近隣「騒音トラブル」で転居を余儀なくされた… “引っ越し費用”騒音元の相手に請求はできる?【弁護士解説】
今月下旬、SNSで、自宅の庭でビニールプールで子どもを遊ばせていて、「近隣住民に警察に通報された」との投稿が炎上した。一方、騒音被害にあった女性が、その時の子どものはしゃぐ音声をXに投稿。怪鳥のようなはしゃぎ声に、多くの同情の声が集まったーー。
近隣との「騒音トラブル」を解決するポイントできるだけ円滑に近隣との騒音トラブルを解決するにはどんな対応をすればいいのか。逆にしてはいけないのはどんな対応なのか。多くの民事トラブルで実績のある、池辺瞬弁護士に聞いた。
池辺弁護士:近隣の方とコミュニケーションがしっかり取れていないのであれば、直接ご自身で近隣の方に苦情を言いに行くことは避けるべきと考えます。最近では、近隣の騒音問題で殺人事件に発展してしまうケースもあり、トラブルとなる可能性があります。お住まいがマンションの場合は管理会社に相談するなど、当該住居を管理する第三者に相談することをおすすめします。
池辺弁護士:後日トラブルになった場合でも、近隣の方の騒音が客観的にみてどの程度のものだったか確認してもらえるよう、可能であれば騒音計などによって騒音がどの程度のものだったか記録を残しておくことも大切です。
池辺弁護士:避けるべきではありますが、そもそも騒音の発生源が当該近隣の方でない可能性もあります。ですから、自身はどのような時間帯にどのような騒音を聞いているのか伝えた上で、そのような騒音を発生させている可能性があるかどうか、事実確認を行うのがいいと思います。その結果、騒音の発生源が別の方と判明することもあるでしょう。
話した方が騒音の発生源の場合でも、ケンカ腰で話すのではなく、コミュニケーションをしっかりと取り、互いに今後も生活を続けていくことを前提に、お願いベースで具体的に改善してもらいたい事項を伝えるのが良いかと思います。
池辺弁護士:「静かにしなければ殺す」など近隣の方に伝えて脅せば脅迫罪が成立し得ます。共用部分に「◯号室の居住者は何度も注意されていますが、それでも騒音を出し続けています」などの張り紙をすれば名誉毀損罪が成立する可能性があります。このように、犯罪行為になり得るような抗議は当然やってはいけません。
池辺弁護士:この点は、騒音トラブルを理由として損害賠償の請求ができるかという問題ですが、この点については、「受任限度論」という考え方があります。
受任限度論とは、一般的に人が社会生活をするうえで音を発することは避けられないことから、音を発することを一律に違法とは考えずに、社会生活上一般に受忍すべき範囲を超えて初めて違法となるという考えです。
法的に近隣の方の騒音を理由に損害賠償を請求するためには、この受任限度を超えた騒音であることを証明することが必要になります。受任限度を超える騒音が発生していたのか、どの程度の頻度で、どのような時間帯に騒音が発生していたのかを、騒音測定の専門業者に委託するなどにより証拠として残しておくことが重要になります。
冒頭のケースでは、警察通報にとどまっているが、近隣との騒音トラブルで殺人事件に発展するケースもあり、対処の仕方には十分な慎重さが求められる。
池辺弁護士:騒音トラブルが発生する原因として、近隣同士のコミュニケーション不足があると考えられます。同じような騒音が生じたとしても、日ごろから近隣の方とコミュニケーションが取れていれば、日常会話の中で改善を促すことによって、自然と解消されることも期待できます。
逆に、コミュニケーションが取れていなければ、注意をする際も厳しい注意の仕方になってしまったり、注意を受けた側も素直に聞き入れようという気持ちにはならないものと思われます。
近隣トラブルの相手との関係については、近隣トラブルの解決支援サービスを展開するヴァンガードスミス(東京都港区)が調査している。それによると、67%が「顔見知り程度」にとどまっている。
地域でのコミュニケーション自体が希薄する中で、近隣で生活音等が気になれば、ストレスは蓄積される一方だ。2月に滋賀県で起こった近隣トラブルによる殺人事件では、ともに騒音について警察に苦情を伝えていた末の惨事だった。
池辺弁護士も指摘していたように、近隣トラブルのリスク回避のためには、引っ越してきた際の挨拶、顔を合わせればあいさつをして意識的に会話をする等、日常の近隣住民とのコミュニケーションが重要なのはいうまでもない。