安易にSPF50+を選んでいませんか(写真:buritora/PIXTA)

肌の「うるおい」「透明感」とは何か? どうして何種類も液体をつけるのか?

こうしたスキンケアの疑問に、独自の高級化粧品を研究・開発してきた尾池哲郎氏が新著『美容の科学』で科学の視点から答えています。

本稿では、同書より一部を抜粋しお届けします。

知ってるようで知らないSPFとPA

UVクリームでよく見かけるSPFやPA。数字だけをみると、できるだけ高い数値がいいのではないかと思ってしまいます。SPFであれば「50+」、PAであれば「++++」といった最高値を求めがちです。店頭でも、むしろその値の商品しかないのではないか、といったような印象を受けます。

しかしアメリカやオーストラリアなど紫外線対策先進国の保健機関は、そうしたミスリードに警鐘を鳴らしています。SPFは「20」程度、PAは「PA++」程度は必要ですが、それよりも高い50+や++++はオーバースペックとしています。

理由は3つあります。

1.日常生活における防御効果は十分にあるから

米国FDA(食品医薬品局)は、日常生活においてSPFは15以上、PAはPA+以上あれば十分であるとしています。SPFは肌に届くUVの量を表しており、たとえばSPF15はUVが15分の1(7%)しか届かないことを表します。SPF20であれば5%にすぎません。日常的な紫外線対策であればSPF20で十分なのです。実際にFDAの調査では、SPF50を使用した人が特に優れた効果を得ている証拠はないと表現しています。

2.高価だと少なく塗るから

専門家が特に心配をしているのは、ユーザーが規定量よりも少なく塗っているのではないか、ということです。実際に調査ではほとんどの人が規定量の4分の1しか塗っていないとのデータもあります。とくに高価なUVクリームを購入した場合はもったいないと感じて塗布量が少なくなりがちです。顔、腕、首、足をカバーするには30gは必要ですが、日本には100〜300g程度の小さなボトルばかりです。たった10回で使い切ってしまう量です。オーストラリアのような紫外線対策先進国ではシャンプーボトルのような商品もあるほどです。

3.配合量が多いと肌への負担になるから

SPF50+のような商品には当然、それ相応の紫外線防止剤が配合されています。特に酸化チタンや酸化亜鉛のような粉末の場合はクレンザーのように粉末で肌をこすることになります。

しかもUVクリームは2〜3時間ごとの塗り直しが必要です。そのため皮膚科医等の専門家は「ポンポンと押さえるような」塗布方法を推奨しています。また多すぎる紫外線防止剤は、乾燥を早めたり、肌の油分を取りすぎることもあります。

数値で示されると数の大きいものを選びたくなりますが、必要な値をクリアしていれば問題ないのです。紫外線も、十分理解すれば恐るるに足らず。適切にかわし、しっかり防御して、美肌を長続きさせることが可能なのです。

そもそも「酸化」とは?

紫外線は2つのメカニズムによって肌を攻撃します。直接的な攻撃と、間接的な攻撃です。

直接的な攻撃:UVのエネルギーによって物質の結合を直接切断します。

間接的な攻撃:UVによって発生したラジカル(酸化力を持った成分)が物質の結合を切断します。

どちらも一言でいえば「酸化力」による結合の切断です。スキンケアでよく目にする言葉ですが、酸化とはそもそもどんな現象なのでしょうか。


短い波長で細かく振動している紫外線が、たんぱく質や遺伝子など長く連なった化学成分に衝突すると、その大きなエネルギーによって結合を切断することがあります。これが紫外線の直接的な「酸化的切断」と呼ばれるもので、この現象を一言で「酸化」と呼んでいます。日常の分かりやすい例をあげると、紫外線による服の退色です。多くの染料は、化学成分の結合によって特定の色を吸収することで発色しています。この結合部分に紫外線が衝突すると結合状態が変わり、それにともなって色が変わります。

間接的な攻撃の場合は、紫外線はまず水などに吸収され、酸化力を持つ粒子(ヒドロキシラジカルなど)を生み出します。このラジカル(酸化力を持った成分)がたんぱく質や遺伝子を攻撃し、結合を切断します。これもラジカルの酸化力によるものです。

ビタミンより日焼け止め

こうした紫外線やラジカルの酸化力に対抗するためには、ビタミンなどの体内の還元力によって打ち消す方法もあるのですが、体を酸化させるものをそもそも入れない、発生させないという対策がもっとも効果的です。だからこそ、こまめに日焼け止めを塗布するという、従来の方法がいちばん適切なのです。

(尾池 哲郎 : 化学系ベンチャー・FILTOM研究所長)