「月刊ドラマ」2014年 10月号 映人社
「昼顔」のシナリオ1・2・5・9話と井上由美子の「作者ノート」掲載

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ふたりの主婦の不倫転じて純愛は、夫、妻、元妻たちに阻まれて、大混戦。はたして、結末はいかに!(最終回レビューはこちら)
9月25日、「昼顔〜平日午後3時の恋人たち」(フジテレビ木曜22時〜)が、
15分拡大で、いよいよ最終回を迎えます。
第10話(9月18日放送)のエンディング(あのちょっと色っぽい映像の)は、これまでの名場面が盛り込まれて、いやがおうにも最終回への気持ちが高まる仕掛けになっており、まんまと視聴率も16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)まで上がって、かなりあったまって最終回へ突入です。

10話ではついに、平凡なパート主婦の紗和(上戸彩)と高校理科教師・北野(斎藤工)が、それぞれの家庭を捨てて、恋の逃避行に出ました。
北野の学生時代の思い出がつまった山荘に隠れたふたりの会話が、ドラマのすべてを物語っているようで・・・。

北野「そうだ。この先に森があるんだけど、あとでピクニックに行かない?」
紗和「(笑)ピクニック」
北野「なに?」
紗和「顔に似合わない」
北野「じゃ、なんて言えばいいの」
紗和「うーん散歩?」
北野「それじゃ普通だよ、森だよ」(← 森だよ と特別視するところが、虫とか動物好きの北野っぽい)
紗和「散策? それか徘徊? いっそ冒険でどう?」
北野「だったらいっそう放浪のほうがかっこいい」
紗和「放浪って大げさ。生きて帰れなさそう」
沈黙するふたり
紗和「探してるかな」
北野「ずっとこのまま逃げてるわけにはいかない」

ドラマ前半で、日常と非日常をつなぐ「橋」を渡って、恋に堕ちたふたりは、「森」に踏み込んだというわけです。
そこは「散歩」するような気楽なものではなく、「冒険」というほど元気なものでもなく「放浪」というあてどない苦しみを伴うものであるという、彼らの「不倫」をそのまんま表しているような会話でした。脚本家・井上由美子の名人芸ですね。

10話の終わりに、紗和は、「運命は決して、罪を犯した人間に優しくないということを……」と語っています。どんなにロマンチックに、紗和と北野のふれ合いを描いても(山荘で横たわるふたり、湖で肩寄せ合うふたり、北野におんぶしてもらうふたり、たわいない喧嘩するふたりなどなど)、井上由美子は、ことあるごとに「不倫」は「罪」であることに言及しています。

10話では、紗和が北野とはじめて会ったとき「泥棒」だったと告白する場面があります。そう、なかったことになりそうですが、紗和はパート先のスーパーで口紅を万引きしています。

で、これ、「昼顔」の謎・その1

万引き、なかったことでいいんでしょうか。れっきとした犯罪ですよね???

前回のレビューで、4年前の井上由美子の不倫ドラマ「同窓会」をご紹介しましたが、これも、主人公が、最初に洋服を万引きして、それを着ていった同窓会で、恋がはじまります。最初に「泥棒」することで、主人公は、別の世界に踏み込むのです。

そして、「昼顔」の謎・その2

不倫は犯罪なの?

物を盗むのと、感情の伴う不倫とは、また違うような気がしますよね。
1947年までは「姦通罪」が存在しましたが、現在はもうありません。ただ、不倫によって残された家族などの心や経済的な問題などを考えなくてはならないということで、刑事責任はなくとも民事責任が伴うこともあるようです。
紗和の姑(高畑淳子)は、訴訟を起して「全面戦争」も辞さないと息巻いていました。

北野の妻・乃里子(伊藤歩)と利佳子(吉瀬美智子)の夫・滝川(木下ほうか)は絶対離婚しないと意地を張っています。
ああ、「結婚」という制度ってめんどくさい。絶対気が変わらないとか、絶対我慢する覚悟が必要なんて。これって、別れたくない側にはお得な制度ですね。
余談でした。

はい、次。第3の謎。

北野のこだわりはヘンじゃない?

北野といるとき結婚指輪を外そうとする紗和を、離婚が成立するまではと止める(北野は指輪をそもそもしていないが)とか、離婚が成立するまでちゃんと「好き」と言わないとか、まったく謎の我慢大会でしかありません。

さらに、4つ目の謎。

北野は、本当にイイ男なの?
 
顔は問答無用にイイです。山荘で眠っているときの顔の角度最高でした。
体もイイです。
が、それは斎藤工の魅力です。
北野という男自体は・・・何度も書いていますが、なんもしない男なんです。虫みたいなんです。
そんな北野が10話ではついに、眼鏡まで外して、男らしく動くのですが、いきなり、紗和の旦那(鈴木浩介)に、不貞行為の謝罪と、紗和と別れてくださいと頼みに行き、旦那を怒らせてしまいます。うん、これは、やっぱり紗和が話すべきだったと思うのですが・・・

北野の動向はけっこう謎で、不倫が原因で、面倒を見ていた問題児の生徒たちのこともほったらしにして学校を辞めることになってしまい、生徒を絶望させるのです。恋も大事だけど、生徒のアフタケアもしようよ。これこそ「責任とれるんですか?」ですよ。責任とろーよ。最終回に期待。

まあ、そういう不器用さが、乃里子にも紗和にもたまらないってことなのでしょうか。
それを端的に表していた会話がこれ。

北野「(乃里子に紗和のどこがいいのか聞かれて)どこか好きだかなんてわからない」(← これ、まんま乃里子と紗和に聞きたい)
乃里子「じゃあどうして? もしかして魔性ってやつ? 女には似合わない色気を振りまいているのかしら」
北野「ごめん、乃里、似合わないこと言わせて……(← この台詞も、乃里子のキャラを映しだし、かつ北野の優しさも出ていて、秀逸)
彼女といると自信が沸いてくる。僕を必要とし僕の言葉を必死に受け止めてくれる。なんか体の奥で、もっとがんばろうって無限の力が沸いてくる」
乃里子「要するに年上の研究者が相手だとコンプレックス感じるけど、パートのおばさんなら優越感で自信が出るってわけ。小っさ」
北野「申し訳ない」(← ここで謝るのも北野らしい)
乃里子「ああ、困ったわねえ……小さい男でも……(以下衝撃の発言。乃里子って「持ってる」なと感じさせます)」

で、5つめの謎。

乃里子は、北野に執着する必要があるのか?

乃里子、美人で、お金持ちで、頭がよくて、出世コースに乗っていて、その上、子供も見事に着床させたらしく・・・恵まれまくっているので、北野でなくてもいいオトコがいくらでもいそう。
プライドで執着しているのなら、不器用な困った男・北野を紗和ちゃんに差し上げて! 北野と紗和の恋の根本は、前述の乃里子の解釈が的を射ているのでしょうけれど、ここまで理屈ではない要素もいろいろ含まれてはいるのだと思いたいです。そうじゃないと寂しいから。(木俣冬)