台北ドームの2階、キャッチャー後方のはるか頭上にあるスタンドの記者席から見ていても、明らかに韓国の打者はタイミングを崩されていた。

 11月15日、侍ジャパンが韓国に6対3で逆転勝利を収めた第3回プレミア12の2戦目。試合中盤から終盤の勝負どころで韓国打線の反撃を断ち切ったのは、2番手で登板した隅田知一郎(西武)の"魔球"チェンジアップだった。


韓国戦に2番手で登板した隅田知一郎 photo by Sankei Visual

【序盤から一進一退の展開】

 マウンドに上がった5回から7回の3イニングで奪った9個のアウトのうち、7個をチェンジアップで記録。6奪三振のうち、じつに5個がチェンジアップで仕留めたものだった。

 リードした坂倉将吾(広島)が振り返る。

「チェンジアップはスミ(隅田)の持ち味のボールだと思うので、使っていかなきゃいけないと思います。(韓国打線は)変化球への意識も若干強いのかなって感じたので、ちょっと真っすぐも増やしていけたらと。本当にスミが頑張ってくれたおかげだと思います」

 この日、勝利投手になった隅田は全53球を投げたうち、チェンジアップは最多の16球で30.2%。たしかに多く投げたが、全体的に見れば極端に偏ったわけではない。以下が韓国戦での球種別の投球数だ。

<チェンジアップ:16球、ストレート:15球、フォーク:11球、カーブ:11球>

 坂倉が明かしたように、打者を仕留めるまでの道筋がしっかり描けていたわけだ。今度は隅田が振り返る。

「左バッターも多いなかでカーブを使って、アウトコースのストレートをしっかり決められたので、チェンジアップもより生きたと思います。そこは収穫だったかなと思いますね」

 日本の先発右腕・郄橋宏斗に対し、韓国は7人の左打者をスタメンに並べた。最終的に日本が6対3で勝利したものの、試合中盤まではシーソーゲームだった。試合後の会見で井端監督が「勝ててラッキーというくらい、どちらに転んでもおかしくなかったと思います」と吐露したほどである。

 韓国が2回表に1点を先制し、日本がその裏に2点を挙げて逆転。韓国は4回に追いつき、5回に1点を勝ち越した。

 なかでも印象的だったのが、ストレートへの強さだった。2対2で迎えた5回表には隅田を攻め立てて二死三塁のチャンスをつくると、代打ユン・ドンヒが真ん中低めに甘く入ったストレートを捉えて左中間にタイムリー二塁打を放った。

「(隅田の)ミスはミスなんですけど、あそこで打つバッターもすごいと思います。やられたなって感じました」

 坂倉がそう話したように、韓国打線は甘く入ったストレートを逃さなかった。

【想像以上に強力だった韓国打線】

 隅田だけではない。先発の郄橋に対して初回、1番ホン・チャンギと4番ムン・ボギョンがいずれもストレートを打ち返してチャンスメイク。2回には1番ホン・チャンギがセンター前タイムリーで先制点を呼び込んだ場面も、仕留めたのはストレートだった。

 戦前の予想以上に韓国打線は強力で、坂倉はマスク越しに「ちょっと焦ってしまいました」と明かした。

「振りが強いなっていう印象を、昨日のキューバ戦を見て受けたんですけど、(実際に対戦して)真っすぐに対してコンパクトに強いスイングをしてくるなっていうイメージを、今日一日でより思いました」

 先発の郄橋が4回までに78球で7安打、2失点と波に乗れなかったのは、韓国打線がストレートを捉えてきたことに加え、決め球のスプリットによる影響もある。坂倉が続ける。

「真っすぐ自体はすごくよかったと思うんですけど、スプリットが落ち切らなかったり、ばらつきがありました。真っすぐがよくても思ったより弾かれてしまったので、苦しくなりました。途中からカーブ、カットボールも織り交ぜて最少失点でいけたのはよかったと思います」

 もちろんデータをインプットして臨んだが、肌を合わせた韓国打線は想像以上に手強かった。さらに郄橋のデキも踏まえ、坂倉は3回からナックルカーブとカットボールを増やした。そして4回、高めに甘く入ったカットボールを韓国の7番パク・トンウォンにレフトスタンドへ突き刺されたのだ。

 一進一退の戦いで、試合が進むにつれて緊張感も増していくなか、当然ミスは起こる。5回、2番手の隅田が打たれた勝ち越しタイムリーも失投だった。隅田も「反省点」と語っている。

 試合序盤から一手一手を積み重ね、韓国打線は「変化球への意識が若干強い」と坂倉も隅田も感じた。そう察したなかで伝家の宝刀のチェンジアップをより生かすためには、ストレートを効果的に使う必要がある。その1球が甘く入り、5回に勝ち越しを許すタイムリーにつながったわけだ。

 隅田にとってチェンジアップはウイニングショットだが、4球種ともに決め球にもカウント球にもなる。平均140キロ台中盤のストレート、130キロ台のスプリット、120キロ台のチェンジアップ、110キロ台のカーブと絶妙な球速差も相手打者には厄介だ。以上の球種を組み合わせ、どうやって持ち味をより発揮するか。重要になるのはバッテリーの呼吸だ。坂倉はこう話した。

「全部腕を振って投げてくれることに感謝です。あとはこっちがなんとか出し入れをして、突っ込むところは突っ込んでいくという感じですね」

 隅田は2イニング目の6回を無失点で抑え、首脳陣は次の回から3番手につなぐ選択肢もあったはずだ。それでも3イニング目の7回もマウンドに送ったのは、抑える確率がより高いと感じたからだろう。隅田は意気に感じて三者凡退で応えた。最後のアウトをチェンジアップで奪うと、思わず雄叫びを上げた。

「ランナーを出した回が2回ありましたけど、そこでも粘れたのはよかったと思います」

 実力伯仲の緊迫した一戦で、ミスなくゲームセットを迎えることはまずない。序盤の失敗を生かし、中盤で体勢を整えて、どうリードして試合を終えられるか。チャンスで得点につなげた8番・紅林弘太郎(オリックス)、6番・牧秀悟(DeNA)、4番・森下翔太(阪神)も見事だった一方、守っては隅田&坂倉のバッテリーの粘り強さも光る一戦だった。