これは、男の戦場だ。男ですら苦手な人多いかも。
そこに、かわいらしいきれいな女の子が入ってきたらどうですか。
ポイントは
「長い髪はまとめる」
「袖は汚れないようにまくる」
「その店のマナーや雰囲気に溶け込む」
食べ方はきれい。ただし上品ではない。これはラーメンに対する戦闘態勢です。
店の男たちがズゾズゾいいながら食うのにあわせて、彼女ももりもり食います。
その様子がこちら。
竹書房4コママンガ誌オフィシャルサイト | 4コマ堂 本日発売!「ラーメン大好き小泉さん」1巻
おいしさを表現する時、すすり芸はとても重要です。
「孤独のグルメ」2話「中央区銀座の韓国風天ぷらと參鶏湯ラーメン」に見た松重豊のすすり芸 - エキレビ!
小泉さんは「ずるっ、ずるずるずるっ」「ず、ずず」「ずぞぞぞ」と、音をたてて食べます。
その間に具を食べる。「ばくっ、ばくっ」「がっ、がっ」。そしてまた麺に戻る「ずずずず」。つゆは残さず飲み干す。
口の中に脂が入ってくる感覚と、ムワッと広がるにおい。彼女は余さず味わいます。
汚れるからとか、太るからとか、全く気にしないで少女が貪る。欲望の権化と化します。
普段ツンツンしているクールビューティ、というギャップもポイント。ラーメンにデレてます。
すする彼女は、まるで性的な快感を得ているように感じられる。そこからの、食べ終わった後の恍惚の顔。ラーメンの愉悦を知っている日本人なら、否が応でもドキドキします。
欲求を満たした人間の顔は美しい。料理は、顔で食べるものです。
2・ほぼ実際の店舗がモチーフ
小泉さんが食べに行くのが、ほとんど実際にあるラーメン屋なのがポイントです。
しかもチェーン店が多い。つまり行ったことがある人が多い店が取り扱われています。
作中では明言はしていないけどね。
例えば第一話で彼女が並んでいるのは、「ラーメン二郎」。
いきなりハードコア。ぶたダブルヤサイマシニンニクアブラカラメを注文します。
また「天下一品」にも行きます。こちらもこってり。
とろっとしたつゆを「ずずずず」とすすって頬を赤らめる様はとてもセクシャルです。
喜連瓜破店のハンバーガーにも触れてます。
他にも、「蒙古タンメン中本」の激辛「北極ラーメン」(カップ麺もある)や、盛岡などにあるキムチ納豆系の「柳屋」など、知っている人なら「あるある」なネタ満載。
とはいっても、北海道民のぼくはほとんど行ったことが無いです。
それでも読んでいて面白いのは、「ラーメン屋の店主のこだわりがどう」とかが、いい意味でスポッと抜けているから。
ラーメン屋のこだわりは、専門のマンガに任せればいい。
このマンガはあくまでも、「ラーメン屋に入って、とにかくラーメン欲を満たす」この一点に食のポイントを定めています。だから店主とのやりとりとか一切ありません。
「おいしそうだけど行けないしなー」という思いを抱かせない。あるのは「ラーメンうめえ」の欲望。
読んだ後にとにかくラーメン屋に行きたくなるのは、ここが原因です。
●「女の子と料理」マンガとコミュニケーション
昨今、女の子が食事をするマンガはもりもり増えています。
『くーねるまるた』、『甘々と稲妻』、『ワカコ酒』、『高杉さん家のおべんとう』、『幸腹グラフィティ』、『花のズボラ飯』、『たべるダケ』、『だがしかし』などなど。まだまだある。
一つ共通しているのは「女の子が食べているのを見たい」という読者の願望。
いずれも「幸せ」を求めて、「欲」を満たすため、女の子たちが食べる。幸せな顔をする。
これらのマンガは大きく2つに分けられます。
ひとつは「食べること重視」の作品群。『ワカコ酒』なんかがその筆頭です。
料理+食ウンチク+食べる幸せにスポットを当てることで、「食」の面白さ、楽しさをぐっと引き立てます。『孤独のグルメ』タイプの女の子版です。
