バルセロナがチェルシーに敗れた。ＣＬで２連覇を達成するチームは今回も現れなかった。チャンピオンは敗れる運命にある。これはサッカーという競技の特性と言うべきかも知れない。

バルサとチェルシー。絶対に勝たなければならない。絶対に負けられないと思って戦っていたのはバルサ。チェルシーの方が気楽な気持ちで試合に臨んでいた。

これがチェルシーにプラスアルファの力となって働いた。同様に、バルサの足かせになった。僕はそう思う。

「サッカーは弱者有利にできている」とは、僕の持論だが、この準決勝はそれを象徴した一戦だと思う。

チェルシーは一方的に押し込まれていたが、一方的に押し込んでいるバルサより精神的には楽だったはず。むしろ乗っていた。逆にバルサは乗れていなかった。少なくともプレイを楽しんでいるようには見えなかった。

この精神的なノリは、サッカーをする上で不可欠な要素だ。潜在能力はこれによって引き出される。乗れていれば100の力が120発揮される可能性がある。思わぬ力、思わぬスーパープレイはこうした状態の中で生まれやすい。

逆に乗れなければ100の力は80しかでない。

相手との力関係が100対80でも、80の弱者が精神的に乗っていて、かつ100の強者が乗れていなければ、逆転は十分あり得る。

サッカーは乗った方勝ち。そして乗りやすいのは弱者より強者だ。少々の実力の違いは、乗りの差によって解消される。

監督采配とか布陣の設定は、選手を乗らせるための道具になる。選手たちはどうしたら乗るか。プラスアルファの力を発揮するか。そこを徹底追求する姿勢が、監督には求められている。

グアルディオラが、大一番にも拘わらず３―４―３で臨んだのも、そのあたりに理由があると思う。守勢に回りそうになる気持ちを、前向きにさせようとする狙いもあったはずだ。敢えてハードルの高い攻撃的な作戦にでることにより、選手たちの精神的な乗りを高揚させようとした。

とりわけボール操作が上手いチームは、精神を高揚させることなく淡々とプレイする傾向がある。かつてのバルサにもその傾向があったが、それ以上に象徴的なのは王者ブラジル代表になる。彼らはいつも淡々とプレイする。よって100の力はマックス100しか発揮されない。120出した試合を見たことがない。実力以上に力を見せたことはない。90でも優勝できる力を持っているからだが、80になってしまうと危なくなる。そこでアルゼンチンが120出すと、形勢は逆転する。

乗るプレイとは、仲間を乗せるプレイとは。弱者が乗る瞬間は、強者から良い感じでボールを奪い取った瞬間だ。プレッシングが決まり、意外な形でボールを奪った瞬間だ。強者のシマッタという表情を眺めながら、シメタという表情でゴールに突き進んでいくことほど楽しいことはない。バルサ対チェルシーで言えば、第１戦、第２戦ともランパードがボールを奪った瞬間になる。ボールを受けたドログバ、ラミレスは、シメタという表情で、ゴールに向かっていった。

バルサが最近勝てるようになったのは、ボール奪還能力が向上したことと大きな関係がある。かつては相手ボールになると、そのプレイをつまらなそうに見送ったものだが、ここ数年は、その点がすっかり解消された。相手ボール時も、マイボール時と同じくらい強いチームに見えるようになった。だが、それでも２連覇は達成できなかった。

過去22シーズンの中で、２連覇に最も近づいたチームは、94〜95、95〜96シーズンのアヤックスになる。ユベントスと争った95〜96は延長ＰＫ。試合そのものは１―１の引き分けだった。足りなかったのは運のみ。いま振り返れば、最も惜しいチームになる。