コンパイルの名作ゲーム「魔導物語1-2-3」(MSX2/PC-9801)「魔導物語A・R・S」(MSX2)「魔導物語 EPISODE II CARBUNCLE」(MSX2・ディスクステーション収録)がWindowsで復刻! 「魔導物語」はどのように生み出されたのか?

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コンパイルの「魔導物語」シリーズがWindowsで復刻される。題して「魔導物語 きゅ〜きょく大全 1-2-3&A・R・S」、収録タイトルは「魔導物語1-2-3」(MSX2版・PC-9801版)、「魔導物語A・R・S」(PC-9801版)、「魔導物語 EPISODE II CARBUNCLE」(MSX2版・ディスクステーション収録)。
「魔導物語」は、パズルゲーム「ぷよぷよ」の元になったRPG。アルルやシェゾ、ルルーやサタンは、もともと「魔導物語」に登場していたキャラクターだ。

「魔導物語」シリーズは、1989年のゲーム「魔導物語 EPISODE II CARBUNCLE」から始まる。企画・監督・脚本は当時コンパイルに勤めていた米光一成だ。地下牢にとらわれた魔術師の女の子が、銀髪の魔導師や「サタン」と名乗る謎の魔族を倒して迷宮を脱出するRPG。
この作品をベースに作られたのが、1990年のMSX2版「魔導物語1-2-3」。1991年にはグラフィックや演出をリアル(?)にリメイクしたPC-9801版も発売された。
そんな「魔導物語」の創作秘話を、米光は『ゲームシナリオを書こう!』で紹介している。

「魔導物語」が生まれた1980年代は、「ハイドライド」「ドラゴンクエスト」「イース」「ファイナルファンタジー」といった名作RPGが立て続けに生まれているころだった。

〈そうなると、つまらない作品もどんどん出てくる。
 広告もひどかった。
「マップが百五十画面以上! 登場モンスター二百種以上! 二十種のパラメーター!」と意味不明な数字合戦。
(中略)
 マップが広いのは自慢じゃないし、モンスターが多ければいいってもんじゃない。何かの数を競って大きくしても意味がない。
 面白さは、もっと違うところにあるんだ。
 その腹立ちが、広告ページを妄想させた。
「マップは狭い! 登場モンスター少数精鋭! BGM三曲くらい!」
 広大な世界ではなくて、小さいけれど楽しい世界を舞台にしたRPGを作ろう。
 それが、最初のきっかけだ〉

きっかけはまだまだある。サンプリングという技術、女の子を主人公にしようと思ったこと、早川浩の『RPG幻想事典』、残りHPをあいまいな表現にする「ファジーパラメータ」……さまざまなアイデアがつながって〈背筋に電流が走る〉。

〈女の子を主人公にして、世界は救わない。しもやけになったから薬を取りにいくとか、そんなの。身近な世界を冒険する〉──「魔導物語」の枠組みが生まれた。
プロットはゲームシステムやコンセプトから自然に導かれていったのだという。ブログでは、ゲームの設定にまつわる細かなエピソードも紹介されている。いきなり「EPISODE II」になっているのは「スター・ウォーズ」の影響、「1-2-3」というタイトルは「ロータス1-2-3」のパロディ、シェゾとサタンのモデルはタニス・リーの「闇の公子」などなど。

「魔導物語」(そして1991年の「ぷよぷよ」)は、コンパイルの看板シリーズになった。1992年に米光がコンパイルを退社したあとも、「魔導物語」シリーズの制作は引き継がれ、新作やリメイクが多数生み出された。
今回復刻される「魔導物語A・R・S」もそのひとつ。アルルとルルーとシェゾの過去を描いていて、ファンの中でも人気が高い(シナリオはうゑみぞが担当)。特に「魔導物語S」は、14歳のシェゾが「闇の魔導師」になるきっかけの作品で、リメイクや復刻がされていないため、プレミアがついていた。

「1-2-3」(MSX版・PC-9801版)と「A・R・S」は、ファンの中で「初期魔導」と呼ばれている。「A・R・S」の開発時には、米光の残した設定メモなどが多数残っていたこともあり、雰囲気やコンセプトが近いのだ。

では、それ以降のシリーズはどうなっていったのだろう? 当時のコンパイルはかなり自由な会社で、「魔導物語」シリーズも担当したスタッフによって大きく変化した。たとえば「魔導物語1」はメガドライブやゲームギア、PCエンジンやスーパーファミコンでリメイクされているが、それぞれストーリーや登場人物が異なっている。キャラクターの性格や設定も当時のスタッフの遊び心や思い付きで多々変化していた。
コンパイルの後期には、織田健司によって「真魔導設定」が作られ、シリーズ全体の「年表」が作成され設定を統一しようとする動きもあった。「アンチ大作RPG」として生まれたタイトルが、最終的に「大作RPG」に変わっていったのは不思議な運命だ。

コンパイルの和議申請後(のちに倒産)は、「ぷよぷよ」とそのキャラクターの版権がセガ、「魔導物語」の版権がD4エンタープライズにあるという、複雑な状態になってしまった。「ぷよぷよ」の新展開は「ぷよぷよテトリス」や「ぷよぷよ!!クエスト」、「魔導物語」は「〜聖魔導物語〜」などで見ることができるが、アルルたちの登場する新作「魔導物語」を見るのは難しそうだ。
そのような状況の中で、今回の復刻は素直に嬉しい。
私の初恋の男性はシェゾ・ウィグィィ。いろいろな事情はあるにせよ、2014年になっても彼に出会うことができて幸せだ!

「魔導物語 きゅ〜きょく大全 1-2-3&A・R・S」
http://compile.jp/
2015年3月31日発売予定・WindowsVista/8/8.1対応・価格9801円(税別)

『ゲームシナリオを書こう!』(青弓社)
米光一成、鈴木理香、笹成稀多郎、門司、川上大典らがゲームシナリオについてレクチャーする本。プロット作り、キャラクター作り、シナリオの具体的な書き方、マーケティングなど、「物語」を作るためのヒントがつまった一冊。
(青柳美帆子)