12気筒+モーター「EV前夜」のランボルギーニ
最新のランボルギーニ「レヴエルト」を富士スピードウェイで試乗した(写真:Lamborghini Japan)
この先、スーパーカーには、受難の時代がくるのか。大排気量かつ多気筒のエンジンをセリングポイントにしてきたモデルが、電動化の時代に生き残れるのだろうか。
そんな疑問をよそに、いま“ウルトラ”とつけたいスーパースポーツカーが花盛りの様相を呈している。2024年6月に日本で発表された「レヴエルト」も、その1台。
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プラグインハイブリッド(PHEV)システムを搭載し、12気筒で後輪を、2つの電気モーターで前輪を駆動する、新しい世代のランボルギーニだ。
7月初旬に、富士スピードウェイでメディア向けの試乗会が開催され、このクルマをドライブすることができた。そこから、いまとこれからのランボルギーニを考えてみたい。
EV化が進む混沌とした中で
すでにピュアEVモデルの発売を公言しているランボルギーニが、いまあえて12気筒を使ったプラグインハイブリッドのスポーツカーを手がけ、それに6000万円を超えるプライスタグをつける。これが、“いまどき”のビジネスなのだろうか。
エンジンをリアに搭載していることを主張するデザイン(写真:写真=Lamborghini Japan)
プラグインハイブリッドのスーパースポーツとしては、フェラーリ「SF90ストラダーレ」が先陣を切っているし、スウェーデンのケーニグセグが、1700馬力もの出力を持つ「ジェメラ」を手がけている。
バッテリー駆動(BEV=ピュアEV)となると、クロアチアのリマック・アウトモビリによる「ネヴェーラ」や、そのベーシックコンポーネンツを使ったアウトモービリ・ピニンファリーナの「バッティスタ」がある、という具合。このBEVの2モデルは、1900馬力級だ。
多くのメーカーが、2030年をめどにプロダクトのカーボンニュートラル化を目指すとはいえ、状況は混沌としている。しかし、早々とピュアEVに向けて大きく舵を切るメーカーがある一方、エンジンを含めてあらゆる可能性を捨てないと公言するメーカーも存在するのだ。
【写真】ランボルギーニの最新作「レヴエルト」の姿(40枚以上)
電動化と並行して、従来のクルマ好き富裕層のマーケットに向けた、多気筒エンジン搭載モデルに熱心なメーカーもある。たとえばロールスロイス、たとえばフェラーリ――。
2024年に、その名も「ドーディチ・チリンドリ(=12気筒)」と名付けたスポーツカーを発表したフェラーリでは、「少なくとも(EUの規制が入るといわれている)2026年までは、12気筒を作り続ける」としている。
ドーディチ・チリンドリはフロントに12気筒エンジンを搭載する(写真:Ferrari)
背景にある考え方は、(おそらく)いたってシンプルだ。英語でいうところの“太陽が照っている間に干し草を作れ”である。12気筒とか8気筒エンジンの市場があるうちに、「作って売ろう」と考えていても不思議じゃない。
自動車ファンとしては感傷もある。たとえば、マイケル・マン監督の映画『フェラーリ』(2023年)には、12気筒や8気筒の快音を響かせる1950年代後半のレーシングカーが続々と登場してきて、「素敵だなぁ」と昔の自分の気持ちを思い出した。
ランボルギーニは、2023年夏に「ランザドール」と名付けたピュアEVをお披露目した。現時点ではコンセプトモデルだが、2028年には路上を走り出すという。
ランザドールはランボルギーニ初のピュアEVとして登場予定(写真:Lamborghini)
そのときに12気筒エンジンはどうなっているか。予測するのは難しいが、いまのところランボルギーニは、12気筒エンジンをフル活用している。
V12エンジン+モーター×2=1015馬力
新型車のレヴエルトは、これまでの12気筒モデル「アベンタドール」から、上記のランザドールへの橋渡しのような時期に、新開発をうたう12気筒エンジンを搭載して登場した。排気量は、6498.5cc。
しかも、2基の電気モーターも加勢するプラグインハイブリッドで、従来のいかなるモデルをもしのぐ1015馬力(746kW)の超パワフルなモデルとして。
レヴエルトで意識したのは、「技術とドライブフィールの関係だった」と、本社技術部門のトップ、ロウフェン・モア氏が語っている記事を読んだことがある。
ここには、ハンドリングやパフォーマンスを向上させるだけでなく、ランボルギーニらしさを感じられるように、あえて12気筒エンジンの“ラフなフィーリング”を盛り込んだとも書かれていた。
今回、乗ったレヴエルトはブラック×レッドの内装を持っていた(筆者撮影)
この“ラフなフィーリング”がなにをさすのか、私には特定できないが、おそらく運転者の技量しだいで速くも走れれば、トリッキーな動きもする、ということではないかと思う。
昨今の高性能車における、あらゆるネガをつぶして、スムーズな運転感覚を追求するクルマづくりとは異なる思念が、モア氏にあったのだろうか。
とはいえ、である。日本のサーキットで乗ったレヴエルトは、「ウルトラ」とやはりつけてもいいかなと思うほど、スムーズな操縦性を感じさせたのだ。
