【小川 匡則】「立憲民主党に民主主義はない」驚くほど非民主的な東京30区候補者擁立劇に党内から失望の声

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地元無視の東京30区候補者擁立

「私は、 本気で政権を取りに行く覚悟であります」

9月23日に行われた立憲民主党の代表戦。新たな代表に選ばれた野田佳彦議員は候補者の決意表明で、政権交代をするために立候補したと強調した。

その2日後の9月25日。立憲民主党の東京都連は常任幹事会を開き、空席だった東京30区での候補者擁立を決めた。選ばれたのは五十嵐衣里都議会議員だ。

「東京は一票の格差是正に伴う『10増10減』で選挙区が5つ増えた。30区は府中市(旧18区)、稲城市(旧21区、旧22区)、多摩市(旧23区)によって構成される新しい選挙区です。自民党は前回、旧18区で菅直人元首相に敗れて比例復活した元民主党の長島昭久議員が支部長に就任している。対する立憲は他党との候補者調整で一旦はれいわ新選組に譲り候補者擁立を見送っていました」(立憲民主党関係者)

れいわ新選組と立憲は前回、東京22区で候補者が競合し、れいわの櫛渕万里が比例復活した一方、現職だった立憲の山花郁夫は落選の憂き目にあった。そのため22区で山花を勝たせるべく、候補者調整を行って立憲は櫛渕に30区を用意したのだった。

「しかし、30区に地盤があるれいわの木村英子参院議員が猛反発。櫛渕が30区で出るなら離党する、というほどの騒ぎになったため再調整が図られた。結果、今年4月に櫛渕は東京14区に移ることになり、30区は立憲が候補者を擁立するということでまとまった」(前出・関係者)

そこから30区の候補者擁立が動き出し、ようやく決まったのが30区と隣接する武蔵野市選出の都議会議員を務める五十嵐氏だった。

「もともと小西洋之参院議員の政策秘書を務めていた五十嵐さんは2021年の都議選に武蔵野市から出馬し、1人区ながら圧勝して立憲民主党内では大きな注目を集めました。ところが、まだ1期も務めないうちから国政への野心を隠さなかった。

武蔵野市は衆議院では東京18区で、今期限りで引退する菅直人元首相の地元ですが、五十嵐さんは菅さんの後継として出たいと思っていた。しかし、武蔵野市長を務めていた松下玲子さんが選ばれた。そこで空いていた30区に白羽の矢が立ったわけです」(立憲民主党都連関係者)

「国会への踏み台」

ところが、この擁立には地元から大反発が起きている。

「本来であれば9月4日の都連常任幹事会で決定される予定でした。ところが、地元自治体議員の猛反発によって決定が延期された。しかし、その後もほとんど地元とのコミュニケーションが図られないまま今回は強引に決定してしまったんです」(前出・都連関係者)

それを裏付ける文書を入手した。9月3日に立憲民主党東京都連幹部宛に届いたものである。送り主は東京第30区総支部長代行の前川浩子氏(府中市議会議員)だ。

そこには「東京30区が都連の意向に翻弄され、甚だ遺憾な事態を受け続けた」として、一度はれいわ新選組に選挙区を渡し、それが白紙になった経緯について一切説明がないことへの苦言を呈した上で、五十嵐氏の公認に強く反対する意見が記されている。

「五十嵐氏はひたすら自分が国会に行きたい旨の自己都合を述べるばかりであり、30区の地域事情、地元課題に関する理解はおろか、理解しようとする意志さえ見えず、30区暫定総支部を単なる自らの『国会への踏み台』としか考えていないことは明らかであった」

「当然のこととして、五十嵐氏の要求を受け入れる余地など、金輪際あろうはずもない」

このように五十嵐氏の資質を問題視する辛辣な言葉が並ぶ。それにとどまらず、怒りの矛先は都連に対しても向けられる。

「また、五十嵐氏の要求行為に至る一連の過程に対して、都連の意向がなんらか動いているのだとすれば、地元議員無視の極みと断じざるを得ない」

これを受けて、9月4日の都連常任幹事会で予定されていた五十嵐氏の擁立決定は見送られた。

その後も都連や五十嵐氏が地元に理解を求める姿勢は見られず、地元関係者の怒りは増幅するままだった。

地元市議が怒りを激白

9月17日には30区支部長代理の前川氏が今度は都連の常任幹事宛に意見書を提出した。そこには以下のようにさらに厳しい言葉が並んでいた。

「30区の候補擁立を巡る動きについて、誇りを持って党活動を担ってきた地元地方議員など無きが如きのように、何ら地元の意見聴取も行わないまま、しかも地元ならではの政治風土が顧みられることもなく擁立作業が進められることに対し、『草の根民主主義』を標榜するはずの立憲民主党の在り方と言う観点から、深く憂慮するものです」(原文ママ)

