シニア世代には投資で「一喜一憂」するよりも大切なことがあるという(写真:kouta/PIXTA)

70歳を越えたら「お金に縛られず」「心配しすぎず」「心豊かに」暮らすのが理想、と語るエッセイストの中山庸子氏は、その理想を実現するためにお金に関して「やめる」べきことがあるといいます。

中山氏が自己の経験をもとにたどりついた、シニアのための「お金の作法」とは?

※本稿は中山氏の著書『やめると人生ラクになる 70歳を越えたらやめたい100のこと』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

多すぎる「通帳の数」を減らすとラクになる

実家にひとり暮らしだった母が東京に越してくることが決まったとき、どうしてもしてほしいと頼んだことのひとつが「通帳の数、減らして」でした。

リスク回避の気持ちが強い(強すぎる)戦中派世代だから、記されている金額はともかく、かなりの数の銀行や信用金庫の通帳を持っていたので、抵抗はあったみたいです。

ところが、通帳を整理したら、すごくラクになったようで「あなたも早く減らしなさい」(笑)。

正直、母が亡くなったあとの様々な手続きは、想像以上に大変だったけれど、こと預金に関しては口座が一本化されていたので、助かりました。

で、同じころ、夫と経営していた会社の通帳を娘たちに渡し、「経理のおばちゃん」から卒業した流れで、自分個人の通帳も整理しました。

残した通帳の銀行も、スマホアプリで口座の流れをいつでもチェックできるように(指導を受けながら)設定したので、ラクラク安心です。今は、銀行の店舗も減る一方で、最寄りの支店でもかなり遠くなっちゃったから、そういう意味でも通帳やめられたのはよかったかな。

ちなみに、私の経歴として途中までが共済年金(公立高校の教員だった)で残りが国民年金なので、正直なところ両方合わせてもそれで月々まかなえる額にはなりません。ただ、そのことが分かっていたので、働き盛りの頃に「年金型」の保険には入っておきました。当時は「ずっと先のこと」と思ってましたけどね。

浪費対策は「クレジットカード」を使わないこと

70オーバー世代にとっては、やはり現金の安心感と使いやすさの感覚は、今さら変えようがない気がします。そして、カードで買うことの警戒心も、それなりに強いと思います。

それもあって私の節約術は「できるだけカードを使うのをやめる」なんです。

例えば、ショップでセールになっているなかなかおしゃれなシャツを買うとすると、財布の中の1万円札を崩さなくちゃならない。できれば、ここで崩したくないな……。

この「……」の時間に冷静になって、色は違うけど似ている感じのシャツ持っているじゃない! と思い出す。買わずに済んでセーフ!

もちろん、本当に目を奪われるほど気に入ったとか、ずーっと探してたイメージ通りのシャツだったら、1万円崩しても構わないんです。セールが罠、半額は悪魔のささやき(笑)。

これがカードだと、あれこれ葛藤する間もなく買えちゃうから、セーフティネットが働かないということです。

ちなみに、私は、クレジットカードも最小限しか使わないうえ、ネットでモノを買いません。さすがに、ホテルの予約とかでは利用するけれど、モノは実物を見ます。

目利きかどうかは分からないものの、自分が本当に出合うべきモノとは、さしで出合って(できれば)現金で買いたい。結果、たいていの購入品と長く気分よく付き合えるから、日割りにしたらかなりコスパがいいんじゃない? というのが私なりの節約術なんです。

定額購入をやめ、買い物は「一期一会」の姿勢で

これまでの定額購入といえば、通販とか頒布会といったイメージでしたが、今やサブスクリプション(略してサブスク)が一大ブームのようです。

前者とサブスクの大きな違いは、その扱うものの範囲の広さ。例えば、音楽や動画配信、本や雑誌、漫画、飲食、ファッションなどなど。

なんと20代の70%はサブスクを利用していて、年代が進むごとに率は下がりますが、60代以降も30%程度の人は何らかのサービスを利用しているようです。

通販や頒布会全盛時代を経てしばらくは、仕事と家事で忙しかった私もいくつかの定額購入をしていました。生活消耗品系が主でしたが、たまには趣味の小物作りシリーズみたいなものも(暮らしの潤い目的に)注文していました。

