Image: Associated Press / YouTube

いつかよかったと思える日がきてほしい。

気候変動を起因とする海面上昇の影響で、中米パナマのカリブ海沿岸に浮かぶ小さな島の先住民が本土への集団移住を始めました。カリブ地域における気候変動による集団移住は初めてだそうです。残念ながら、これが最後にならないのだけは間違いなさそうです。

深刻化する気候変動の影響

300世帯が移住を始めたパナマの先住民クナ族が暮らすガルディ・スグドゥブ(Gardi Sugdub)島は、長さ366m、幅137mの小さな島(サッカー場5個分)で、1300人が肩を寄せ合って生活しています

漁業から観光業まで、海を頼りに生活と文化を築いてきたクナ族ですが、島の海抜が平均50cmしかないため、温暖化によって加速する海面上昇に生活を脅かされるようになりました。

ガルディ・スグドゥブ島のクナ族は、今後数十年のうちに本土へ移住するよう政府に要請されている島嶼コミュニティの第1号です。パナマの沿岸にある60を超える低海抜の島々で暮らす人たちも、クナ族と同じ道をたどることになります。

移住のきっかけは人口過多

気候変動による海面上昇が決め手になりましたが、人口過多で島が機能しなくなったために、クナ族の自治政府は2010年から移住の検討を始めたそうです。

島の中心部から海に向かって放射線状に縦長の家が連なっている集落には、数家族で暮らしている家もあります。島には子どもが遊ぶ場所もなく、生活環境が非常に厳しい状況です。

人口過多は、クナ族の健康や水へのアクセス、子どもの教育にも悪影響を与えていると同島のクナ族のリーダーであるBlas Lopez氏は懸念しています。

ただでも過密状態なのに、海面上昇によって通りや家が水浸しになる頻度が増え、海水温上昇がより強い嵐を引き起こすようになってきました。人口過多と気候変動のダブルパンチでさらに生活が困難になってきたため、移住計画を加速させる必要性が強まったといいます。

そして2017年に、パナマ政府が本土に300戸の新しい住宅を建設することを約束。予算不足などで遅延を重ねた末に、やっと移住が始まりました。限界まで島に残る住民もいるようですが、移住を決めた300家族、約1000人にとっては劇的な変化になりますね。

パナマ政府は、最終的に海面上昇の影響を受ける約3万8000人の住民を移住させる計画を立てています。

移住先が抱えるインフラ問題

移住先は、ガルディ・スグドゥブ島からボートで数分の距離にある、カリブ海に面した先住民保護区内の森に囲まれたヌエボ・カルティ(Nuevo Carti)と呼ばれるコミュニティー 。パナマ政府が1220万ドル(19億円)かけて開発しました。海岸から徒歩30分なので、1時間かからずに一時帰郷できそうですね。

ところが、いざ移住するとあり得ない状態でした。入居した住民の話では、300戸建設された2ベッドルームのプレハブ住宅はほとんどが電気も水道も通っていない状態だったそうです。

さらに、医療やゴミ収集のような基本的サービスは計画すらないらしく、先述のLopez氏は「社会的、経済的、環境的、生態学的なレベルの計画が欠如している」とパナマ政府の計画性のなさを批判しています。

「たまには島に帰るつもり」と話していたLopez氏でしたが、インフラが整っていなかったため、速効で島に戻る人たちもいたのだとか。

海から陸地への移住に対して、クナ族の伝統的な生活様式が尊重されていないと失望する人々もいますが、Lopez氏は陸地への移住は子どもたちがより良い生活を送るために必要と話します。

また、海から森への大きな変化についても、クナ族はカリブの島にたどり着く以前は山や川、森とともに暮らしていたので、適応できると自信を示しています。

微量排出者への不公平な負担

パナマ在住のスミソニアン熱帯研究所の社会科学者であるAna Spalding氏は、クナ族の置かれている状況について、気候変動への寄与がごくわずかであるにもかかわらず、その深刻な影響を受けるのは不公平だと指摘します。

たしかに、気候正義の概念をあてはめると、パナマのような後発開発途上国の住民が気候変動の影響で移住を強いられる場合、大量排出国がコストを負担しなければいけないはずなんですよね。

増え続ける見込みの気候移民

気候変動によって移住を迫られているのは、パナマの先住民だけではありません。アメリカでは、バイデン政権がアラスカ州とワシントン州で3つの先住民グループに移住資金の拠出を発表しました。それでもまだまだ移住を検討している先住民グループが資金提供の順番待ちをしている状況です。

沈みゆく島からの移住を始めているルイジアナ州の先住民、Isle De Jean Charlesは、アメリカ初の気候難民といわれています。

集団移住ではなく、気候変動の影響を受けた気象災害が原因で住む場所を追われたまま元の住居に戻れない人や、引っ越しを余儀なくされた人も、気候難民・気候移民と考えられます。

スイスのジュネーブにある国際組織の国内避難民モニタリングセンター(IMDC)によると、2023年に気象災害によって国内で避難を強いられた人は、世界で延べ2640万人で、過去3番目の多さでした。この数字には気候変動の影響は加味されていませんが、気温上昇に伴って気象災害は激化するため、長期的に国内避難民は増加すると推測できます。

日本も、将来的に海面上昇や気象災害のリスクを避けるために移住を迫られる集落や自治体が出てくるんでしょうね…。

Reference: AP / YouTube , AP (1, 2), Human Rights Watch, CNN, HuffPost, Internal Displacement Monitoring Centre