コミカルな役柄からシリアスで冷酷なキャラクターまで演じ分ける名バイプレイヤーとして知られる小日向文世。「HERO」の末次事務官役は出世作。前シリーズの出演をきっかけにブレイクする。写真は『小日向文世 アメリカへ行く。「サイドウェイズ」撮影日記』(ぴあ)。主演映画「サイドウェイズ」の撮影の様子や自伝的エッセイが収録されている

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バッシング覚悟で、事件の真相を追求することを決めた城西支部。公判の担当検事として法廷に立った久利生公平(木村拓哉)は真実にたどりつけるのか? 雨宮舞子(松たか子)は姿を見せるのか? 牛丸次長(角野卓造)似の娘は……?

視聴率20%前後をキープし続け、7月クールの連続ドラマで一人勝ちと言われたドラマ「HERO」が9月22日、ついに最終回を迎えた。

今シーズン初となる法廷シーンからのスタート。久利生は黒シャツに黒ジャケット姿で、容疑者を追求する。「検察官は裁判のルールをご存じないのですか。仮に余罪があったとしても、それは審理の対象にはできません」と、裁判官にやや軽んじた口調で告げられても、久利生はひるまない。「我々検察は今回の事件に加え、今挙げた5つの事件すべてについて南雲俊之を追起訴したいと考えております」と告げ、法廷は騒然。マスコミも検察内部も大騒ぎになる。

法廷での久利生はいつもにもまして凜々しい。おちゃらけず、シリアスに語れば語るほど、ヒーロー濃度が増していく。その安定のかっこよさもさることながら、すごかったのがおじさんたちである。日頃、ちょっとだらしなかったり、情けないところがある面々が目の醒めるようなヒーローぶりを発揮した。

コワモテだが、じつは気が小さいところがある川尻検事部長(松重豊)。これまでもドカーンとキレては後悔するシーンが何度も登場した。しかし、今回は違った。検察のお偉方に囲まれ、ネチネチ嫌みを言われても「我々の目的は連続通り魔事件の犯人を罰すること、それだけです」と一歩も引かない姿勢を見せた。

城西支部の面々は手分けして、過去の事件の検証にあたる。えん罪起訴した可能性がある当時の担当検事、国分秀雄(井上順)を訪ね、捜査への協力を求める。だが、国分は「私がえん罪を出したというのか」と怒り出し、とりつくしまもない。宇野検事(濱田岳)が「僕たちは真実が知りたいんです。だって、過去に南雲を取り調べたのは国分さんだけなんですから」と食い下がると、さらにヒートアップ。
「真実を知りたいといえば、なんでも許されると思うな。そんなものは検事の傲慢だ!」と怒鳴りつける。検事をやめた今、捜査に協力する義務はないとも言う。

いったんは帰ろうとするものの、物言いたげな表情で立ち止まる末次事務官(小日向文世)。居間にいる国分に庭から訴えかける。

「私だって真実を知りたいと思っています。検事バッジをつけていません。でも、そこで犯罪がおこってるのに、それを見過ごすことはできませんよ。(中略)法律がどうとかじゃないでしょう! 人としてどうなんだって話なんですよ!!」

記者会見では、牛丸次席が漢(おとこ)を見せた。「ご自身の進退を賭ける覚悟はおありなんでしょうか」という記者の質問に、「当然です」とキッパリ。「城西支部の検事、事務官たちは責任を持って起訴を決めたんです。私は彼らの判断を信じます」と続けた。

さらに、謝る久利生に「お前は鍋島さんが見込んだ検事なんだ。思い切ってやれ」「これはお前たちの裁判だ。最後の責任は俺がとってやる」と励ました。そして、「謝ることには慣れているんだよ」と言いながら、好物の大福をほおばる。「(医者に)止められてるんじゃないすか」と突っ込まれても、大福をモグモグ。チャーミングすぎる!

公判では依然として苦戦を強いられる久利生。頑なに捜査協力を拒否していた国分が弁護士側の証人として出廷することがわかり、城西支部の面々はショックを受ける。「末次さんが怒らせちゃったんだよ!」(宇野)、「なんでそんなこと!」(麻木)、「伝説の元検事だぞ」(田村)と口々に責められ、末次さんしょんぼり。

傍聴席に末次事務官の姿がないことに気づいたのは、井戸事務官だった。廊下のソファで「国分さんに失礼なこと言っちゃったから……」とため息をつく末次事務官に「そんなの関係ないですよ。末次さん! みんなで闘っている裁判じゃないですか!!」と背中を押す。

傍聴席にいる城西支部のメンバーに見守られながらの証人尋問。久利生は突然、証人の国分ではなく、裁判員に向けて語り始める。

「裁判員のみなさん、こうやって裁判に関わるのは初めてだと思うんですけど。思いませんか、裁判ってなんてこんなくだらないことをやっているんだろうって。僕はいまだにそう思っちゃうんですよ。(中略)そこには大事なルールがあって、絶対に正直でなければいけないということ。正直でまっすぐな光を当てなければ、真実は見えてこない。裁判は成り立たなくなっちゃうんです」

法廷での長ゼリフといえば、「リーガル・ハイ」の古美門研介(堺雅人)が記憶に新しい。でも、久利生のスタイルは古美門のそれとはまったく違う。奇をてらうことなく、終始穏やかで素直なトーン。強いて言えば、「絶対に、正直でなければならないということ」というフレーズで感情のたかぶりを見せた程度。派手さはないが、じんわり沁みる。

ついに「起訴は間違いだったかもしれない」という国分の証言を引き出し、南雲には無期懲役が言い渡される。城西支部にもいつもの日常が戻ってくる。残念ながら、雨宮&ハリセンボン・春菜のサプライズ登場はなし。麻木宛てに司法試験の参考書が届いて大団円。どうやら雨宮に続いて、麻木も検事目指すらしい。そうか、関わる女のやる気をうまい具合に引き出すのも、ヒーローのひとつのあり方なんだ。久利生さん、すごいっす。また会いたい。
(島影真奈美)

*「HERO ヒーロー2014」(脚本:福田靖、ノベライズ:蒔田陽平/扶桑社)