もう一つは「食を通じてコミュニケーションを図る」作品群。『高杉さん家のおべんとう』や『甘々と稲妻』はこちら。
食事ウンチクは押さえつつ、いかにして他の人との輪を築いていくかの方にスポットを当てています。
いわば、食事は会話の足がかり。食べると人間って会話しやすくなるもの。
では『ラーメン大好き小泉さん』はどちらかというと、その中間。
小泉さんはものすごく「一人で食べたい」派。
誰かとしゃべりながら食べると、本気で味わえない……ということを考えると、彼女の気持ちはよくわかる。
ここに、小泉さんと仲良くしたいがためにラーメン屋についてまわる大澤さん、小泉さんを敵視していたはずの中村さん、クラス委員長なので仕方なく話しかけたはずがラーメン仲間になった高橋さん……と、友達が増えていきます。
小泉さん本人は、できれば一人でいたい。
しかしラーメンの取り持つ縁で、いつしか人間関係ができてしまっている。
ここがラーメンの哲学。
「一人で味わう楽しさ」「人との出会い」、この両方をバランスよく投入。
ここまでしてなお、「誰かと食べるラーメン」を描かない、「一人でラーメンを食べるのが至高」なのを崩さない。
そうだよ、ラーメンは一人で黙々と食うのが、うまいんだよ。
でも味を理解し合える仲間がいると嬉しい。不思議な食べ物だ。
ぼくがこのマンガで最もオススメしたいページがあります。
見開きで「小泉さんと大澤さんが全く離れた席に座って、会話一つなく個々にラーメンをうまそうに食べるシーン」です。
これこそ、「ラーメン」という日本らしい食べ物のあり方について、作者がたどり着いた答えのように思えるのです。
現在ブックウォーカーでは竹書房のグルメ&フレッシュフェアと題して、『ラーメン大好き小泉さん』をはじめ、『ラーメン屋のヨメ』、『おうちでごはん』、『ちぃちゃんのおしながき』などがどどんと安く配信されています。グルメマンガ好きな方はこちらも要チェック。
はー。
明日ラーメン食いに行こう。
鳴見なる『ラーメン大好き小泉さん』 (Kindle版)
鳴見なる・唐花見コウ『JA〜女子によるアグリカルチャー〜』1 (Kindle版)
同じ作者のこちらも、食べ物描写と人間関係描写がうまいのでオススメ。
(たまごまご)
そんな思いをぶちまけるマンガが鳴見なる『ラーメン大好き小泉さん』 (Kindle版)です。
某ゴルフの上手い人とは別です。
感想を色々検索してみると、ほとんどがこれ。
「ラーメン食べに行きたい」。だよねー。
飯テロマンガとしての威力は絶大です。
主人公の小泉さんが、いろんな店でラーメンを食す話です。
2つの点において、わかりやすく魅力を発揮しています。
1・清楚なお嬢様とラーメンの組み合わせ
女の人はラーメン屋に一人で入りづらい、なんて意見をたまに耳にします。
でも最近きれいなラーメン屋多いので、そうでもないんですよね。
女性向けのヘルシーなラーメンも多いです。
ところが、このマンガに出てくるラーメン屋は、表紙の通り、脂ギットギトなこってり系がメイン。
普通盛りを頼んでも、大盛りサイズのが出てくるタイプのお店。
これは、男の戦場だ。男ですら苦手な人多いかも。
そこに、かわいらしいきれいな女の子が入ってきたらどうですか。
ポイントは
「長い髪はまとめる」
「袖は汚れないようにまくる」
「その店のマナーや雰囲気に溶け込む」
食べ方はきれい。ただし上品ではない。これはラーメンに対する戦闘態勢です。
店の男たちがズゾズゾいいながら食うのにあわせて、彼女ももりもり食います。
その様子がこちら。
竹書房4コママンガ誌オフィシャルサイト | 4コマ堂 本日発売!「ラーメン大好き小泉さん」1巻
おいしさを表現する時、すすり芸はとても重要です。
「孤独のグルメ」2話「中央区銀座の韓国風天ぷらと參鶏湯ラーメン」に見た松重豊のすすり芸 - エキレビ!
