細部は選手が決定するもの、というのが吉澤監督の理想ならば、それは何の問題もない。或いは、まずは残留が目標となるクラブで伸び伸びと選手の力を発揮させようとするのならば、監督もその力を発揮出来たかも知れない。しかし、今シーズンの松本山雅は違った。昇格は半ばノルマと化しているクラブである。プレッシャーは計り知れないものがあったと容易に想像出来る。

■数多の栄光が消えることはない

3バックなのか、4バックなのか。ロングボールを蹴り込むのか、パスを繋げるのか。育成なのか、勝利なのか。3年半、これぞ『吉澤サッカー』というものが見ることが出来なかったのが残念である(2009シーズン後半、見えかかったこともあったが……)。ただ、湘南に勝利、浦和に勝利、全社優勝、JFL昇格という数多の栄光は消えることはない。吉澤前監督も胸を張って新たな道に進むことが許される結果を残してきたことは間違いない。

こうして、チームは新体制に移行した。新監督はGMだった加藤善之氏。言わば監督とは一蓮托生だったはずの人である。編成の責任者が現場の責任者に。「では、今後は誰がどうチームを内部評価するのか」という疑問も出てくるが、事態が事態だけにまずは新監督の手腕に注目したい。過去、コーチ・監督代行として現場の指導の経験はある。ただ、もっぱらフロント業務を専門としてきた方だけに、長期に渡る采配は未知数という他ない。

■重圧を打破し、山雅は生まれ変わることが出来るのか

8試合で吉澤体制が終わりを告げたということは、今年のチーム作りはここまでは上手く進んでいないということだ。その点は、吉澤前監督一人をスケープゴートにしてはならない。サッカーはチーム競技である以上、当然その非は加藤新監督をはじめとするフロントや、実力を十二分に発揮できていない選手達にもある。ただ、前監督と明確に異なる点が一つある。まだ、汚名返上のチャンスが残されているということだ。新監督がチームに横たわる課題点を劇的に修正すれば、現状J2昇格が不可能というほどの数字でもなく、選手の顔ぶれも多士済々、これからの急浮上は十分達成可能である。ようは「勝てば官軍」ということだ。

上手く転がりそうなチーム、しかし波に乗り切れない。目に見えない重圧と、漂う『負の雰囲気』。クラブはその現状打破に劇薬を用いた。選手に植えつけられた冷静な危機感。松本山雅はこれで本当に生まれ変わることが出来るのか――。

■著者プロフィール
【多岐太宿】
物書きを目指していた2004年末、地元に偶然にもアルウィンと松本山雅FCがあったことから密着を開始。以来、クラブの成長と紆余曲折を偶然にも同時進行で体感する幸運に恵まれる。クラブ公式、県内情報誌、フリーペーパー等に寄稿。クラブの全国区昇格を機に、自身も全国区昇格を目指して悪戦苦闘中。

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