しかし、たいていカタログに載っているようにはおしゃれに作れず、すぐに次が届いて重荷になり解約も手間がかかり、クヨクヨ。

以降は、小さな会社名義で毎月注文しているもの(飲料や事務用品など)はありますが、私個人での定額購入はやめました。

母が亡くなったあとにも、いくつか入っていたらしい通販の解約に手間取り、サプリや器シリーズなどが箱から出されないまま実家に残っていたのを見つけたりで、流行りのサブスク(例えばお花の定期便など)に興味はあるけれど、これからもシンプルに「一期一会」的にサシで買う姿勢でいきます。

「活用しなくちゃ」「解約しなくちゃ」のどちらのプレッシャーも、今の私にはないのでストレスが減りました。

ただ、動画配信サービスだけは子どもたちが登録してくれたサブスクのおかげで、私のタブレットや夫のパソコンでも懐かしの映画や海外ドラマを楽しめています。

家計簿をつけるのは「時間の無駄遣い」

私にとって面倒なことの代表が、お金に関するあれこれ。夫と有限会社をつくってから、大の苦手なのにもかかわらず経理の仕事をやっていた日々から、ようやく解放されました。

ふたりとも70過ぎた時点で畳もうと思っていた小さな会社は、はじめのほうで触れたように娘夫婦が引き継いでくれました。

苦手とはいえ「これは経費でこっちは個人の支出」というのを、少々どんぶり勘定ながら長年、表計算ソフトでやっていた関係で「引き継ぎも面倒だから、そのうちねー」と言っていた矢先の入院&手術。

決算の時期は待ってくれないので急遽、娘夫婦に任せて、私は「経理のおばちゃん」をやめることになりました。それくらいの経理は、若い人からしたらすぐにコツをつかめるレベルなので、任せちゃってよかったです。

そして何てラクなの? 信じられないくらいの解放感! 本当に好きじゃないのにやってたんだなぁ。

で、その経理作業の個人支出に関する部分が、いわゆる「家計簿」だったわけですけど、その作業ももうやめました。

お得意のどんぶり勘定で、月にどのくらいの現金を下ろせばオッケーとか、季節による水道光熱費などの推移も分かっているから、もう細々つける必要なし!

実際、ほとんど物欲もないから、一応頭の隅にあるのは月々の食費くらいかなぁ。それも、外食をほとんどしないので「これ、おいしい。外で食べたらかなりの値段だよね」と会話する老夫婦にとって、支出の詳細を記す「家計簿」をつける手間の方が「時間の無駄遣い」という気がします。

家計簿なくても帳尻合わせられるのが、シニアの経験値と自負してます。

今さら投資で「一喜一憂」するよりも大切なこと

70過ぎてからは、すべての「おすすめ投資」をやめました。

金融関係の人の「預金のままにしておくのはもったいないですよ」と言ったそばから「そろそろ相続税対策をしないと心配ですよ」が同じ口から出ることに、正直戸惑う私。


「もったいない」にも「心配」にも心は揺れるけれど、もし投資して儲かったとして、今度は節税のためにまた色々お金を動かすなんて、私にとっては意味が分かんない。「増やせ、減らせのどっちなの?」

ほぼ自営に近い小さな会社で自分たちの腕だけでコツコツ働いてきたシニア夫婦に、もう今さらの「おすすめ投資」は必要ないです。それより、まだお付き合いが続いている人との「長年の仕事」を、無理なく楽しんでやって、それに見合った画料や原稿料をいただければ至極幸せ。

今さらの「おすすめ投資」をするより、今後も仕事だけでなくプライベートでもそれなりに「必要とされる自分でいるための投資」、例えば、食事内容の充実や読書で脳の活性化、散歩や体操で動ける体作りなどを大事にしたい。

金融関係のあれこれ「上がった、下がった」をゲームのように楽しめる余裕ある投資に強いシニアなら別ですが、もし今までそんなに経験がないなら、今さら投資で「一喜一憂」しなくてもいいんじゃないかな。

それより「足るを知る」の境地になれば、もっと深く豊かなシニアライフを送れる気がする今日この頃でございます。

(中山 庸子 : エッセイスト、イラストレーター)