小泉さんは「ずるっ、ずるずるずるっ」「ず、ずず」「ずぞぞぞ」と、音をたてて食べます。
その間に具を食べる。「ばくっ、ばくっ」「がっ、がっ」。そしてまた麺に戻る「ずずずず」。つゆは残さず飲み干す。
口の中に脂が入ってくる感覚と、ムワッと広がるにおい。彼女は余さず味わいます。
汚れるからとか、太るからとか、全く気にしないで少女が貪る。欲望の権化と化します。
普段ツンツンしているクールビューティ、というギャップもポイント。ラーメンにデレてます。
すする彼女は、まるで性的な快感を得ているように感じられる。そこからの、食べ終わった後の恍惚の顔。ラーメンの愉悦を知っている日本人なら、否が応でもドキドキします。
欲求を満たした人間の顔は美しい。料理は、顔で食べるものです。
2・ほぼ実際の店舗がモチーフ
小泉さんが食べに行くのが、ほとんど実際にあるラーメン屋なのがポイントです。
しかもチェーン店が多い。つまり行ったことがある人が多い店が取り扱われています。
作中では明言はしていないけどね。
例えば第一話で彼女が並んでいるのは、「ラーメン二郎」。
いきなりハードコア。ぶたダブルヤサイマシニンニクアブラカラメを注文します。
また「天下一品」にも行きます。こちらもこってり。
とろっとしたつゆを「ずずずず」とすすって頬を赤らめる様はとてもセクシャルです。
喜連瓜破店のハンバーガーにも触れてます。
他にも、「蒙古タンメン中本」の激辛「北極ラーメン」(カップ麺もある)や、盛岡などにあるキムチ納豆系の「柳屋」など、知っている人なら「あるある」なネタ満載。
とはいっても、北海道民のぼくはほとんど行ったことが無いです。
それでも読んでいて面白いのは、「ラーメン屋の店主のこだわりがどう」とかが、いい意味でスポッと抜けているから。
ラーメン屋のこだわりは、専門のマンガに任せればいい。
このマンガはあくまでも、「ラーメン屋に入って、とにかくラーメン欲を満たす」この一点に食のポイントを定めています。だから店主とのやりとりとか一切ありません。
「おいしそうだけど行けないしなー」という思いを抱かせない。あるのは「ラーメンうめえ」の欲望。
読んだ後にとにかくラーメン屋に行きたくなるのは、ここが原因です。
●「女の子と料理」マンガとコミュニケーション
昨今、女の子が食事をするマンガはもりもり増えています。
『くーねるまるた』、『甘々と稲妻』、『ワカコ酒』、『高杉さん家のおべんとう』、『幸腹グラフィティ』、『花のズボラ飯』、『たべるダケ』、『だがしかし』などなど。まだまだある。
一つ共通しているのは「女の子が食べているのを見たい」という読者の願望。
いずれも「幸せ」を求めて、「欲」を満たすため、女の子たちが食べる。幸せな顔をする。
これらのマンガは大きく2つに分けられます。
ひとつは「食べること重視」の作品群。『ワカコ酒』なんかがその筆頭です。
料理+食ウンチク+食べる幸せにスポットを当てることで、「食」の面白さ、楽しさをぐっと引き立てます。『孤独のグルメ』タイプの女の子版です。
もう一つは「食を通じてコミュニケーションを図る」作品群。『高杉さん家のおべんとう』や『甘々と稲妻』はこちら。
食事ウンチクは押さえつつ、いかにして他の人との輪を築いていくかの方にスポットを当てています。
いわば、食事は会話の足がかり。食べると人間って会話しやすくなるもの。
では『ラーメン大好き小泉さん』はどちらかというと、その中間。
小泉さんはものすごく「一人で食べたい」派。
誰かとしゃべりながら食べると、本気で味わえない……ということを考えると、彼女の気持ちはよくわかる。
ここに、小泉さんと仲良くしたいがためにラーメン屋についてまわる大澤さん、小泉さんを敵視していたはずの中村さん、クラス委員長なので仕方なく話しかけたはずがラーメン仲間になった高橋さん……と、友達が増えていきます。
小泉さん本人は、できれば一人でいたい。
しかしラーメンの取り持つ縁で、いつしか人間関係ができてしまっている。
ここがラーメンの哲学。
「一人で味わう楽しさ」「人との出会い」、この両方をバランスよく投入。
ここまでしてなお、「誰かと食べるラーメン」を描かない、「一人でラーメンを食べるのが至高」なのを崩さない。
そうだよ、ラーメンは一人で黙々と食うのが、うまいんだよ。
でも味を理解し合える仲間がいると嬉しい。不思議な食べ物だ。
ぼくがこのマンガで最もオススメしたいページがあります。
見開きで「小泉さんと大澤さんが全く離れた席に座って、会話一つなく個々にラーメンをうまそうに食べるシーン」です。
これこそ、「ラーメン」という日本らしい食べ物のあり方について、作者がたどり着いた答えのように思えるのです。
現在ブックウォーカーでは竹書房のグルメ&フレッシュフェアと題して、『ラーメン大好き小泉さん』をはじめ、『ラーメン屋のヨメ』、『おうちでごはん』、『ちぃちゃんのおしながき』などがどどんと安く配信されています。グルメマンガ好きな方はこちらも要チェック。
はー。
明日ラーメン食いに行こう。
鳴見なる『ラーメン大好き小泉さん』 (Kindle版)
鳴見なる・唐花見コウ『JA〜女子によるアグリカルチャー〜』1 (Kindle版)
同じ作者のこちらも、食べ物描写と人間関係描写がうまいのでオススメ。
(たまごまご)