【保田 三都子】まさか82歳の父が「闇バイト」に手を出していた…!”怪しい仕事”に高齢者が応募してしまう「切実な理由」
父のためのお詫び行脚
大きな社会問題になっている闇バイト。安直に手を出す若者が後を絶たない。先日、強盗事件の現金回収役で逮捕されたのは子持ちの主婦だったが、実行部隊として犯罪組織にアテにされているのは、若い世代ばかりではないようだ。
「まさか今年で82歳になる自分の父親が、闇バイトに手を出すとは思いもしなかった。発覚したときは手足が震えましたよ…」
こう話すのは神奈川県に住む前田満さん(仮名・60代)である。この夏、都内で一人暮らしを続ける父親(82歳)にスマホをプレゼントしたところ、X(旧Twitter)から闇バイトの募集に引っかかり、危うく犯罪に手を染めるところだった。
警察の事情聴取も終わり、父と一緒に深夜に帰宅した満さんは、父が高齢者仲間に闇バイトであることに気づかず、「80代でも働ける簡単な仕事がある」と紹介しまくっていたことが発覚する。
前編記事『「82歳の父」が闇バイトに手を出してとんでもない目に…!60代の息子が青ざめた「絶体絶命の大ピンチ」』よりつづきます。
息子の満さんが語る。
「父はスマホの扱いに自信を持っていました。通っていたスマホ教室のインストラクターはみんな若い女性で、そういう人たちに『年齢の割には使いこなせている』と褒められてうれしくなっていたようです。だからでしょうか。友人たちからもスマホの使い方を聞かれることが多かったのです。
それは悪いことではないと思いますが、父は頼りにされるのがうれしくて、ちょっと調子にのっていた。便利なアプリをみつけて紹介したり、希望する友人にはダウンロードまでしてあげていた。頼りにされるとついつい…。それが今回は悪い方へ向かったわけです」
そのひとつとして「闇バイト」を紹介してしまったわけだ。
「みなさん、年金だけでは心細いですからね。かといって、働こうにも体は動かないし、80代で雇って貰える場所もほとんどない。父がいう『高齢者でもできる。2時間で2万円』なら、飛びつく人も出ると思いました。その話を聞いた私は、慌てて父が教えたという人のお宅を1軒、1軒回って、絶対に関わらないでほしいこととお詫びをしました」
年金生活者だって苦しいんだ
やはりというべきか、闇バイトだと気づかないまま話を聞いていた友人がいた。一方で、聞いた時からおかしいと感じて父に注意しなければと思っていた友人や、同居する家族から「これ絶対にヤバイやつだから」と止められた友人もいたという。
満さんとその周囲を騒がせた「闇バイト未遂事件」から3ヵ月――。82歳の当人に話を聞いた。
「俺もさ、『闇バイト』くらい知っているさ。最近はテレビをつけるとそればかりやっているからね。いい加減覚えたよ。でもさ、8月くらいはまだそんなにニュースでみかけなかったでしょ? ルフィーだったかな? その事件でちょこっと報じられているくらいでピンとこなかったんだ。だから、悪いことに加担するとは思わなくてバイトに申し込んじゃった。スマホ操作が上手と言われて、調子に乗っていたんだろうなぁ」
――なぜネットの怪しい仕事に応募したのか
「そりゃぁお金だよ。ニュースで若い子たちが『お金が無いから手を出した』と言っているけど、若い子だけじゃないよ。年金生活者も大変なんだよ。老人はお金を溜め込んでいるとか言われているけどさ、ギリギリだよ。だから自分でもできそうで、簡単にお金が入る仕事にはつい手がでてしまう。
Xで見つけた闇バイトも、犯罪に利用されるなんて全然気づかず、それよりも『インターネットを使えば80代でもできる仕事をみつけられるんだ』という夢のような話に、つられちゃった。悔しいやら情けないやら…」
みんなを助けたいと思って失敗
――友人たちに闇バイトをすすめたことについては?
「みんなお金は持ってないからね。老いると働く場所も、体力もなくなる。俺も応募したときは『年齢不問なんで嘘だ。どうせ80を過ぎているから絶対にダメだろう』って思いながらスマホを操作したんだ。そしたら翌日に、『お仕事お願いします』って返信が入っていた。
バイトする場所も近いし、封筒もってウロウロするだけで、2時間もかからないから体力ももつ。それで2万円も現金がもらえるんだから、すごくありがたかった。それでみんなにも助けるつもりで闇バイトを紹介しちゃったんだ。ほんと息子にも友だちにも迷惑を掛けてしまったと反省している」
恥ずかしいうえ、申し訳なさすぎて、しばらくは自主的に自宅謹慎したそうだ。
警察の事情聴取で知った「高齢者がヤバイ」理由とは
――警察の事情聴取はどうだった?
「闇バイトにどうやって応募したとか、何をさせられそうになったかとか、具体的な場所とか、事件に関すること全部だね。使っていたスマホは証拠品として、置いてきたよ。刑事さんには闇バイトをすることがどれだけ危ないことなのか説明され、こってりと絞られたよ。
そこで聞いた話だけど、犯人にとって、闇バイトで高齢者を利用するのは好都合らしい。理由は『若い人ほど不審者に思われないから』だって。流石に強盗の実行犯は無理だけど、運び屋や受け渡し要員に高齢者は、うってつけだってさ。
詐欺の実行犯にも使えるらしい。犯罪組織がダマすのは高齢者。こっちも高齢者だからダマしやすくて疑われにくいらしい。知らなかったとはいえ、本当に闇バイトをしなくて良かった。悔やんでも悔やみきれない過ちを犯すところだった。誰かを騙してお金をもらうくらいなら、誰かにダマされお金を盗られたほうがマシ。まぁ…その渡すお金もないんだけどね」
スマホは、覚えられれば誰でも使える。しかしネットリテラシーは覚えながら学び、養っていくもの。世の中が急速に便利になっていった中で、若い世代も中年世代もネットリテラシーが怪しい人はたくさんいる。一朝一夕で得られるものではない。ネット使い始めの高齢者ならばなおさらだ。
満さんの父の闇バイトは幸いにも未遂に終わったが、一歩間違えれば友人高齢者を巻き込んで犯罪者になっていた可能性がある。ネット上には怪しい人間たちが跳梁跋扈していることを忘れてはならない。
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