インテリアは液晶パネルが並ぶスタイルに
ボディデザインは、クルマ好きならすぐランボルギーニだと言い当てられる個性的なもの。フロントとリア、ふたつのセクションを組み合わせたようで、ドアは「クンタッチ(カウンタック)」の時代からのトレードマークといえる、後端が上に跳ね上がるシザードア。
運転席は、しかし従来とまったく違う。液晶パネルがメーター、中央の操作盤、それに助手席と、3つそなわる形となった。これまでランボルギーニは、センターコンソールにスイッチ類を並べていたが、今回、タッチスクリーンに取って代わり、いたってシンプルになった。
ドライブモードやEVの制御の選択は手元のダイヤルで行う(筆者撮影)
ドライブモードの選択は、ハンドルの左スポークに設けられた小さなダイヤルで行う。バッテリー制御(ドライブモードやチャージモードなど)は、右の対照的な位置にある小さなダイヤルで。
走行中は「使いにくいかな」と思ったが、速度がそれなりに高くても、メーターパネル内のドライブモード表示を目視で確認できる余裕があった。きっと、操縦性が安定しているからだ。
けっこうな高速でも、自動車メーカーのテストドライバーがやるように、親指、人差し指、中指の3本でハンドルをつまむように操作するだけで、小さなコーナーが連続するセクションもお手のものだった。
12気筒エンジンは、120kgも軽量化されているというし、パワーアップとともに重量配分も見直されている。
サーキットではいかなる状態でも安定して不安のない走りを見せてくれた(写真:Lamborghini Japan)
ボディ剛性は上がり、ボディ各所の空力特性も煮詰められ、ダウンフォースはさらに強くなった。
エンジンの後ろに設けられた8段ツインクラッチギアボックスには、連続ダウンシフト機能が設けられている。ステアリングコラムから生えている左のパドルを押し続けていると、どんどんギアを落としていく機能だ。
すさまじいまでの変貌ぶりを楽しむ
「チッタ(シティ)」なるドライブモードは、バッテリー駆動のモード。そんなに長くは走れないようだけれど、バッテリー残量がしっかりあれば、発進からぐいぐいと加速していく。
今度は「ストラーダ(ストリート)」に、モードを切り替える。するとV型12気筒エンジンが、一瞬で始動。排気音や機械音も含めた太めのサウンドが、背後から襲いかかるように響く。アクセルペダルを踏み込むと、さらに音は大きくなる。この瞬間が最高だ。
走り去る後ろ姿が残していくエンジン音と排気音も心地よいものだった(写真:Lamborghini Japan)
ストラーダから時計回りにダイヤルを回すと、「スポルト」「コルサ(レース)」と出力が上がってゆく。そしてESC(スタビリティコントロール)がオフになる、もうひとつの「コルサ」も選べる。モードを切り替えるほどにダイレクト感がどんどん増していく印象で、その変わりっぷりはすさまじい。
富士スピードウェイのコースが直前の降雨で濡れていたこともあり、「ESCオフは選ばないでください」と主催者から念を押されていたが、私にはストラーダでも十分楽しめる印象だった。
ホームストレートでコルサを選べば、時速290kmまで体験できた。その先も、まだまだ速度は上がっていきそうだったが、「先行車に追突するのでは」と不安に襲われ、残念ながら(?)そこで断念。
その速度を出している最中も、「iPhoneで速度計の写真を撮りたいな」なんて考える余裕すらあった(実際には撮っていないが)。それだけ安定しているのだ。
一時、ウェットな状況もあったが、それをもろともせずに走るのはさすが(写真:Lamborghini Japan)
ランボルギーニの強みを生かして
日本でのレヴエルトの価格は、6600万円と発表されている。日本では2023年に発表した時点で、すでに多くの顧客がつき、みなデリバリーを心待ちにしているのだと、アウトモビリ・ランボルギーニでヘッドオブジャパンのダビデ・スフレコラ氏は言う。
「日本の顧客は特にランボルギーニへの愛が強いのが印象的です。子どものころからランボルギーニに乗るのが夢だった、と話しかけられることも多々あります。この方たちとの関係を密にしていくことが、製品自体の魅力とともに、成功の重要なカギとなると思っています」
ランボルギーニ・ジャパン代表のダビデ・スフレコラ氏(写真:Lamborghini Japan)
SUVブームである昨今、「クーペは分が悪いと感じることはあるか」との私の質問に対しては、「供給台数や価格の面もあり、レヴエルトの販売に影響しているとは思えません」との答えだった。「おもしろいのは……」、とスフレコラ氏は続ける。
「ランボルギーニのSUVであるウルスとともに所有したいとか、あるいは、レヴエルトが手元に届くまで待ちきれないと、ウルスを購入した顧客がいることです」
ランボルギーニは、自社製品の強みをよく理解している。だから、ハイブリッド化も強みにするし、ランザドールをはじめとしたこの先の電動化も追い風にするのではないか。このレヴエルトは、決してピュアEV時代までの“つなぎ“ではない。ランボルギーニの自信に満ちたメッセージを聞いて、感心してしまった。
【写真】アグレッシブで美しいレヴエルトのデザイン(40枚以上)
(小川 フミオ : モータージャーナリスト)