「ストレスで、片付けられなくなった」ゴミ屋敷のきっかけとは… 業者「誰にでも起こりうる、恥ずかしいと思わないで」
ゴミ屋敷…山盛りのゴミや不衛生な環境を見ると驚愕してしまいますが、その背景には、仕事の疲れから家で何もする気がなくなってしまった人、職場での嫌がらせから心を病んだ人、人に裏切られ借金を負わされ病気になった人、幼い頃から片付けられない人とそれぞれの事情が…。
【写真】ゴミ屋敷の依頼主に、そんな状況になった理由を聞くと?
関西一円でゴミ屋敷の片付けや不用品回収、特殊清掃などの業務を担う株式会社スッキリン(兵庫県西宮市)では、依頼主のインタビューなどを通じて、ゴミ屋敷へとつながった背景にも焦点を当て、YouTubeやInstagramで公開しています。
「孤独死・血痕」「生活保護で急死」「害虫の巣窟に」「失踪した妹」「ゴミの上で孤独死」「ペットが埋もれる…」といったタイトルは、センセーショナルながらも、観ていくと、実はちょっとしたきっかけで誰にでも起こりうることではないかと思える事態。
同社代表取締役の西岡巧貴さん、現場責任者の池上尚吾さんに現場や業界についての話を詳しくお聞きしました。
ゴミ屋敷になりやすい人の傾向は…
ーーゴミ屋敷化する背景とは?
「大量のペットボトル、屋根まであるゴミの物量、捨てられたタバコなどゴミ屋敷はパターン化していくのですが、その状況に至るまでの心理状況や家庭環境、仕事・職場の環境は多様化しており、ゴミ屋敷化していく一因になっていると考えています」
――心身をめぐる様々な状況からゴミ屋敷になっていくのですね。
理由なくゴミ屋敷になる人はいません。現場では都度、清掃作業の段取りを組むためにもご依頼の背景や、生活スタイル、お仕事のこと、家庭環境などご様子を伺いながらお尋ねしていきます。
なかでも、ストレス状態の兆候が「片付けができない」「ゴミが捨てられない」という部分に現れてしまったり、抑うつ状態になってしまった方ほどゴミ屋敷になりやすい印象です。もともと片付けることが苦手であっても元気な時はできているのに、ストレスが溜まるとどんどんできなくなっていくようです。また、先天的に片付けが苦手な方もいらっしゃり、発達障害や脳の特性が「片付け」の分野でネガティブな方向に顕著に現れてしまう方も多いです。
――動画の中には警察を呼ぶことになった案件も。
はい、当初は「ゴミ屋敷の不用品全回収」のご依頼でした。家はすべてゴミで埋め尽くされており、もともとはご両親が片付けが苦手ということでした。遠方で就職するにあたり、実家仕舞いを兼ねての不用品回収案件でしたがその作業最中に人骨が発見されて…。10年前に失踪されたお母さまであったことが判明しました。
こういったケースは警察で処理されることから公開されることなく、ニュースなどに取り上げられることがほぼありません。その他にも認知症や精神疾患によりゴミ屋敷化した高齢者宅で行方不明になった方が遺体で発見されるケースもあります。
――先日も警視庁から2024年1〜3月(暫定値)に自宅で亡くなった一人暮らしの高齢者が17034人だったことが発表されていました。
孤独死の現場が増えているという実態については、「近隣の関係だけでは無く、家族内の関係も希薄化してきている」ということがいえると思います。都市集中型の社会が進行し、実家に帰ることや連絡機会が減少し、家族や親世代の状況を把握できていないケースが多くなってきている印象です。
――ゴミ屋敷も孤独死もどちらも個人や身内家族で片付けるのは困難かと。
ですので業者をもっと頼っていただきたいですね。メディアからの報道では現場作業がメインで映されるため、依頼者さまの依頼背景などソフトの部分についてまで世に周知されるきっかけはまだまだ少ないです。
それゆえ、恥ずかしさや近隣への体裁もあり、相談や依頼に対してのハードルが高いままになってしまっているのではないかと考えています。
片付け完了、その後に大事なのは?
――勇気を出してぜひヘルプを出してほしいですね。
弊社では、片付け完了後の依頼者さまのメンタルケアまで意識して仕事していくことを心がけています。実際に現場で依頼者さまに接していると、何かしら治療や心のよりどころ、ケアが必要な方もかなり多いと感じます。
ご相談いただければ、依頼者さんとコミュニケーションを取る機会を増やしながら、お家の片付けを通して一緒に解決策を探っていきます。
――具体的にはどのように手助けを?
場合によっては、生活保護を受給するための窓口や、高齢者であれば地域包括支援センター、児童相談所など専門の窓口に繋ぐこともかなりあります。
そして、ゴミ屋敷や汚部屋は再発率が非常に高いです。弊社では東京大学医学部卒の臨床心理士と業務提携しており、臨床心理士による継続的な心のケアも可能です。
――片付けにまつわる困りごとをすべて請け負ってくれるのは本当に心強いです。
「片付け」の領域に関してはまだまだ表出していない問題が多いです。ソフトの部分についてまでSNS等を通して動画で詳しく発信していくことで「ゴミ屋敷になることは特別なことではない」「誰にでも起こりうること」という認識を周知していき、気軽に相談してもらえるような社会にしていきたいですね。
現在動画で公開させていただいている依頼者さまたちも「同じように悩んでいる人に何か伝わることがあるなら」といった理由でどの方もご協力くださっています。相談のハードルを下げることで、依頼者さまの抱える問題に触れていくきっかけを増やしていきたいと考えています。
認知されていない「隠れゴミ屋敷」も?
メディアでも度々話題となるゴミ屋敷。環境省の『令和4年度「ごみ屋敷」に関する調査報告書』によると、全国1741市町村を対象にしたゴミ屋敷の認知件数は5224件にのぼり、改善した件数は2588件。2636件が改善されていないままとなっています(平成30年度〜令和4年度)。
しかし、「自治体に関係なく潜在的な件数はここに記載のある数字の数十倍にのぼると考えます。リアルでは、戸建てやマンションの1階のように外部から認知できるケースはほんの一部であり、ほとんどがマンションやアパートなどで外部に表出しない『隠れゴミ屋敷』となっています」と西岡さんは話します。
そして、同報告書で認知されたゴミ屋敷は、「市からの通報」88.7%、「パトロールによる把握」23.1%、「原因者の親族等からの相談」13.9%、ごみ屋敷自体の「原因者からの相談」9.5%などにより把握されたものと表記されています。
こちらに関しても、「弊社での直近のゴミ屋敷案件の相談内容を100件調査しましたが、外部からの相談:内部からの相談=1:9程度の割合となり、環境省の統計データとはほぼ真逆の件数傾向となっています。故に、行政が認識しているゴミ屋敷の件数推移と本業界におけるリアルな件数推移とではやはり大きなギャップがあるのではないかと。そういった認識の齟齬をすり合わせていくためにも、もっと産官での連携をとってゴミ屋敷の問題に踏み込んでいく必要があると考えています」と行政調査との比較見解も教えてくれました。
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「なぜゴミ屋敷になってしまったのか」「どうすれば次の新たな一歩が踏み出せるか」という依頼者の心の部分=ソフト面にも寄り添う必要性があるゴミ屋敷。ただ片付けて終わりではない…そんな課題の提起と、今よりもっと気軽に相談してもらえる社会の多様化に向けて、これからもスッキリンはSNSを通して情報発信を続けていくそうです。
(参照)
■令和6年第1四半期(1〜3月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について(警察庁)
■令和4年度「ごみ屋敷」に関する調査報告書(環境省)
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)