パクられたとウワサになった「就職難!! ゾンビガール」。最新の2巻が9月末に発売されました。

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ゾンビ愛溢れる僕ですから、これまでにない世界観を発明しました
という監督のコメントがネットで批判を受けて話題になったドラマ、「玉川区役所 OF THE DEAD」が10月3日深夜から始まった。

批判を受けたきっかけは、今年8月に「玉川区役所〜」の製作が発表されたときに、舞台や設定が福満しげゆきの「就職難!! ゾンビ取りガール」と似ていると指摘されたことだった。

「ゾンビ取りガール」はゾンビがぽつぽつと発生したが、知能も動きも悪くてそこまで害が無いので抜本的な対策を取られないまま、なしくずしに日常風景の一部となった日本が舞台。一方、「玉川区役所〜」はゾンビがメキシコから世界に広がり一度はパニックになったが、知能も動きも悪いのであっさり鎮圧されて、今ではそこらへんを徘徊して日常風景の一部となった日本が舞台だ。細かなところは異なるものの、たしかに「ゾンビが日常となった日本社会」という点は共通している。

さらに福満しげゆきは「ゾンビ取りガール」の約10年前から、「日本のアルバイト」として同じ設定の短編を、2003年の「カワイコちゃんと2度見る」、2012年の「僕の小規模な生活6」で発表している。また、2007年に発売されて2012年に映画化された古泉智浩の「ライフ・イズ・デッド」でも「ゾンビが日常になった日本社会」を描いていたが、こちらは後書きで福満しげゆきの作品に影響を受けていることを明言していた。

このように類似の先行作品が複数あるにも関わらず、監督が「これまでにない世界観を発明」と言い切ってしまったため、そのゾンビ愛を問われる形で批判を集めてしまったのだ。

個人的にも、現在のゾンビのスタンダードを作ったジョージ・A・ロメロ監督でさえ「リチャード・マチスンからパクりました」と先行作品の影響を隠さない、謙虚を美徳とするゾンビ界隈でその発言は不用意すぎると思ったが、とにかく本当にパクっているのか実際に観て確認してみた。

ゾンビを区別する上でのポイントはいくつかある。まずゾンビの戦闘力を決める、歩くか走るか。これはどちらも歩くゾンビで一緒だった。そしてゾンビの行動を決める、人間としての知性があるかどうか。これもどちらも知性が無いタイプで同じ。次に人間がゾンビになる原因。ここに違いがあった。

「ゾンビ取りガール」ではゾンビになる原因は不明だ(宇宙から降り注ぐ謎の怪光線で死体の筋肉が未知の何かに変わって動いているという裏設定はある)。一方、「玉川区役所〜」ではゾンビになる原因はウィルスで、感染を予防できるワクチンができるほど仕組みも研究されている。この違いは決定的だ。

「ゾンビ取りガール」のように科学で説明できない仕組みで死体が動いてしまったら、既存の社会システムでは人間として扱えない。そのため、ゾンビは人間ではなく、カラスや野良犬に近い、大きな問題にならない限り放置する動物のように扱われている。

だから主人公のゾンビ取り業者は、ゾンビを捕獲する仕事に疑問を持たない。さすまたと虫取り網を組み合わせたオリジナルのゾンビ捕獲道具を開発し、ガードレールや橋など街中にあるもので立ち回るゾンビ捕獲アクションに磨きをかけ、同僚の可愛い後輩の女の子との人間関係に専念している。

しかし「玉川区役所〜」のように原因がウィルスという科学で説明できるものであれば、ゾンビはウィルスに感染した病人だから、人間との違いはあいまいになる(ただし普通の光学顕微鏡でゾンビウィルスを観察するシーンがあったので、通常のウィルスとは別の生物かもしれない。ウィルスは細菌よりも小さいため、光学顕微鏡では見えず電子顕微鏡が必要になる)。

このため、ゾンビを捕獲する仕事に疑問が生じる。人間のような知性がないとはいえ、捕まえて施設に閉じ込めていいのか。ゾンビだから許されるなら人間との境目はどこか。ウィルスに感染したら人間でなくなるのか。

ドラマの第一回でも、行政が配慮してゾンビを「死なないご遺体」「特別保険対象者」と言い換える一方で、住民は公道をうろつくゾンビに罵声を浴びせたり乳房をつついてからかうなど、人間に対するように差別する姿が描かれ、主人公がゾンビの扱いに疑問を持つシーンもあった。

このようにゾンビになる原因の違いは、テーマや展開の違いに直結する。「ゾンビ取りガール」がカッコよく独創的にゾンビを捕獲するアクションや後輩女子と仲良くなっていくラブコメ方面に発展しているのに対して、「玉川区役所〜」はゾンビを通じて人間に近いけど違うものへの差別を扱う方向に進もうとしている。だから設定は似ていても、少なくてもゾンビものとしては二つは別ものだと思う。

ところで、福満しげゆきは後書きが長い作品が多いが、「就職難!! ゾンビ取りガール」でも1巻と2巻で合わせて14,000文字以上を、ゾンビ映画の歴史や思い出、劇中のゾンビのルール、臭い、周囲の社会情勢から、なぜゾンビもゾンビ取り業者も次第に強くなるのかという説明や、「ゾンビ取りガール」を描くのに時間を掛けすぎたせいで生活上の問題を抱えたという裏事情で埋め尽くしている。これがやたらと細かいけど頷くところばかりですごくおもしろい。しかし、ただの一度もゾンビに対して「愛」という言葉は使っていない。私はこの後書きが大好きだ。
(tk_zombie)