「地元と議員との『絆』の大切さを何ら理解せず、地元選挙区を『自らの当選のための足場』としか考えないような候補者が、選挙区を水平異動して、この30区に擁立されるようなことがあれば、一部の思惑とは裏腹に、地元30区のみではなく、立憲民主党全体への信頼が大きく毀損されると考えます」(原文ママ)

文書を送った前川氏に話を聞くと、「我々地元の意思は完全に無視されました」と憤りを隠さない。

「これまで話し合いという話し合いはなかったです。これまで五十嵐さんとの接点はほとんどなかったのに、8月末に五十嵐さんが急に会いたいと言って来たんです。その時に『ここから出たい』と言われました。理由を聞いても、『憲法審査会に入って憲法の話がしたいから国会議員になりたい』という一点張りでした。我々は日々の生活で辛い思いをしている方々に寄り添っていかなければならないが、そういうことに彼女は全く共感を示さなかったので呆れました。だから私は『いや、あなたには無理だ』と言ったんです」

突然の出馬意思表明に異変を察知した前川氏が情報収集をしたところ、9月4日の都連常任幹事会で決定される方針だと知り、急遽意見書を送ったという。

「あれは私の個人的な意見ではなく『30区支部長代理』として30区の総意を伝えています」

前川氏はその後、五十嵐氏に「一度ちゃんと話し合おう」とメールをした。

「9月18日に日程が決まったところ、急に手塚(都連幹事長)さんの秘書から『集まれ』と連絡がきた。私は手塚さんに会いたいとは言ってないんですが。私たちが五十嵐さんに会いたいと言ったら五十嵐さんは手塚さんに連絡したのでしょう」

ボトムアップとは真逆の強引な手法

この会合に訪れた前川氏ら数名の地元議員は多摩市議の白田満氏を30区の支部長に公認するよう求めた。

「もし公認申請しても取り計らうかはわからないと言われました。その上で、五十嵐さんが選ばれた場合は必ず応援するように約束しろと迫られました。結局、『五十嵐に決まったらお前らがやるんだ』と言わんばかりでした。国会議員が決めて上からおろしたことを地方議員がやるだけなのか。私たちは奴隷なんですか。全然(立憲が標榜する)ボトムアップの政治じゃないです。そんな約束はできないので、議論は平行線に終わり、決裂しました」

さらに9月24日には前川市議ら6名の地元市議が連名で都連常任幹事宛に意見書を提出した。翌日に五十嵐氏を擁立する方針が決まる予定になっていたからである。

「これまで地元との真摯な協議は一切なく、しかも、今週中には都連常任幹事会を開催し、その場において地元の了解を得たものとして、五十嵐都議の30区の公認が諮られる、との話をお聞きしております」

「こうした一連の経過は、私ども『草の根政治』を地域で支えてきた第30区市議会議員の存在を極めて軽視するものです。しかも、第30区公認候補としたい理由は、ひたすら得票の可能性のみであり、またそれは、私どもの体感する現実とかけ離れたものでしかありません」

「第30区有権者ひいては国民の暮らしをどう支えようとするのか、その欠片すら都連からも五十嵐氏からも示されることがなかったことに、深く失望しております。公認候補者の決定は、地域の実情を理解し、住民の声を真摯に反映する人物であるべきです」

このように、ここでも厳しい言葉が並ぶ。

ところが、こうした地元市議団からの「抗議」は無視され、翌日の都連常任幹事会ではあっさりと五十嵐氏の擁立方針が決まった。今後、都連からの上申を受けた党本部が承認すれば決定する。

ただ、問題は地元市議の反発だけではない。

「今回の30区での立候補に際して、五十嵐さんは菅直人元首相への相談を全くしていなかったんです。菅さんも『俺は聞いてない』として特に協力する気はないようです」(前出・都連関係者)

立憲民主党は恐ろしい」

さらに、武蔵野市は1人区のため、五十嵐氏が辞職するとすぐさま都議補選が発生する。松下玲子氏が東京18区で立候補するために武蔵野市長を辞職したことで発生した昨年12月の武蔵野市長選では候補者擁立が遅れたこともあり、自民党系の候補に敗れたばかりだ。衆院選に加えて都議補選も行われるとなると武蔵野市でも立憲民主党は大混乱に陥ることが明らかなのだ。

再び、前川氏が語る。

「五十嵐さんは30区の地理もわからなければ私たちの抱えている課題もわからない。時間があったんだから少しは勉強してくるべきでしょ。本当にここまでないがしろにされるのは情けないです」

その上で、こうした候補者擁立がまかり通ってしまう立憲民主党への失望を口にした。

「都連も五十嵐さんも我々には全く説明もなければ理解を求めることもなかったです。それどころか、五十嵐さんのことを一切知らされないまま支部長に決められていた可能性まであったわけです。立憲民主党というところは恐ろしいです。民主主義もないんですから」

新代表に野田佳彦元首相が就任し、政権交代を目指すとしている立憲民主党。結党の理念である「ボトムアップの政治」の欠片もない現実に向き合うことができるのか。野田新体制はいきなり正念場に立たされている。

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